もはや「難民問題」ではない — リビアの混乱に警戒を強めるイタリア

シリア内戦による国外難民は380万人を超えたと聞く。
イラクでは、「イスラム国(IS)」の支配から逃れた人びとや、
政府軍との戦闘や有志連合の空爆によって住む家を奪われる人たちがいる。
ウクライナで発生した難民については、ほとんど情報が伝わってこない。
アフリカではスーダンやソマリアからリビアを抜け、
地中海を渡る人たちの波が途切れることがない。
破たん国家と化しているそのリビアでは、
ISの「フランチャイズ」組織がエジプト人を「処刑」し、
エジプトが報復空爆を行った。
権力の空白地帯リビアに広がる危機は、
そのまま海を超えたヨーロッパを直撃する。
特に航路数時間のイタリアは、難民支援だけでも悲鳴を上げていたのが、
難民に交じってのテロリスト入国の恐れもあって、ついに、
対テロ国際部隊の一員として「参戦」する用意があると表明した。


もはや、「難民問題」というような言葉では言い表せないところに来ているように思う。けれども問題は、そうやって軍事介入を強化すれば、さらに難民が増えてしまうことだ。有効な解決策が見いだせないままに、世界が中世化するような気さえする。

「中世」はこれまで、歴史上の、ヨーロッパで言えば、ローマ帝国崩壊後の時代区分に過ぎなかった。けれども今、ある地域の治安が統率を失い、対立や抗争が広がっていき、広域をカバーしていた安定的な秩序が失われていけば、世界はあっというまに中世になってしまう、そうイメージできるようになってしまった。

しばらく前までは、ローマ帝国の高度に発達した建築技術やインフラが、なぜ簡単に失われてしまったのかが不思議だった。人間というものが、国家制度が崩壊したからといって、それ迄持っていた技術と、その技術によって得ていた都市生活や文明を、何故それほどたやすく手放してしまえるのか。人間とは絶えず技術を進歩させ、豊かな暮らしを目指すものではないのか。技術は受け継がれ、さらに発展するもので、後退するということはあり得ないのではないか、と。

だが歴史は、それはある、と語っていた。そして歴史だけでなく、今現実がまた、それはある、と語っている。

中東の問題は、けっして「中東問題」というような地域の問題ではないのだ。それが植民地主義からグローバル化に至る近・現代と古代との違いだろう。中東に問題の種をまいたのは欧米で、介入によってさらに問題は拡大し深刻化していった。そして地続きの地へ、海を渡ってすぐそこの地へ、さらにはアメリカへも(日本へも)、ブーメランのように戻っていく。「中東問題」も「難民問題」も、地域の問題であると同時に、中東にからむ欧米問題であり、世界の問題なのだと、あらためて思う。

過激派組織IS=イスラミックステートが影響力を広げるなど混乱が深まるリビアから、ヨーロッパを目指して地中海を渡る移民や難民が急増し、この5日間だけでも3800人が海上で救助されました。

リビアでは4年前、独裁政権が崩壊して以降、世俗勢力とイスラム勢力の対立を背景とした戦闘が激しさを増し、最近では過激派組織ISに忠誠を誓う勢力が影響力を広げ、さらに混乱が深まっています。
こうしたなか、リビアの混乱から逃れようとヨーロッパを目指して地中海を渡る移民や難民が急増しており、IOM=国際移住機関によりますと、17日までの5日間だけで3800人が海上でイタリアの沿岸警備隊などに救助されたということです。
救助された人たちの多くは、地中海を航海するには小さすぎるゴム製のボートなどに、すし詰めの状態だったということで、IOMでは「こうした人たちが急増しているのはリビアでの混乱に乗じて悪徳な密航業者が活動を活発化させていることが背景にある」と指摘しています。
IOMによりますと、先週には300人を超える人が航海の途中で命を落としたとみられるということで、IOMでは移民や難民がさらに増える事態に強い懸念を示しています。
混乱深まるリビア 移民や難民急増(NHK 2/18)

 イタリア南部のランペドゥーサ島などには昨年、中東やアフリカから欧州を目指す17万人以上の難民・移民が上陸し、今年は20万人を超すとの予想もある。このため、ピノッティ国防相はIS戦闘員が難民らに紛れて上陸する可能性も「排除できない」としている。

 ジェンティローニ外相は17日、ケリー米国務長官とリビア情勢への対応を電話で協議。18日には紛争の「政治的解決」を訴える一方、(1)停戦監視(2)平和維持(3)インフラ復興(4)民兵の正規軍への統合−−などの国連平和維持活動(PKO)をイタリアが主導する考えを表明した。

 これに対し、ISはビデオ映像で「以前はシリアの丘陵地帯だったが、今、自分たちはローマ南方のリビアにいる」と、ローマを射程に入れたともとれ るメッセージを発信。また、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの幹部はイタリアがリビアに軍事介入すれば「アラブ・イスラム諸国への新たな十字軍だ」と警告したという。
・IS:リビアを南欧出撃拠点に イタリアがテロ警戒 (毎日新聞 2/19)

【参考】
・イタリア:対ISの対テロ国際部隊で「参戦」用意を表明(毎日新聞 2/14)
・リビア難民、流入相次ぐイタリア 救助の半面、テロリスト潜入警戒(産経ニュース 2/16)
イタリアの沖合で大規模な作戦。リビア人避難民2000人の救助に成功 – IRORIO(イロリオ 2/17)
ISのあくどい商売(非合法難民商売) (中東の窓 2/16)

2/25~ 追記

イスラム国(IS)がイタリア、バチカン市国にも脅迫声明。高まる緊張で観光にも影響か。(Biglobe News 2/23)
・イタリアとリビア:海の向こうの脅威(JB Press 2/24)
地中海に殺到するボート難民、イタリアは悲鳴(WSJ 3/12)

日本の難民認定、5000人中11人と先進国中最低 「島国は言い訳にならない」海外から批判(NewSphere 3/9)
・日本に逃れたシリア人3人 難民に初認定 NHKニュース (3/13)➾ 300万人を超えるシリア難民のうち、昨年12月までに日本にたどり着き、難民申請したのは60人、そのうち認められたのがやっと3名とは…。

2015年の難民問題の報道は以下の記事に随時追加しています。
★深刻さを増す難民問題–イタリア他受け入れ国も悲鳴

以下の関連記事もご参照ください。

  アーカイブ:移民・難民問題

  • トップへ戻る
  • カテゴリアーカイブ
  • HOME

コメント

メールアドレスが公開されることはありません。* は必須項目です。


*