エジプト 交渉の動きはあるのか?

今日呼びかけられているデモがどうなるのか。

エジプト:今日のデモが同胞団の運命を決定 (アル・ハヤート 8/30)

「イスラム集団」の指導者であるアッブード・ズマル氏は、政治的解決に至るべく軍の指導部と連絡していることを明らかにしたが、同胞団は次々と襲いかかる治安筋の攻撃の最中、デモへの動員を試みている。

デモ隊が挑発せず、治安部隊も弾圧せず、で終わるのかどうか。

そして、本当に交渉の動きはあるのか。
エジプト政府・ムスリム同胞団秘密交渉という情報 (中東TODAY)

暫定政権側とモルシ支持派の双方に妥協の動きがあると報じたのは
8/27日のアル・ハヤート/ Al-Hayat紙(エジプト 政治的解決の道)。
冒頭の記事もこのアル・ハヤートだ。
この新聞はロンドンに拠点を置くアラブ紙で、
アラブ知識人層に支持されているらしい。

一方中東TODAY の情報は、アル・アハラームという、
政府の公式見解に基づく紙面づくりの新聞によっている。

アルアハラーム紙がムスリム同胞団と政府が、秘密交渉を始めたと報じた。その秘密交渉でムスリム同胞団は、逮捕者の釈放、公正な裁判の実施、資産凍結の解除といったことを、交渉の前提条件にしたということだ。これに対し政府側は、ムスリム同胞団側が社会サービズを中心に活動をし、国家の利益に貢献すること を条件としたようだ。

もちろん、このアルアハラーム紙の報道については、疑問を挟む専門家たちもいる。それはムスリム同胞団内部で、決定に携われる高い地位の者たちが、ほとんど逮捕され投獄されており、政府側と交渉をできる、高い地位の人物がいないからだ。
他方、新政府はムスリム同胞団を解体したい、と思っているわけであり、現段階でムスリム同胞団が、復活出来ることにつながりかねない、交渉をするわけがないという見方だ。

確かに、ビブラーウイ臨時首相はムスリム同胞団を、完全に締め出す方針を、8月17日の段階で語っている。しかし、その後のエジプト国内の状況をみると、いまだにモルシー前大統領支持者たちによる、デモが継続されており、テロも発生している。
そこで政府側は、ある程度の活動の余地を与えることにより、ムスリム同胞団を懐柔しよう、ということではないか。加えて、政府側の妥協的なポーズはムスリム同胞団内部に、分裂を助長する可能性もあろう。すでにムスリム同胞団内部には、穏健路線と強硬路線の二つの流れが、生まれているということだ。

冒頭のアル・ハヤートの記事で政府側と「連絡」しているのが
「イスラム集団」の指導者であるのも、
同胞団側に「高い地位の人物がいない」からだろうか。

大きな犠牲者が出た8月14日の衝突の直前にも、交渉の報があった。
詳しいことがわからないままだったけれど、
今日、こんな記事を見つけた。

エジプト情勢について (水口章:国際・社会の未来へのまなざし 8/15)

シャティール副団長が同意した4点。
(1)モルシ氏は大統領職に戻らない。
(2)解散された諮問議会は復活させず、議会選挙を実施する。
(3)停止された憲法は無効とせず、修正を加える。
(4)公表されないことを前提に暫定政府の行程表に同意する。

同意の条件は次の5点。
(1)拘束された同胞団指導層の段階的解放。
(2)同胞団およびその指導者の資産凍結の解除。
(3)同胞団の認可した市民団体を解散させない。
(4)自由公正党を解散させない。
(5)人権組織に関する新しい法を制定し、同胞団を市民団体であることを承認する。

この交渉は、モルシ氏とシャティール氏自身の拘束解除問題をめぐって成果を得ることができず、8月7日マンスール暫定大統領は、国際的仲介は失敗したと表明した。

やはりアルアハラーム紙からの情報だ。

水口氏の上記記事は、エジプトの政変を「体制改革」「体制変革」
「体制転換」という、三つの政治用語で分析しているのが興味深い。
2011年の1.25革命は、反体制グループ主導による体制崩壊なので「体制変革」。

ところが今回の政変は、当初はモルシ政権内の「体制改革」
を訴えていたのに、モルシ側がその声にこたえず強硬姿勢だったために、
「体制変革」となった、というものだ。
(体制と反体制グループの共同行為によって体制を変えるのは「体制転換」)

この「体制変革」は、東欧民主化革命や「アラブの春」において、
「自分たちの生命や生活が脅かされていると感じたとき、
一般の人々が起こす新しい活動」、「サバイバル・ポリティクス」
と定義されいる。

つまり、長期政権や独裁制が強い体制下で人間が尊厳を持って生きていく上で、最低限必要なBHNbasic human needsが充足できない事への変革運動である。

モルシ政権において、急速に進むムスリム同胞団(支持者およそ1000万人といわれている)の勢力基盤が強化される一方で、国民生活は悪化し、政権への不信感が高まるなかで、サバイバル・ポリティクスが働き、体制変革へと状況が変化していった。
こうしたことに鑑みれば、「民主主義ではなく“デモ”クラシー」であるとの表現や、「市民が感情で動いている」などの分析は必ずしも妥当だとは言えないのではないだろうか。
仮に、モルシ大統領やムスリム同胞団が「市民の声」(タマッルドは請願書への2000万を超える署名を集めた)に応えて柔軟な政策選択を行っていれば、サバイバル・ポリティクスは機能しただろうか。
おそらく、その蓋然性は低く、体制改革で留まっていたと分析できるだろう。

エジプトの今回の「路上民主主義」から始まった政変において、
「改革」要求を「変革」に急進化させてしまったのは、
「改革」を求められた体制側が、強硬姿勢によって、
「サバイバル・ポリティクス」を機能させてしまったからだ、
ということか。

私もしばしば考えた。もし早い段階で、モルシ政権・同胞団側が
「路上民主主義」に応じていたらどうだったのだろうと。
例えば、軍が事態収拾に48時間の期限を切った時点とか。
でも、果たして軍はそれを望んでいただろうか、
もっと言えば、許しただろうか、というのはあるけれど。

今日は他に、明るい気持ちになったブログ記事が一本。
「カイロの街が一気に元に戻った!!!」とのこと。
カオティックな路上風景をこんなに嬉しく読むなんて……。
8月30日 エジプトの回復力に脱帽 (エジプト力がありますか?)

今週の日曜日から夏休みが明け、エジプトの私立学校が一斉に開いたせいでもある。朝から、イキナリ、道路で轟くミニバスのクラクションでたたき起こされ、ガラガラだった道は他人の迷惑を顧りみない2重3重駐車で大混乱。車の間を、3人乗りや時には赤ん坊を小脇に抱えた家族てんこ盛りのバイクが走り抜けてい く。2車線に4台、4車線に6・7台が並んで走る、久しく見なかったエジプト名物交通渋滞が戻ってきた!

【その他の参考】
同胞団政権の国民国家という概念の有無、
所得水準の低い国の民主主義の不安定さは、
経済産業構造の脆弱さにより、資本主義にリンケージしないためである、
といったような指摘。
エジプトの「民主主義」、或いは「アラブの春」の前途
(大和総研 コラム 児玉卓 8/29)

エジプト軍が文民統制との決別を表明、大統領への宣誓文を修正
(ロイター 8/28)

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