「イスラム国(IS)」対「領域国民国家」①、内戦のその後

シリアとイラクのそれぞれの内戦が、ねじれたまま一体化しつつある。
先日、中東の問題を一気に背負って出現したようなISをめぐって、
遠因であるサイクス・ピコ協定の見直しと、
見直しを迫るイスラムについて、
追記も含め長長と(我ながらナイーブな)記事を書いた。
泥沼の戦争になる可能性も出てきているので、
こちらは情勢を追うメモとして。

 icon-bookmark 二つの対立軸 
 icon-bookmark 2014.9.1 参考情報
 icon-bookmark 2014.9.2 参考情報
 icon-bookmark 2014.9.8 参考情報
 icon-bookmark 2014.9.9 参考情報 アラブ連盟も対IS包囲網で合意

 

 

二つの対立軸

あらたに出現した対立軸「イスラム国(IS)」対「領域国民国家」

大ざっぱに言えば、シリアの内戦は独裁政権対アサドの退陣を求める反政府武装組織の争い、イラクの対立はシーア派政権に対するスンニ派系イスラム主義急進派の争いであった。だが、両地域で戦闘に参加していたISがイラクとシリアにまたがって実行支配地域を広げ、カリフ制によるイスラム国家宣言を行ったことによって、これまでとは異なる対立軸が現れてきた。

シリアの内戦は元々は民主化という政治変革を目指すものであった。イラクの内戦は宗派間対立であった。いずれもその国の内部での主権や政治権力をめぐるものだったのが、ISは二国間の国境をまたいだ別の国を作ってしまったのだ。ゆえに、対立はISと元々の二か国との領土争いとなる。

IS対周辺国と米欧の対立もまずは利害をめぐってのものである。いずれの国も、シリア・イラクが親周辺国であり、親米欧国であることを求めている。ゆえに、いずれの国とも親和性が低い急進的なイスラム国家の存立を許容できない。

ISが浮上させた一番大きな問題点は、目前のものとしては100年間にわたって引かれていた国境線の不当性である。また、カリフ制イスラム法はただ一人のカリフの下に一つのイスラム共同体を構想するものなので、ひいてはイスラム国家間に現存する国境線の否定をも言い出すかもしれない。あるいは実力行使でじわじわとそれを行おうとしているのかもしれない(実際に次はヨルダンだ、と言っているらしい)。こうなると、「イスラム国」対 全(イスラム)「領域国民国家」という対立軸も出てくる。

米欧が、これまでにない脅威だとあわてだしているけれど、多くの人が、バグダーディーがカリフ就任宣言をした時点で、ISをイスラム過激派だとかテロ集団だとか言っていてはことの本質を見誤ると指摘していた。彼らのラディカルさは、暴力性にだけあるわけではないからである。

既に成立し、国際秩序の下にある「領域国民国家」は、ISを許容できない。だがその「国家」内部で不満を募らせていた人々はどうであろう。グローバルでありアナーキーである人々は、イスラムに限らず存在する。私は前記事で、ISの戦士5万のうち2万ともいわれる外国人を、イスラム移民二世三世の欧米からはじき出された人々だと書いたけれど、その様な人々ばかりではない、と指摘する人もいる。それもあるだろうと思う。

米人ジャーナリストを斬首処刑したのは英国人ラッパーである可能性が高いという。彼はロンドンの高級住宅街に住んでいた。差別と偏見に追い落とされた「カースト」にはいなかったように思える。でも、ラッパーの心性というのもあるわけで、それは必ずしも数値化・目視化可能な、たとえば成功の値(住街区や収入)や社会認知の値(学歴や職歴など)に依るわけではないだろう。

しかし、構成人員の三分の一が外国人というのは深く考えさせられることだ。この人数を、ISは現地で人気がないから外国からリクルートせざるを得ないのだ、おまけにリクルートが巧みだからである、と片づけてしまっていいのだろうか。彼らは帰国後テロ活動をするだろうと、パスポートはく奪などを言い出しているけれど、それが逆効果を生む、ということもあり得る。

 

シリアとイラク内部に相変わらず存在する対立軸

イラクのISの内戦激化でまず言われたのは、国家三分割の危機であった。シーア派地区とスンニ派地区、クルド人地区である。クルド人は両国と、トルコやイランにも住んでおり、それぞれ独立問題を抱えている。当初、ISを抑えるには、イラク政府がクルド自治区とどれだけ協力関係を築けるかだ、と言う人がいた。実際北部の油田制圧など、クルドの存在感はイラク政府をしのぐものがあったし、今また少数宗教弾圧と人道支援をめぐって、アメリカの北部空爆と、クルドへの武器・資金援助を引き出してもいる。イスラエルはすでにクルド支持であるし、分離独立が具体性を帯びてきたようにも見える。米欧及びクルドを抱える周辺国、そしてイラクは、クルドの独立をどう受け入れるのか、あるいは双方どのような合意に至るのか。

ISの勢力拡大には、シーア派マリキ政権に反発するスンニ派と旧バース党員も力をかしているのではないかと、これも当初から指摘されていた。でなければこれほどスムーズ ? に行くわけがない、というのは頷ける気もする。とすると、今後の彼らの動きはどうなのか。さらに、部族という単位も考慮に入れる必要があるのかもしれない。

シリアにおいては、内戦状態が三年半も続いている。目の前に驚く数の難民や避難民がいる。シリアの停戦の落としどころを、対ISをてこに探れるかどうか。アサドは、断りもなくシリアを空爆するのは内政干渉である(言ってることは正しい)と声明を出した。したたかである。

 

 

参考情報 2014.9.1

米国が「イスラム国」攻撃で各国に協力要請、多国籍軍編成も視野 (ロイター8/27) 

イラク政府はロシアからヘリを購入、ドイツはクルド軍ペシュメルガに対して、対装甲車用ミサイル30発、機関銃数千丁を供与すると発表。イランも革命防衛隊数千人を北部イラクに送ったとの報。
ロシア製新型攻撃ヘリの到着(イラク)(中東の窓)
イラク情勢(8月31日)(中東の窓)
ドイツがクルド部隊に武器供与へ 外交政策を大きく転換 – 47NEWS (8/31)

EUがISに対する立場を表明
IS関連情勢 (中東の窓)

EUはISに関して次のような立場を表明した
  イラク、シリアにおける暴力行為を非難する
  イラクに対する軍事支援の供与を支持する
  欧州における過激主義に反対し、欧州人旅行者に過激派に参加しないように呼びかけることを支持する
  シリアの不安定とアサド政権の野蛮な行為がISを育てた
  シリアの早急な政治解決を支持する
  総ての政治勢力を含むイラク新政権の早急な成立を支持する
  すべての関係者に対し、ISから石油を購入しないように呼びかける

またこれも、異教徒女性売買と併せて、ネガティブキャンペーンに利用されるだろうニュース。でも、きっと、ISの全ての行為はネガティブフィルターを通って提示されるのだ。とはいえ、これを読むと、正直いって、IS=ポルポト派説に傾いてしまうなあ…。
イスラーム国がシリア国内支配地域にて学校の教育課程統率に乗り出す (al-Quds al-Arabi紙) (日本語で読む中東メディア 8/29)

しかし、イギリス人元ラッパーは、音楽芸術教育禁止を受け入れられるのか !? 5分の二の外国人は、世界の半分の女性に対する「中世的」(ここは同意する)対応が21世紀の国作りに叶うと本気で思えるのか !? あるいは、自分たちはいずれ帰国するから関係ないと、割り切っているのか !? 素朴な疑問がむくむくと湧きあがる。

そういえばこんな記事もあった。
「イスラーム国」の戦闘員の待遇(中東かわら版 8/25)

これによると、シリアの IS 戦闘員の多くはシリア人「傭兵」である。一人400ドルの月給は国民一人当たりのGDPが約3300ドル(2012)のシリアでは高給であり、「このような戦闘員は、組織や政治・宗教思想への帰属意識が希薄で、目先の戦局や資源獲得の可能性によって容易に所属を変更していると思われる」とある。「こうした情報から、シリアで活動する戦闘員がもはや「独裁政権の統治や弾圧により蜂起を余儀なくされた善良な人々」ではなく、経済的誘引で雇用される傭兵や外国籍の犯罪者・テロリストの類であるとみなすことができる」という。

外国人戦闘員が犯罪者・テロリストだとどうして断定できるかは不明だし、そもそもテロリストという言葉を短絡的に使うこと自体に違和感を覚えるけれど、興味深いレポートではある。何故戦争が終わらないか、に、「金」があるのは確かだからだ。ただしシリア人傭兵に関しては、武器商人とは違って、内戦で他に仕事がないという苦渋の選択だろうことも想像できる。

となると、彼らの資金源を断つことがかなり重要ではある。では、イラク政府とクルドへの武器及び資金援助はどうだろう。「傭兵」のISから反IS「転職」にはつながるかもしれないけれど、そうやって稼げる状況を作り出すことが、果たして紛争終結につながるのか、という疑問は変わらずに残る。そして、周辺国や米欧の資金援助で潤ったのが IS でもあったという反省は、どこかに活かされるのであろうか、という疑問も。 

 

 

参考情報 2014.9.2

ISとTwitter で舌戦 –「ツイッターは良くも悪くも、いわゆる嫌みや皮肉、侮辱的な発言に向いたプラットフォームだ」
これって、へたしたらイスラムヘイトスピーチになるんじゃないのかな。 ISに惹かれる人たちをひきとめるより、もともとあったイスラムフォビアの強化になるような。いずれにしろメディア戦はとうに始まっているんだから、いずれの情報も丸飲みしたらいけないということを、もう一度肝に命じておこう。
イスラム過激派とのツイッター戦争に挑む米サイバー戦闘員 AFPBB News 
イスラム国と米国人の接触「すでに数百人単位」 米議員 AFPBB News   

「国連人権理事会は、全会一致でISの人権侵害調査のための専門チームをイラクに派遣することを決定した。」
IS関連情報(中東の窓 9/2)

 

 

参考情報 2014.9.8

欧州、帰国後のテロ警戒 「イスラム国」へ数千人が加勢:朝日新聞デジタル (9/3)
シリア:「ダーイシュ」がサイクス・ピコ協定で定められた国境を廃止(日本語で読む中東 9/2)
シリアで拘束の日本人男性、変転した人生の再出発 | ワールド | 最新ニュース | ニューズウィーク日本版(9/3)
オバマ大統領「イスラム国の弱体化が目標」 国際的な対応も – WSJ (9/4)
オバマ米大統領、イスラム国打倒に向け国際的連携を呼びかけAFPBB News (9/6)
中東の窓 : イラク情勢(6日) 
中東の窓 : IS関連情勢(9/6)
『トルコ苦渋の妥協はエルドアンを救うか』-中東TODAY (9/7)
過激派見張り役が帰国後犯行=ユダヤ博物館銃撃−仏人元人質 (時事ドットコム 8/7)

 

 

参考情報 2014.9.9

なぜ海外からISに参加するのかについて、三つの要因があると冷泉さん。対抗策としては、やはりクルド問題とシリア内線の集結を上げている。が、短期的には、対ISということでも、欧米からのIS参加者をくいとめることに関しても、具体的な手立ての提言はなし。というか、いずれも根っこに深い問題が横たわっているのだから、今日明日にどうこうできるものではない。オバマの少し前の発言「まだ戦略が確立していない」というのは正直なところだろう(その後、「支配地域を縮小させ、最終的に打倒する」とは発言しているが)。

アメリカやヨーロッパから「ISIS」への志願者、その背景は? | 冷泉彰彦 | ニューズウィーク (9/9)

第一の要因はイスラム系の移民として生まれた、あるいは育った人々が、欧米の社会の中で有形無形の差別を受けて、反欧米のカルチャーに吸い寄せられてしまうという例です。
ここ数十年、イスラム系の移民が増加しているヨーロッパにおいて顕著ですが、アメリカでも例があります。

第二の要因は、特にアメリカの場合ですが、軍人やその周囲の人物で、イラク戦争やアフガン戦争に関与する中で、心の傷を受けると同時に反米思想に接近していったというケースがあるようです。
具体的にはバラバラですが、アメリカの軍に関係する中で「戦争の闇」を実感して反米に傾き、そしてISISに引き寄せられていったというケースです。

第三の要素としては、これは要因と言うよりはテロリスト募兵の手段ですが、とにかくSNSなどインターネットの使い方が上手いわけです。インターネットを 通じて、敵国の世論を沸騰させたり、反対に恐れさせたりといった世論操作もさることながら、個々の「不満分子」を自分の陣営に引っ張り込むためのコミュニ ケーション術は洗練されています。

(オバマ政権の対抗策としては)一つの考え方としては、イラク政府、イラン政府、NATOがしっかりと連携をして、その枠組の中でクルドの自治を認めるということ、つまりISISの周囲を外交によって固めることが必要と思います。その次の問題としては、シリアが鍵になりますが、ISISのエネルギーを止めるには、シリアの内戦を終わらせ なくてはならないわけで、非常に難題であると同時に注目点です。シリア問題にはロシアも絡んでくるだけにいっそう複雑です。

仏国籍の900人、イラクで「イスラム国」に参加か=仏内相 – WSJ (8/13)

対イスラム有志連合の中核は、米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリア、トルコ、イタリア、ポーランド、デンマークの10カ国となるようだが、アラブ連盟も、米欧との協調路線で合意した。
イスラム国:アラブ連盟が包囲網の構築に前進  毎日jp (9/8)

アラビ事務局長は会合で「イスラム国の勢力拡大は既存国家の存在に対する挑戦だ」と述べ、軍事、政治、経済などあらゆる面で対決する姿勢をとるよう 加盟国に要請。将来的に加盟国が共同で軍事介入する可能性にも言及した。加盟国は、外国人戦闘員や資金がイスラム過激派に流入するのを阻止することでも合 意した。アラブ連盟には22カ国・機構が加盟しているが、シリアのアサド政権は資格停止中となっている。

また、エジプトのシシ大統領は7日、サウジのサウド外相らと会談。イスラム国を念頭に「地域の安定を取り戻すため、テロ対策などで国家の枠を超えた協力を強めることが重要だ」と述べた。

地上部隊の派遣はしない、とオバマは断言している。とすると、アラブ連盟国がそれを担うことになるのか。サウジやエジプトが、この機会に自国の反政府勢力の力も削ぎたいと思っていることは透けて見えるけれど、では、自国の利益を超えて、どこまでシリア・イラクに軍事的介入を行うつもりでいるのか。アラブ・イスラムがアラブ・イスラムと戦うのは、米欧には都合が良かろう。だが、ISがアラブの土地に突然出現した新国家と言っても、イスラエルとは違う。国内には米欧の軍事介入に反発する国民感情があり、それがアルカイダなどを勢いづかせるという懸念もあろう。もう一つ、当初対IS包囲網で呼びかけられていたトルコの名が出てこない。何故だろう。

 

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