深刻さを増す難民問題–イタリア他受け入れ国も悲鳴~2015.4月

深刻さを増す難民問題–イタリア他受け入れ国も悲鳴~2015.4月

昨年の夏、イタリアに渡る難民やシリア難民について書きかけた記事が、下書きのまま年を越してしまった。

2014年8月の時点で、イタリアに入国した難民は12万人を超えていた。
これまでの最高は2011年、リビア混乱時の約6万人だという。
昨年一年間の数は確認できていないけれど、
10月には、混乱が増すリビアで10万人が難民化したというニュースがあった。
彼らの多くが目指すのは、海のすぐ先のヨーロッパへの玄関、イタリアだろう。
地中海の航海の季節は春から秋、従って難民たちもこの間に増加しているはずだ。

この未曽有の事態に、押しかけられる国はとうに悲鳴を上げていた。イタリアは海からの難民対策に毎月900万(12億4千万円)ユーロを費やし、かねて自国の能力を超えているとSOSを発し、EUが11月からあらたな作戦を始めると表明していた。
難民船対策、EU本腰 イタリアに救いの手(朝日新聞 9/5)

9月のフィナンシャルタイムズの社説から。 

欧州委員会で発足する(対難民問題の)新体制は、3つのポイントを踏まえてさらに大胆な策を講じなくてはならない。

  第1に、EUへの不法移民の状況は悪化しつつある。シリアとイラクの危機を受け、難民の数はさらに増える可能性が高い。リビアの混乱で海の境界の秩序も乱れている。米国が年内にアフガニスタンから撤退し、ウクライナ情勢も混迷の度を深めているため、さらに多くの難民が流入する恐れがある。

 第2に、移民を保護する負担は一部の加盟国にのしかかっている。昨年はドイツ、フランス、イタリア、英国、スウェーデンがEUの難民認定者の70%を受け入れた。だが、東欧をはじめほかの国の寛容度ははるかに低い。

第 3に、EUは経済面での影響力の大きさを生かし、アフリカ諸国が移民の流出を抑えられるようにしなくてはならない。モロッコやチュニジアなど一部の国は EUとの協力に前向きな姿勢を示している。さらに問題なのは、徴兵制を避けるために毎月4000人の若者が逃げ出しているエリトリアだ。非難されるべきな のは同国政権だが、流出を減らすために何らかの協定が必要だ。

 移民問題は大半のEU加盟国で頭の痛い政治問題になっている。EU域内での市民の自由な移動を巡る議論により、各国首脳は域外からの移民を歓迎できなくなった。だが、不法移民は願えばなくなる問題ではないと各国政府は認識しなくてはならない。
[FT]移民、かつてない規模に 負担増す欧州(社説)(日本経済新聞 9.5)

だが、耳にするニュースは対応策の進展ではなく、難民の増加に追いつかない支援や、新たな難民の発生、そして難民たちの置かれた過酷な状況ばかりだ。

想像を絶するアフリカ難民の死にざま(Newsweek2014.7.31)
欧州への不法移民:海から押し寄せる大波 (エコノミスト 7.21)
欧州をめざすシリア難民(1) シリア出国、トルコにあつまる密航希望者たち(朝日中東ジャーナル 7.29)
欧州をめざすシリア難民(2) トルコからギリシャに密航、さらに北へ
(同 8.4)
欧州をめざすシリア難民(3) いくつもの国境を歩いて越え、ドイツをめざす(完) (同 8.12)
地中海で難民700人超死亡か=人身売買業者、船沈める(Jiji.com 9.15)
マルタ沖地中海で沈没した難民船の生存者が語る当時の凄惨な体験(LivedooeNews 9.18)
渡航途中で4万人以上が死亡 移民、難民に密航業者がもたらす悲劇 (AfricaBusiness News 10.18)

難民問題はすでに、受け入れ国の国内問題になっている。

地中海を渡ってドイツや北欧などへの入国を目指すこれらの人々にとって、イタリアのミラノは格好の中継地点だ。このため、華やかなファッションの街の主要駅が大勢の難民で四六時中あふれかえる事態となっている。

ミラノ駅、難民立ち往生 シリア脱出、北欧目指す 1400人寝泊まり(SankeiBiz 10.2)

イタリアは経済問題を抱えている。そこに難民が押し寄せるのだから、貧困層だけでなく、多くの人々は強い危機感を持つ。

イタリアの難民問題①-「もう我慢できない!」-(Rubrica 11.21)
イタリアの難民問題②-難民受入れにいくらかかるのか-(Rubrica 12.12)

別の問題も生まれている。難民を送り出す国に犯罪組織的なブローカーが暗躍するだけでなく、受け入れる国でも難民たちを食い物にする犯罪組織が増長する。難民の数に反比例するように強まる人々の非寛容さも、国のかたちを変えていく。

河村雅隆: 深刻化する欧州への難民流入(名古屋大学:フランス語科のHP 9.20)
イタリア:移民、難民、ロマ食い物…「首都マフィア」波紋 (毎日新聞 12.08)
移民増加に揺れる欧州  イギリス:移民規制強化をEUに求める、実現できなければ・・・離脱?(孤帆の遠影碧空に尽き 12.9)

年頭に流れてきたニュースは、難民移送ブローカーが新たな手法を獲得したことを語っている。冬でも航海が可能な古い貨物船を利用し、近海に到達したら乗組員が逃げ出して(あるいは難民に紛れ込んで)船を意図的に漂流させ、沿岸国の救助を待つ、というもの。この手段では、密航費用が一段と高騰している。

船員のいない難民船が増加、密航斡旋の新手法か(CNN 2015.1.3)
イタリア近海で「幽霊船」相次ぐ 乗組員なし、密航の新たな手口(DMM.com 2015.1.3)

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は声明を発表し、「救助態勢を整えるとともに、危険な航海に代わる合法的な手段を提供するよう努力してほしい」として、ヨーロッパの国々に難民の安全確保のための対策を取るよう求めました。(NHK ニュース 2015.1.3)

伊沖「幽霊船」の不法移民、乗船料は最高96万円(AFPBB News 2015.1.5)

その他の関連記事

シリア難民緊急支援:トルコ南東部のスルチュ郡で調査を進めています|日本生まれの国際NGO AAR Japan [難民を助ける会] (AAR Japan 2014.10.17)
家族社会保障相、「シリア難民女性への罠」を警告 (Milliyet紙 2014.11.1)
トルコ:労働を余儀なくされるシリア人難民の子供たち(al-Hayat紙 2014.11.13)
トルコへ逃れたシリア難民が直面する過酷な現実 | アムネスティ日本(2014.11.21)
シリア人難民を「物乞い」のみと誤解している(Milliyet紙 2014.11.30)
シリア:400万人のシリア人が飢餓に苦しむ(al-Hayat紙 2014.12.6)
シリア:世界全体でシリア難民の5%を受け入れるよう要請 : アムネスティ日本(2014.12.11)
レバノンのシリア難民(1) 町にアパートに故郷を追われる人々(Asahi中東マガジン 2014.12.16)
レバノンのシリア難民(2) 再び故郷を追われるパレスチナ人(Asahi中東マガジン 2014.12.23)
日本と中東の間で 会社を退職しシリア難民支援の道へ 田村雅文さん(Asahi中東マガジン 2014.12.30)
シリア難民の窮状(トルコ)(中東の窓 2014.1.4)

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その後も、目についた関連サイトへのリンクを追加している。

今日読んだ『中東の窓』では、「レバノンが初めて、シリア人に対して入国査証の取得を義務付けた」とあった。1/3のAl Arabiya.netの報だという。シリアからの難民は、今後レバノンへ入るのも、レバノン経由で他国へ渡るのも、難しくなりそうだ。ただし、シリアとイラクの戦乱が収まらない限り、難民の減少は考えられない。闇ルートは一層増長するだろう。

2/13

リビアからの移民ら300人超不明 イタリア沖(日経 2015.2.11)
リビア難民、流入相次ぐイタリア 救助の半面、テロリスト潜入警戒 – 産経ニュース (産経ニュース 2015.2.16)
中東の窓 : シリア難民の悲劇(レバノンのstreet children)(2015.2.17)

3月、4月の報道から

地中海は航海の季節を迎える。
シリア:5年目に突入するシリア内戦――医療施設・医療者への攻撃で援助活動は停滞 | 活動ニュース | 国境なき医師団日本(2015.3.12)
シリア:シリア人難民の数は5,835千人、内85%は女性子供(al-Quds al-Arabi紙 2015.3.15)
貨物船からシリア人不法入国者337名発見、船長を逮捕(Zaman紙 2015.3.13)
1日で難民1500人を救助、イタリア沿岸警備隊 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News(2015.4.6)
時事ドットコム:不法移民、また1000人救助=「まるでタクシー」と右派批判−伊
時事ドットコム:移民船遭難400人死亡か=リビアから欧州目指す−伊

2015.4.12)
CNN.co.jp : イタリア漂着の難民激増 8480人救助、400人不明か(2015.4.15)

4月19日には、地中海で過去最悪となる海難事故が起きた。

リビア沖で難民船転覆、700人死亡か 過去最悪の惨事に怒りの声(AFP 2015.4.20)

これだけの地球規模となっている難民問題に、日本はどのような対応しているのかというと…。

日本の「難民認定」年間11人ーー申請者5000人の大半が認定されないのはなぜ?|弁護士ドットコムニュース (2015.4.7)
初めてシリア人を難民認定 2013年に来日した3人(朝日新聞 2015.3.13)

以下の関連記事もご参照ください。

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