『古代ローマ人の24時間』

◆古代ローマ人の24時間
 – よみがえる帝都ローマの民衆生活
アルベルト・アンジェラ 河出書房新社 2010.7

これはなかなか愉快な本。
古代ローマ時代を舞台に小説を書くとしたら必携。

何を食べていたか、どんな服を着ていたか、学校や遊びはどうだったのか、
家族や夫婦、愛と性、商店と工房、奴隷制度の実態、コロッセオの見世物、
元老院、裁判所、そして街並みと家の様子…。

・古代ローマ探訪
 – ローマは巨大なキャンプ場

帝政下のローマの集合住宅を探索して得た知識は、今私たちのまわりで繰り広げられている、街中でのローマ人の行動を理解する上での重要な手掛かりとなる。たとえば、なぜローマの通りはこんなに人で混雑しているのか、あるいはこれほどの人々がどこに向かっているのだろうかといったことだ。

ローマの生活を理解する上で有効な方法のひとつは、ローマを巨大なキャンプ場にたとえることだろう。ご存じの通り、キャンプ場でのテントは眠ったり着替えたりするためだけの場所である。テントは小さくて、寝具(寝袋とマット)を置くスペースしかなく、服の入ったリュックかバッグを片隅に置く。トイレもなければシャワーもキッチンもない。身体を洗うときには、キャンプ場の共同シャワーを利用する。生理的な必要を感じたらキャンプのトイレに行き、食事をするときにはテントの前で簡単にバーベキューをするか、地域の軽食堂やレストランを探す。シャワー、トイレ、ミニキッチン完備のテントもあるにはあるが、あまり見かけないうえに大きくて値段も高い。結局、キャンプ場に来る大多数の人が、眠るためだけにテントを使っているのだ。

これは、古代ローマ人の住まいに対する感覚と全く同じだ。彼らの住宅は狭くて暗く、衛生設備もなく、水も台所もない(もしあったとしても、そこでできる料理はバーベキューに近いような、ごく原始的なものだ)。ドムスやインスラの二階に住む少数の富裕層だけはこのような設備を持っていたが、その数は少なく、ちょうどキャンプ場と同様に、家の外に出て公共の施設を利用しなければならなかった。身体を洗うためには公共浴場に行き、用を足すときには通りにある公衆トイレを利用し、食事はポピーナ(現代の軽食堂や居酒屋に当たる)でとる。

このような理由から街中にあふれ出た人たちが、日々の仕事や用事のために出かける人や市場へ買い物に行く人の流れに加わるために、ローマの通りはこれほどごった返しているのだ。

ローマ帝国の首都での暮らしぶりがよくわかるよう、もうひとつのたとえを試みることにしよう。ローマは。究極のところ大きな一軒の「家」のようなものだ。現代の寝室に当たる部屋は、通りに面したインスラの中、トイレ(公衆便所)は別の通り沿い、シャワー(公共浴場)は別の地区にある。そして、台所(ポピーナ)は、さらに別の場所に……といった具合だ。

この比喩的な意味での家には、「サロン」まであった。それはフォルムだ。それ以外にも人々の集う場所は随所にあり、いたるところに散らばっているといえるほどだった。

ローマではふつう、何も用事の無い人が狭くて暗い家の中に閉じこもっていることはない。みんなが外に繰り出すために、通りは混雑する。町中は暇を持てあました人で常にいっぱいなのだ。

つまり、全ての住人がローマの街を、現代人が家を使うような感覚で利用しているのだと考えられる。というよりも、ローマの街こそ彼らの家なのだ。同じようなことが、ローマ帝国のすべての大都市にあてはまった。これこそ、現代の私たちがすでに忘れてしまった都市での暮らし方のひとつの概念といえるだろう。

 

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