『イスラムを生きる人びと — 伝統と「革命」のあいだで』

川上泰徳 岩波書店 2012.3

そもそもムスリム同胞団とはどのような組織なのか。
それを知りたいと、二冊の本を選んだ。
その一冊が朝日新聞中東支局長、川上さんのこの本。
とても力のこもった、素晴らしい本だった。

友人とエジプトやシリアの話をしていて、
同じ一神教でもイスラムがキリスト教と違うのは、
生活のあらゆる部分がイスラムの規範に即して行われることだ、
と説明してみた。
彼女曰く、それは中世のキリスト教も同じでしょうと。
いや、それがまったく違うんだよ、という具体例満載なのがこの本。

それから、「平和のイスラム」と「戦いのイスラム」という、
二方面からの取材。
ムスリム同胞団の社会活動はまさに「平和のイスラム」。
川上氏の同胞団に肩入れした発言の理由もわかる気がした。
これだけ良い側面に接していたら、ちゃんと政権を全うさせたかった、
という気持ちにもなるだろうなって。

あらためて、これだけの組織はつぶせないし、
つぶすのはもったいない、
その意味でも(同胞団自身は内部改革が必要だとは思うけれど) 、
西欧的な宗教分離ではない政治モデルを模索する必要性、
むしろ必然性があるようにも思った。

「戦いのイスラム」では、ガザのハマスを取材した。
ここでは宗教が、戦いの正当化のために、
とっても使い勝手がいい道具になっている。
そういえば日本もこれだったよね、あの戦争の「カミカゼ」。
ちなみに、パレスチナの宗教組織の指導者が、
自爆テロの思想はなんですか、と聞かれて、
それを日本人が聞くのか!?
我々はこれを日本から学んだのに、 と答えている。

前から思っていたことだけれど、ムスリム同胞団というのは、
「平和のイスラム」と「戦いのイスラム」の、
両方を内包した組織だということ。
ふたつの社会改革の手法は、
社会情勢によりどちらも表面化し得るのだ。

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