海を渡る難民 アフリカ・中東からイタリア・ヨーロッパへ

地中海を渡る難民船の遭難が続いている。
3日にイタリア最南端の島ランペドゥーサ近海で500人が乗った船が沈没、
死者は300人を超えた。
11日には再びランペドゥーサ沖南100キロほどで同様の事故。
難民の国籍は不明。
イタリア沖で難民船転覆 200人以上を救出 (CNN 10/12)

こちらは12日のこと。捜索により発見され、
ゴム製のボートや漁船など4隻から計約452人が救出された。
新たに移民船4隻の452人救出 イタリア沖 (CNN 10/13)

国連は生存者の情報を引用し、11日に転覆した船には最大400人のシリアやパレスチナの住民が乗っていたと述べた。

今も昔も、地中海は優れた”道”

日本からは遠い世界の話だと思うかもしれない。
でも、私には大事な地中海世界の話であるし、
ヨーロッパ(ひいては世界)にとって、今までにもまして更に、
今後大きな問題になるだろう話である。

日本は海に囲まれた国だ。
祖先も文化も大陸や南の島から海を渡ってきたけれど、
その海は、どちらかといえば他と我を隔てる海だ。
アジアの東の辺境の島の先には、
茫漠とした人を寄せ付けない水の広がりしかなかった。

けれども、地中海は違う。
海は、古代から人々が行き交う、優れた道だった。
その海をへだてた北アフリカ・中東とヨーロッパは、
日本とアジア大陸とは比べ物にならないくらい、近い世界なのだ。

インド・中国・アラビア半島とギリシャ・ローマを結ぶ、
かつては陸路の中継地だった地域が、今、戦禍にまみれている。
文明の十字路として栄えた都には、シリアのパルミラや、
ヨルダンのぺトラがあった。
一方、海の交易路は北アフリカと中東をヨーロッパにつなぐ。
十字路となるのは地中海に浮かぶシチリアだった。

今、不安定さを増している国々は、地中海をぐるりと囲む国々でもある。
チュニジアやリビア、エジプトやレバノン、そしてシリア。
アフリカだけでなく、中東からの難民も、
古代の人々が陸路でなく海路を選んだように、海を渡る。

エジプトのアレキサンドリア沖でもボートが遭難、
12人が死亡、エジプト海軍によって116名が救助されたが、
うち40名がシリア人、72名がパレスチナ人、4名がエジプト人とのこと。
エジプトには10万人のシリア難民が滞在しているが、
エジプトが彼らを抱えきれなくなっている、という事情もありそうだ。
非合法移民船の沈没(アレキサンドリア)(中東の窓 10/12)

難民は生き延びるために、少しの可能性にも命を懸ける。
なけなしの金をはたいてブローカーに船賃を払い、国境越えを依頼する。
少しでも生きやすい地を目指す。
上記記事タイトルは「非合法移民船」となっているけれど、
難民に非合法も合法もない。
ただ、立て続けの海難事故には、
その船の「非合法」性というのはあるだろう。
整備や、定員オーバーなどの問題である。

3日に沈没した船は長さ20メートルとあった。そこに500人。
200キロの距離をこの船がどれくらいの時間で到着可能なのか。
詳しいことはわからないけれど、
船の能力と人間の体力と、ぎりぎりの航行であることは想像できる。

高まる緊急性、限定的な対応

だが押し寄せられる側にも事情がある。
国の対応は常に後手に回るだけでなく、時に非情だ。
難民の数が膨れ上がるスピードが速ければ、対応は追いつかない。
イタリアに今年アフリカから入国した難民は3万人、
すでに昨年の三倍に達しているという。
欧州で難民めぐる議論が再燃、沈没事故で (The Wall Street Journal 10/8)

イタリア当局は、この(3日の)事故で行方不明となっている100人以上の捜索・救出作業を再開した。レッタ首相は、死亡した難民に象徴的な市民権を与え追悼の意を示したが、生存者155人に対しては罰金を科し国外退去を命じた。

サッカーのイタリア1部リーグ(セリエA)のローマのフランチェスコ・トッティ主将らは週末の試合に、「すべての人に生きる権利がある#ランペドゥーザ」 とイタリア語で書かれたTシャツを着て出場した。フランス紙ルモンドは日曜版に、「無関心な欧州の罪」と書かれたキャプション付きで、ランペドゥーザ島に 並べられた遺体袋の写真を掲載した。

難民の玄関口となるイタリアやギリシャ、スペインは、
対策費用をEUに求めている。
だが、国境警備は国家主権に属する問題だけに、
統一した見解に至っていないようだ。
ヨーロッパでは、移民排斥を唱える極右政党も支持を伸ばしている。

一方で、欧州の極右政党は難民規制の強化を唱えている。フランスの国民戦線は難民船の沈没について、EUの指導者らが難民や移民の流入・滞在規制を強化していないことが原因だと批判し、取り締まりを強化すれば、難民は危険な渡航をしないようになると主張している。

ギリシャ、スペイン、イタリアは、ヨーロッパの中でいずれも失業率が高く、
難民にとってはあまり魅力のある国ではない。
イタリアの場合難民と認定しても、その後の手当てが薄い。
数の多さもあるだろうが、「センターで数カ月過ごした後、
難民たちはしばしばホームレスになる」。
多くの難民にとってイタリアは踏み台 (The Wall Street Journal 10/10)

欧州統計局によると、イタリアは昨年1万5715人の難民申請のうち約57%を認めた。これは欧州全体の27%を上回っている。

しかし、長期的な見通しは依然厳しく、イタリアの長引く経済危機で仕事を見つけることは困難だ。同国全体の失業率は12%を越えており、若年層はこの3倍以上に達している。

この結果、イタリアに着いた難民は見つからないようにして北欧諸国を目指そうとする。イタリアの方が難民認定の確率が高くてもだ。

例えば、失業率が5%強のドイツで昨年、難民が認定された比率は30%で、イタリアのそれを大幅に下回った。しかし、認定の申請はイタリアの約5倍にもなっている。

国の能力以上に受け入れ、支援が追い付かず、
あらたな労働力に対応できる社会資本が不足しているイタリア。
可能な支援力や国の経済基盤を見越して、限定的に対応を図るドイツ。
各国それぞれの事情の下に、それでも、何らかの対応をせざるを得ない。
難民流入の増加は、極右勢力が言うように、
「EUの指導者らが難民や移民の流入・滞在規制を強化していないことが原因」
ではないからだ。
そもそも、難民の増加がなんとかならなければ、流入人口も減るわけがない。

極右勢力の祖先たちも、かつて、大挙して北から南に押し寄せた。
ゲルマン民族の大移動というのは、
他民族に押し出された結果の侵略でもあったけれど、
彼らの最低部を為したのは、難民ではないのか。
生まれた場所で生きられなくなったとき、
人は生きるために、移動していくのだと思う。

難民たちは、ただばらばらと散っていくだけではない。
先達や係累をたどり、コミュニティーを作る。
寄りあい、助け合わなければ生きていけないからだ。
そしてたどり着いた先で、共生と対立の新たな問題を生む。
今目の前の問題があり、少し先の問題がある。

地中海でまた難民船沈没、死者多数 (AFP BBNews 10/12)

難民支援団体は過去20年間に欧州に渡ろうとして死亡した難民は1万7000~2万人に上ると推定している。イタリアは毎月数千人の難民が自国に上陸しているとして、今月末にベルギー・ブリュッセル(Brussels)で開かれる欧州連合(EU)首脳会議で難民問題を議題にするよう求めている。

難民が生まれる原因は、気候環境の変動による部分もあるけれど、
なにより政治・経済状況の悪化が大きい。
そして現代の政治・経済状況の悪化は、(欧米)国際社会が様々な理由で、
地域(紛争)に介入してきたことにもよるのである
(植民地時代まで遡り、新植民地主義も加えるべきか)。
その意味で、地中海を渡る難民問題は、ヨーロッパが、
中東・アフリカに近いという単に地理的な問題ではない。
また押し寄せられた一国だけの問題でもない。

追記1 難民認定のその後

極右勢力のことに少し触れた。
最近『ネットと愛国』を読んだせいもあって、
排外主義や民族差別の観点から、
難民たちの認定のその後が気になっている。

イタリアに行くたびに、外国人の数が増えているのを、
肌で感じていたこともある。
この件はまたあらためて書くことにしよう。

追記2 シリア難民のこと

2012年4月に3万人台だったシリア難民は、
今年の1月には50万を超え、
9月にはなんと200万人という数に膨れ上がっている。
国連による予測では2014年末には500万を超えるとのこと。
シリアの人口は2100万人(2012年)だから、
今や国民の10%が難民で、来年にはそれが25%になる、
ということだ。
シリア難民5百万人超す恐れ 国連予測、14年末までに – MSN産経ニュース
難民数と推移 | シリア今すぐ! 緊急レポート – 国連UNHCR協会

 

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