慰安婦問題と朝日新聞③ 朝日はこういう記事を書かなくちゃ

前記事に追記しようと思ったけれど、もう充分長くなっているので新記事に。

朝日新聞が、あらためて池上さんコラム掲載拒否と謝罪掲載のいきさつを書いた。
この記事、デジタル版と誌面とでタイトルが微妙に違っている。
デジタル版は、「池上彰さんの連載について おわびし、説明します」。
誌面では「池上彰さんの連載掲載見合わせ 読者の皆様におわびし、説明します」。
「読者の皆様に」と敢えて入れたい気持ちを、私はそこに読み取ってしまうなあ。

さて、たまたま今日、慰安婦問題について朝日はこういうのを書かなくちゃ、
と思わせる記事を読んだので、それについて。
米カリフォルニア州グレンデール市で、公園に設置された慰安婦像の撤去を求めて在米日本人らによって提訴されていた裁判をめぐるものだ。

この提訴、8月4日に、原告は提訴の資格なしと、棄却の判決が下りた。
 icon-chain 「グレンデール慰安婦像裁判で原告の訴え棄却」の判決解説 (macska dot org)

日経新聞も6月4日に詳しく書いている。
 icon-chain慰安婦像の撤去を求める米裁判に黄信号 原告は四面楚歌、アジア系法曹界が挙って提訴に反対

記事では「四面楚歌」として、原告代理人となった米有力法律事務所、メイヤー&ブラウン社(本社シカゴ)が突如、一方的に契約を解除したことや、韓国系弁護士団体だけでなく、日系弁護士団体もこぞって「撤去反対」声明を出したこと等を挙げている。アジア系弁護士団体の声明は、「アジア・太平洋系アメリカ人社会を分断しようとする原告」は許せない、という趣旨である。つまり、「韓国系のみならず、アメリカ生まれ、アメリカ育ちのアジア系2世、3世弁護士たちが挙って、在米邦人である原告の「撤去提訴」にレッドカードを突きつけた」のだ。

また、日本の外務省や領事館も冷やかである。その理由を、ある在米日本人A氏の言葉で次のようにひく。

「この裁判は始まる前から、予測していなかった事態が次から次へと起こっている。原告もそれほど深い考えや戦略があって起こした提訴とは思えない。それゆえ、総領事館は敗訴した場合のことも考えて、あえて支援も支持もしないのではないかと思う。敗訴すれば、それこそ連邦地裁は慰安婦問題でグレンデール市当局、つまり韓国系の主張にお墨付きを与えることになってしまう。あくまでも民間人の訴えであり、日本政府は関与していないというスタンスなのだろう」

最も懸念されるのは、慰安婦論争の米国での再現である、という。

公判が始まれば、グレンデール市側は「言論の自由」を前面に押し出すだろう。一方の原告側は「日米関係にネガティブな影響を与える地方自治体の決定は連邦政府の外交権を保障する米国憲法の精神に反する」との主張だ。となれば、慰安婦像が日米関係に与えるネガティブな影響について、一つひとつ具体的事例を挙げ、立証する必要が出てくる。

これとは別に、公判では当然、日韓政府間で長きにわたって行われてきた慰安婦論争がアメリカの法廷で再現することになる。これには途方もない時間とカネがかかる。終わりのない法廷闘争になりかねない。原告はまさに「トラの尾を踏んでしまった」(A氏)わけである。

当初原告代理人を引き受けたメイヤー&ブラウン社が契約を解除した背景には、恐らく、「撤去提訴」の延長線上にあるより大きな慰安婦論争に手を染めることは社会的にも経営的にもマイナスと見たのだろう。

だが、このような「四面楚歌」にもかかわらず、原告は9月3日、連邦高等裁判所に上訴した。また、「原告側は像に添えられた「日本軍によって20万人以上が強制的に慰安婦にされた」などと記された碑文についても、市議会の承認を得ていないもので、設置の手続きに問題があったなどとして撤去を求める訴えを新たに起こした」(NHK)という。

いい記事だと思ったのは以下、6月14日に週刊金曜日に掲載された小山エミ氏のもの。
 icon-chain 『大日本帝国を擁護する動きに反発を強める日系米国人』(macska dot org)

日経の記事にもあるように、日系人たちは一部の在米日本人のこの提訴に、むしろ反対している。記事では、何故日系人が慰安婦像設置を支持し、撤去に反対するのかを、取材による具体的な声として浮かび上がらせている。

NCRRのキャシー・マサオカ共同代表は、2013年7月に行われた「慰安婦」碑の除幕式にも招かれ、スピーチをした。NCRRは第二次世界大戦中の日系人収容政策に関して米国政府からの謝罪を補償を求めるために1980年に設立された団体で、その要求が1988年に実現してからも、米国や日本における民族的マイノリティの権利と人権侵害是正を推進する活動をしている。除幕式のスピーチで、マサオカ氏は米国政府による公式な謝罪と個人への補償が日系人にとってどれだけ大きな意味を持ったか語り、日本政府がより明快な謝罪と元「慰安婦」個人への補償を行うよう求めた。

また、JACL(日系米国人市民連合)のメンバーでもある別の日系人の女性は、両親が戦時中収容所に送られていたのだが80年代になって日系人収容問題とそれへの補償がメ ディアで取り上げられるようになるまで、両親から収容所生活について何の話も聞かされなかった、と話してくれた。「もし『慰安婦』が大規模な性奴隷的制度 だったのであれば、90年代になってとつぜん国際的問題として持ち上がったのは不自然ではないか」という保守系日本人の意見を聞いて、収容所に送られた経験ですら何十年も恥の意識にとらわれて沈黙させられていたのだから、「慰安婦」として働かされた人たちがなおさら深い沈黙を強いられていたのは不自然ではない、と彼女は感じていた。

そもそも米国において日米開戦と共に日系人収容政策が取られた背景には、日系人は当時の大日本帝国及び日本軍の手先であり、米国籍であっても信用に足らな い、という人種的偏見があった。戦後そうした偏見にはなんの根拠もなかったことが明らかになったが、それから何十年もたったいまも、米国への忠誠心を疑われることが日系人にとっては歴史的トラウマとなっている。あとからやってきた保守系日本人たちが、そうした事情を理解せずに、「日系人」代表のようなふりをして大日本帝国を擁護する運動をはじめたことに、日系人たちがことさら反発するのは当然だった。

アメリカにおける慰安婦問題については、以前冷泉彰彦氏の論説を紹介した。アメリカの人たちは、過去の悪しき日本と現代の友好的な日本をしっかりと区別している。ゆえに彼らは、過去の軍国主義日本がしたことを、何故現代の民主国家日本の国民が擁護するのか理解できない。擁護する人たちは軍国主義日本の復活を望んでいるのか、ととらえる。また、慰安婦問題に関しては強制性の有無と関係なく人権問題であるとの認識なので、下手な言い逃れは逆効果しか招かない。彼らの批判は、過去の行いではなく、今現在の行いに対して為される。慰安婦問題は、現時点ではアメリカのメインストリームでは問題化されていないが、日本の反応が「間違って行く」ことが重なると(あの時点では橋下発言などがあった)、今後問題化するかもしれない、というものだった。

冷泉さんが危惧したように、その後日本は「間違い」を重ね、すでに国連の勧告まで出るに至っている。裁判の上訴で一層厳しい見方をされるのは必至だろう。この提訴では、市側は、カリフォルニア州法の反SLAPP(恫喝的訴訟)法の適用を求めていたという。こういう法律があるということも初めて知ったのだが、訴訟の意図を恫喝、おどしと規定することも可能だ、ということだろう。

ブログ記事では、訴訟の目的は、敗訴によって河野談話の破棄を日本国内で求めるためのものではないか、とも書かれていた。彼らが提訴を日本での支持や活動を広げるための宣伝活動だと捉えているとしたら、アメリカ(や世界)を甘く見ているとしか思えない。もし本当に裁判が行われたら、慰安婦問題の核心部分と併せて、提訴した側の民族差別まで問題化される可能性もある。そうなったら見ものではあるが、同時に、なぜ日本は自国で彼ら(提訴支持母体は日本だよね)を裁けないのかと、さらなる批判が起きるに違いない(国連勧告もすでにこの点を突いている)。

さて、上記の記事ではもう一つ、日本での、「『慰安婦』碑のせいで日系人たちがいじめにあっている」とする主張を検証している。一部週刊誌も書いていることだが、これは事実なのか。結果は、そのような話は現地では全く聞かれなかった、というものだ。
これについてはさらに詳しい記事が同ブログにあった。

これによると、かれらの「いじめられている」という主張は、誤報、誤認のレベルではない。確信犯的な捏造である。

付記 9/10

今日の朝日新聞掲載の月刊誌・週刊誌の広告、朝日たたきがこれでもか状態。ここまでえげつないと、かえって皆、「もっと大事なことがあるんじゃござんせんか、閣僚がネオナチだと世界で問題化されてる件とか」と思うんじゃないだろうか(希望的観測か)。とにかく、ごく普通の感覚として(最低でも)、「これってなんか異様だよね」というのがあってほしい。

友人に、なんで捏造記事を垂れ流してる週刊誌は叩かれないんだろうね、と訊いてみたら、「あの手の週刊誌はそういうもんだって皆知ってるからじゃないか」とのお答え。う~ん、確かにそういう良識ある人はいるだろうけれど、でもサブリミナル効果というものもある。読売はこれを露骨な読者勧誘の手段とし、他紙・誌も朝日ヘイトの材料としている。そこに慰安婦問題を別次元の問題にすり替える犯罪性があることは、やはり見過ごしていいわけがないように思う。

JBPressで、産経記者がグレンデール裁判について書いていた。
・米国の慰安婦像撤去に向けて戦う日本人
 – これほどまでに大きい朝日新聞の虚報の罪
 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41696
 (リンクは貼りたくないのでURLのみ記載)

この手の記事の特徴は、内容に比してタイトルが扇情的であることである。明らかなのは、この記事は原告側の一方的な主張をそのまま書いているだけで、現地取材など何もしていない、ということである。報道内容としては、上記の日経新聞(6月4日)や小山エミ氏の記事とは比ぶべくもない。

この記事が言いたいことは、「朝日新聞が広め、いまや誤報だと認めた「日本軍が女性たちを強制連行した」という虚報に、グレンデール市も一審判決を下した連邦地方裁判所も依拠していることが鮮明となった。」ということであるが、これこそ全く根拠のない虚報である。現時点で鮮明となっているのは、グレンデール市が設置した慰安婦像が日韓の外交を損ねるから違法であるという訴えに対して、原告にはその違法性を問う資格がない、という提訴棄却理由だけである。

原告は上訴にあたって、碑文の「強制性」と20万人という慰安婦の数を問題化しようとしているが、NHKの報道によると、その内容の誤りについてではなく、「市議会の承認を得ていない」ことを提訴理由としている。

このことからも、原告は日本向けの慰安婦問題矮小化の宣伝材料として提訴したのではないか、とも思えてくる。つまり、棄却は織り込み済みではないのか。そして、原告と100%立ち位置を同じくする産経新聞は、同様の目的に加えてこれを朝日たたき材料にも利用しているわけである。

 

付記 9/13

報道ステーションの慰安婦特集を見た。

何故朝日TVは朝日新聞の誤認を報道しないのか!? との櫻井よしこの記事を文芸春秋で目にして直後のこと。彼女は、アメリカでは新聞が誤報記事を載せた場合、即座に検証委員会を立ち上げ、徹底的に検証し、誤りにはきちんと謝罪する、朝日も同じようにせい、と批判していたが、これは朝日新聞社社長の謝罪記者会見で約束された。今後は新聞マスコミが、自らの誤報や捏造に厳しい姿勢を持てるようになることを期待したい。もちろん、朝日新聞だけじゃなくて。特に、読売と産経の二紙には、「先ず隗より始めよ!!」と言いたい。

報ステの内容は予想以上だった。きちんと当事者に取材しているのも評価できる。韓国の慰安婦を問題化した団体の代表、河野談話の作成に関わった石原信雄元官房副長官や韓国外務省元幹部、クマラスワミ氏、そして外務省の東郷和彦氏。

吉田証言の影響はどれほどあったのか。河野談話作成に当たっては、吉田証言は信ぴょう性が疑われたのでまともに取り上げられなかったという。クマラスワミ氏は、吉田証言はいくつかの証言の中の一つであり、レポートの修正は必要ない、と言い切った。また、産経新聞の論説委員・黒田勝弘氏も「朝日新聞が報道しなくても慰安婦問題は勃発した」と述べた。

東郷氏はかつてアメリカで、強制性について広義・狭義の説明をいくら丁寧に行っても全く理解してもらえなかったと話す。そこで指摘されたのは、強制性に拘る日本と世界の問題意識がどれほどかけ離れているか、ということであった。世界は、戦時性暴力の人道に対する罪として、今、自分の娘が慰安所に送られたらどう思うかと、この問題を見る、50年60年前に何が起きたかではないのだ、と。

強制性の有無などまったく意味を持たない。ここを出発点としなければいけないことが、ようやくマスコミで確認されたかと思う。
加えて言えば、人身売買は当時の国際法でも禁止されていた。「日本には公娼制度があり違法ではなかった」も通らない。人身売買で慰安婦たちが集められ、国(軍)が100%関与した管理売春が行われた事実が、今現在の人権意識によって指弾されているのだから。

 

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