コシャリ、ハト、モロヘイヤのスープ…

エジプト二度目にして初めて、国民食とも言われるコシャリを食べた。
食べたものをめぐって……。

◆3月4日

早朝着。
この日はプライベートガイドとカイロを歩くことになっていた。
空港から同行してくれた英語アシスタントが、到着したホテルで、
ガイドAmr(アムロ・日本語可)君と、もう一人Th(タハ・英語のみ)君を、
「ユアーツアーリーダー」と、紹介してくれた。
ツアーリーダー?
知らなかったけれど、ガイディングと旅程管理が役割分担されていたのだ。
客はたった一人なのに、ドライバーも入れるとお供が三人。豪勢なことである。

シタデルとイスラム地区1日ツアーには昼食がついていた。
前回のグループツアーでは全てしっかりしたレストランで食事していたので、
このツアーの昼食もレストランとばかり思っていたら、違った。
まず、何を食べたいかと聞かれた(普通はセッティングされている)。
エジプトの伝統料理、と答えたら、
コシャリか、ターメイヤか…とふられ、コシャリを選んだ。
どちらもファストフードだけれど、初体験だし、まあいいか。

ドライバーおすすめのコシャリ屋に入る。
テーブルにはステンレスのポットにステンレスのコップがひとつ、
調味料らしき瓶といっしょに並んでいる。
ポットにはただの水道水。
ツアーガイドはこの水を飲んだ。
ドライバーも同じコップからこの水を飲んだ。
ガイドは何も飲まなかった。もちろん私も。

コシャリ屋にはコシャリしかない。
モロヘイヤのスープ(前回のお気に入り)なんて、もちろんない。
ビールがないのは覚悟していたけれど、コーラもミネラルウォーターもない。

コシャリとは、ごはんにマカロニや細くて短いスパゲッティ、
ひよこまめにレンズまめが入ったもの、揚げタマネギ(これがうまい)が乗っている。
辛いトマトソースをかけて混ぜながら食べる。なかなかいける。
が、だんだんと食べるのに疲れてくる。飽きてくる。
炭水化物以外のものが欲しくなる。
それでも、もくもくと食べる。空腹だったのだ。

エジプトでは食事があっというまに終わってしまう。
なんといっても、お酒を飲まないからね。
それにスケジュールがしっかりと決まっているツアー、
特に日本人向けに作られたツアーでは、食事時間はあまり取られていない。
が、それだけでもなさそうだと、6日間の滞在で思うようになった。
もしかしたらエジプトには、日常の食事に、会話を楽しみながらゆっくり時間をかける、
という習慣がないのではないか(日本も飲まなきゃ似たようなもの?)。

まあ、コシャリは一気にがしがし食べるものだし、
食べ終わった後のコシャリ屋に、飲み物もなしに居座るのはあり得ない。
中級以上のレストランにはお酒もある(はずだ)し、この限りではないかもしれないけれど、
今回食事を共にしたエジプト人が、なべて皆一目散に食べ、
あっという間に食べ終わるのだ。
そして、食べ終わったとたん、じゃあ行こうか、と、すっと立つ。

イスラム教というのは、美や快に対して独特の定義と規範を持っているけれど、
食べるという快も、他の快と同じように、イスラム法による定義と規範の下にあるのだろうか。
その場で疑問が疑問として形にならず、事例も少なくて結論まで至らず。

さて、イスラムの国で会話を楽しむのに、シャイ(ティー)タイムがある。
街角のいたるところに茶店があり、水タバコとシャイで、
えんえんと座わりつづけ、しゃべり続け、あるいは、
ひたすらぼんやりしているおっちゃんたちを、山ほど見た。
私もこの日、モスクを何箇所かまわった後、車や、オートバイや、
学校帰りの少女や少年たちや、
荷車を押す人や引く人が行きかうイスラム・ロードの茶店で、

水タバコの香りがただようなか、まったりとシャイタイムを楽しんだ。

コシャリ、ハト、モロヘイヤのスープ…
カフェ内部

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向かい側の歩道もカフェの外席

茶店の店内。壁にかけられたのは水タバコのきせる。
椅子と小さなテーブルが歩道に並ぶ。道路を挟んだ反対歩道も店内。

 

◆3月5日

カイロから370キロ、砂漠ツアーの拠点となるオアシス都市バハレイヤ、
ベドウィン族のムハンマド邸で昼食。
マカロニのスープにスパゲッティ入りのごはん、
鶏にトマトベースのソースをからめたグリル、
トマトときゅうりとピーマンの刻みサラダ。
ごはんにポテトとトマトの煮込みグリルを混ぜながら食べる。
みな美味しかった。
あっというまに食べ終わり、シャイ。
ここではシャイを、おしゃべりも、まったりもなしで飲む。
夜はバーベキューだよ、すごく美味しいから楽しみにしてて、とガイドが言った。
現れたのはベドウィン二人。四駆のドライバーMgd(マグディ)と、
助手兼歌手のSmh(サムハー)。
この日もお供三人。

野営地に着くと、ベドウィンは車を支えに風除けの幕を張り、
砂の上に絨毯と薄いマットレスを敷く。
同じマットレスが背もたれとしても置かれている。
その後、この二枚は私とガイドのシングルテントのベッドマットとなった。
ベドウィンのツインルームは風除けの幕、ベッドマットは砂と絨毯。
天井は砂をそのまま宙に撒き散らしたような星空。

食卓は、緑に塗った細長い木のテーブルだった。
四駆の屋根に薪や毛布や鍋と一緒に積んできた、手作りの一点もの。
ポテトチップの袋とアップルサイダー、コーラ、水などがでんと置かれる。

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火をおこすサムハー

暮れていく空を背景にSmhが薪で火を起こすのを、
マットレスにもたれながら眺める。
ぐん、ぐん、と気温が下がっていく。
私は毛のセーターの上にコート、
ひざには日本から持ってきたフリースのインナーシュラフをまきつける。
MgdもSmhも涼しい顔で、傍らで料理を始める。
ポテトとトマトと黄緑の細長いパプリカの煮込み。
燠になった焚き火に格子の炉(昔の小さなコタツみたい)をおき、Smhが鶏を焼く。

プロパンコンロでは野菜煮込みが出来上がり、次にスープを作る。
バサバサっと、袋からパスタを入れる。食べる前にトマトを加えて暖める。
最後にご飯をたく。
たっぷりの油でコメを炒め(もちろん洗わない)、水を加えて煮込む。
ときどきSmhが鶏の焼き具合を確かめたり、ひっくりかえしたりしている。
火が小さくなってきたので格子の炉の四隅を棒切れで叩いて、火に近づける。
Mgdはコメをずっとかきまわしている。
ずいぶん時間がたって、ガイドが、そろそろいいんじゃないのと声をかけ、夕食となる。

スープのマカロニはふやけていたけれど、まあ美味しかった。
ご飯は野菜煮込みを混ぜながら食べると、美味しかった。
鶏はずっと焼き続けたせいか、表面がこげていて、ぱさついていた。
この鶏の骨を目当てに、砂漠の狐フェネックが現れた。

私とガイドのAmrはテーブルで、MgdとSmhはそのすぐ脇で、皿を敷物において食べた。
そう言えばベドウィン邸でも、彼らは私たちとは別に、
玄関の外の、大理石を研ぎ出したひんやりとしたテラスに敷物を敷いて、
スープだけはそれぞれの碗から、他の料理は一つの皿から食べていた。

デザートは、Smhがトラックの果物売りを停めて買ってくれた、
ポンカンに似たみかんとバナナ。
みかんはみずみずしく、皮をむくと良い香りがする。バナナは黒ずんでいた。
後で、あちこちの露台でみかんとバナナを売っているのを見た。
枝がついたままのバナナの房を、
ロープ一本見事に荷台一杯に積み上げて走るトラックも、たくさん見た。
後日、そんなトラックを見かけると、バナナも食べてみればよかったと、悔やんだ。

 

◆3月6日

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白砂漠がピンクに染まる夜明け

明け方に起こされて、ごそごそとテントから這い出す。
昨日沈んだま反対から太陽が登るのを、黙って眺める。
薄いばら色に、岩も砂もしっとりと染まっていく。

砂漠の真ん中に緑のテーブルが置かれた。
見渡す限りの世界に、私たちしかいない。
テーブルを挟んで二枚のマットレス。

朝食はアップルジュースの紙パックにゆで卵、
コンロであたためた、食べるときにはほとんど冷めている、アエーシという平たいパン。
こってりとしたはちみつをつけると、冷めていても美味しかった。
MgdとSmhは、私たちと向かい合わせにテーブルに座り、
一緒に朝食を食べた。

昼食は前日と同じベドウィン邸だった。
アエーシ、揚げナス、ひよこまめの煮込み、ポテトフライ。
アエーシで煮込みをすくって食べる。
あるいはアエーシに揚げナスをはさんで、それで煮込みをすくって食べる。
スプーンなし。全て美味。

MgdとSmhも一緒に丸いテーブルを囲んだ。
砂漠で共に一夜を明かしたから、私と彼らは、テーブルを共にする仲になったのだろうか。
テーブルに四人、コップは二つ。
ひよこまめのお皿三枚、揚げナスの皿も三枚、
ポテトとアエーシの皿は二枚づつ。
どの皿が誰のものという区別がなく、
皆なにも考えずに、思うままに手を伸ばしているように見える。
相変わらずおしゃべりはせず、一心不乱に食べる。
シャイも一生懸命に飲む。

モスクから、昼の祈りを告げるアザーンが流れてきた。
お祈りしないの? とSmhに聞くと、あとでするよと答えた。

彼らと別れ、カイロのドライバーの車に乗り込む。
一夜の夢と化しつつある、オアシスから200キロ後方の砂の世界を、
カイロの雑踏と賑わいが上書きしていく予感をかみしめながら、
ひたすら走り続ける。

ふと、みかんはホテルの近くのスーパーでも買えるよね? とつぶやいたら、
Amrが突然車を停めた。ちょっと待っていてくださいと降りる。
見ると沿道の果物売りからみかんを買っている。
気が利きすぎのAmr君であったが、ホテルで食べたみかんはジューシーでもなく、
良い香りもせず、甘さも砂漠のみかんに及ばなかった。
シティーボーイのAmr君は、古いやつをつかまされたんだろうか。
それとも、カイロに近い沿道で売っているみかんは、みんなあんなものなんだろうか。
きっと砂漠とは何かもが違うのだと、私は妙に納得していた。

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砂漠で朝食

 

◆3月7日

一人で地下鉄を乗り継いでオールドカイロに行く。
コプト教の教会や墓地、修道院が残っているキリスト教地区。

カイロはここから始まった。

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コプト教墓地の前庭

駅の脇のカフェ兼軽食屋に入る。
観光客相手のパウチしたメニューがあった。
スープはないのかと問うと、グッドレンティルスープがあるという。
ここにもモロヘイヤはない。
ターメイヤ(これも国民食)を頼むと、ディルとコリアンダーの葉の上に乗って出てきた。
スープは黄色で、ポタージュ状で、美味しかった。
ターメイヤは予想と少し違って、あまり味がなかった。
アエーシに挟んでひとつ、そのままでひとつ。

エジプトの人はたくさん炭水化物を取るんだなあと、しみじみと思いかえす。
ごはんにパスタ二種類と、二種類の豆が混ざったコシャリ、
パスタのスープにパスタ入りごはん、
そして豆のスープに豆のコロッケにパン。
これでもかと炭水化物が重なっている。

帰り、地下鉄に乗る前に、BEERと手書きの紙が張ってある、
観光客相手の飲み物店で、ご当地ビールStellaを買う。
中缶二本で50p(エジプシャンポンド)。うっかり言い値で払ってしまう。
ホテル周りではビールを売っている店が見つからず、
部屋のミニバーにもアルコールはない(ルームサービスでは頼める)。
去年のホテルには、ルクソールでもギザでもミニバーにビールくらいはあった。
イスラム政権になって、アルコールに厳しくなっているのだろうか。
ここはキリスト教地区だから、それでもお酒を買えたりするのだろうか。

ワインもありまっせマダム、と抜け目のないエジプト商人が迫る。
ふ~ん、と興味なげに応じる。持って帰るのも重いし。
それでも、数歩階段を下って、半地下の店の奥をのぞく。
聞くと150p。2000円とあっては、私でも高いと思う。
125pに下がる。

ノーノーと帰ろうとすると、いくらなら払えるのかと言う。
70p。
ダメダメ、100pだ、とエジプト商人。
うっかりしたことに、いつの間にか値段交渉に入っている。
70p。
100pだよ、だってほら、ちゃんと持ってるじゃないか。
ツワモノ商人は、財布に50p札が二枚と20p札が一枚入っているのを知っている。
私は50pを指し、これは必要な金なんだ、70pしか払えないと言い張る。
それに、さっきビールに50pも払ったじゃん、と言ってみる。
OKと、契約成立。
写真を撮ってこなかったけれど、検索でラベルを発見。
たぶんオマールカイヤーム(ハイヤーム)。
エジプト定番ワインで50p前後と別記事にあった(2012.12月)。

この店の売り方がちょっと密売風だった。
Stellaは通りに置かれた冷蔵庫に、手前のコーラにすっかり隠れるように、
ひっそりと置かれていた。
ワインも外からはまったく見えない。
エジプトではお酒がこれほどにも肩身が狭い。

中級以上のレストランやホテルにはあるというので、
外国人が飲む分には気にすることもないだろうと、思っていた。
けれども、庶民レストランにさえお酒があったイスタンブールとは、雰囲気がまったく違う。

そう言えば砂漠で、不思議なことにビールが恋しくなかった。
久しぶりにアルコール抜きの夕食だった。
そのかわり、ベドウィンの歌と太鼓をいっぱい飲んで、満足だった。

 

◆3月8日

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アレキサンドリアのほうずき売り

アレキサンドリアで、きんかんのようなものを荷台で売っているの見つけた。
ガイド(Amr君ではない)に頼んで買ってもらったものには、
きれいに枯れた袋がかぶさっていた。
ほおずきだった。
日本では食べないけれど、ミラノで一度、ほうずきのチョコレートがけを食べたことがある。
種はほとんど感じないほどで、甘酸っぱくて美味しい。
口の中に少し渋みが残る。

ガイドに、昼食何食べたいですか、と聞かれた。
コシャリはもういいし、ターメイヤもいらない。
マクドナルドもケンタッキーもあるよ、とおじさんガイドは言う。
私は前の晩、ホテルの部屋で貴重なビールと共に、
近くのマクドナルドのフィレオフィッシュ(日本と同じ味)を食べていた。
10p。テイクアウトで+1p。

せっかく砂漠を地中海に抜けてきたのだ。
シーフードレストランに行くしかないだろう(このツアーの昼食は自腹)。
海を臨む高級店に入ると、日本人団体客が食べ終えたところだった。

ショーケースに並んだ中から好きなものを選び、好きな調理法で頼む。
ガイドは80p(これは観光客値段、ガイド値段は50p)の定食、
私はアサリに似た貝をスープで、渡り蟹に似たカニをグリルにしてもらった。
アエーシとタヒーナ(ゴマのペースト)他何種類ものペースト、サラダがついてきた。
そしてノンアルコールビール。

ぴりりと香辛料の効いたスープは絶品だった。
カニもスープに入れてもらえばよかったかなあ。
グリルはエビもよかったなあ。
ペーストはタヒーニが美味しかった。
チップ5pを入れて120p。
安い! と思ったけれど、エジプトではきっと高いんだろう。
というか、いったいそれが高いのか安いのかが、よくわからなくなっていた。
前日の観光地食堂が60pだった。

フィレオフィッシュも日本の半額くらいだけれど、エジプトの人にはすごく高いんだろう。
ホテル近くのパン屋で買った惣菜パンが1p(14~15円)、
なのに表通りのおしゃれなお菓子屋の(似たような)フォカッチャは一切れ7.5pもした。
7.5pも、と書いたけれど、せいぜい100円なのだ。
けれどもこれが高いと感じる。

地下鉄が一乗り1p。
タクシーが、ナイルの対岸のドッキ地区ホテルから、
イスラム地区のハン・ハリーリ市場まで15p(3/9日のこと)。
このタクシーもホテルのポーターに、
ノーマルタクシーウィズメーターと言い張って、がんばって乗ったのだ。
ちなみにこのポーター、最初は、ハン・ハリーリ往復、安全なタクシーで100pでどうか、
と持ちかけてきた。
ノーマルタクシー! といい続けていると、いくらならいいのいかと聞いてくる。
無視していたらどこからかドライバーを引っ張ってきて、往復20pだと。
いや片道でいいんだと答えると、取引成立せず、ドライバーは去っていった。
これが5つ星ホテル前のやり取りなのだ。

去年のルクソールでも、半年前のイスタンブールの市場でも、
馬車引きの少年や、香辛料屋の店主や、スカーフ屋の店員との値段交渉で、
いつも疲れはてた。

ガイドブックには、現地人価格、観光客価格、そして日本人観光客価格と、
エジプトには値段が三種類あると書かれている。
誰に対しても値段が決まっている日本の感覚からすると、
ぼられるというのは非常に後味が悪い。
相手は不誠実なとんでもない詐欺師で、こちらは間抜けなカモなのだ、と。

けれども今回、少し考えが変った。
イスラムの教えの喜捨は、一日五回のお祈りや断食と並んで、
敬虔なお勤めのひとつだ(残りの二つは信仰告白と巡礼。五行という)。
モノの値段が、持てるものと持たざる者とで違うのも、この喜捨につながる。

ところで、富者が貧者を助け、金銭などを与える喜捨は、
私たちが考えるいわゆる慈善とは少し違うようだ。
つまり行為は貧者にではなく、神に対して行われる、ということ。
だから貧者は、受けた喜捨を恥とも思わず、ましてお返しなど考えもしない。
この言葉を施しと同義に捉えるのは違うだろう。近いのはお布施か。

考えてみたら日本だって、モノの値段の一定性が、そんなに絶対確固なわけではない。
売る側と買う側の合意点であるモノの代価は、
両者の納得によるという意味では、彼らの社会も同じなのだ。
私は、タクシーにはきっちり文句を言ったけれど、
実はそれほど気にしてはいなかった。
彼にとっては2倍のかせぎだったかもしれない。
でも私にとっては100円の喜捨だ。

オールドカイロのはずれ、モスクの入り口で靴をあずける。
引き取るとき、同じカウンターのおっちゃんに、言われるまま10p払った。
おっちゃんは、靴は向こうで保管してると別のカウンターを指差す。
こちらのカウンターのおっちゃんも、10pだと言う。
もうあっちで払ったよと言うと、(知ってるくせに)おおそうか、と靴を返してくれた。
モスクは、入場無料、喜捨歓迎なのだ。

それでも、いくばくかの授業料を払って学んだことが少しはある。
一、時間、体力、気力に余裕がないときはスーパーへ
一、到着後いきなりバザールには行かない
一、バザールでは複数の店でリサーチをすること
一、この金額なら買う、という自分価格を決めておくこと
一、とりあえず半額を目指す
一、そんならいらないや、と、交渉の途中何度か帰るそぶりを見せる
一、お金を払ってしまったら、ぼられた分は喜捨及び授業料だと思う
一、不当だと思ったことについては文句を言う、あるいは怒る(日本語でもOK)
一、中国人のふりをする ?

最後のは、前半お世話になったガイドAmr君のおすすめ。
彼曰く、中国の人はエジプト人より値段交渉が上手だから、と。
そう言えばどこでも、まず、ウエアアーユーフロムと聞かれたっけ。
あれは日本人と確かめた上で値段設定するためか?
律儀にフロムジャパンと答えていたけれど、今度お店で聞かれたら、
チャイナ、と言ってみようか。
でも、それも別の意味で後味が悪い。
彼らが詐欺師とすれば、こちらも騙りになればいいのかもしれないけれど、
彼らとの商取引を、騙し騙される行為に限定してしまいたくない。
甘い! とは思う。
ただ、後味というのは、いくらで買ったかより大きかったりもする。
そんなに高額商品でなければ、だけど。

【付記】
日本人観光客価格が出来てしまったことについては、
歴代日本人観光客の責任もある。
なにせ物価が違うし、商習慣もまったく違う。
まして日本人パッケージツアーには時間がない。
時間こそ値千金の日本人は、言い値で買い物するしかないのだ。
日本人が、あるいは日本人観光客の旅行スタイルが変らない限り、
日本人観光客価格もなくならないだろう。

 

◆3月9日

最後の日の昼食は、ハン・ハリーリ市場の近くでエジプト料理を食べようと思った。
ほんとは中級レストランあたりで、モロヘイヤのスープを飲みたかった。
でもなかなかみつからない。
仕方なくガイドブックにあった、「地元客にも人気のハト料理店」を探す。
同じブロックを二周して探し当てたのは、庶民的な、
テイクアウトもやっているスタンドだった。
細い路地に椅子とテーブルが一組、その奥の店内に三組。

店のテーブルに座り、モロヘイヤのスープある? と聞くと、ないとの返事。
メニューは? それもない。
何があるのかといえば、二種類だけ。
ハトのグリルと、ハトのお米詰めグリル。
お米詰め、ハマーム・マフシーを頼む。

一昔前の日本の学食で見かけたようなガラスコップに、
油染みた薄茶色の濁った液体が出てきた。
ワッツ? と若者に問えば、スープ、とひと言。
なるほどハトのスープね。
濃厚で美味だけれど、塩コショウしたらもっとおいしそう。
テーブルにあるプラスチックの容器はまさに塩・コショウ。
けれども、汚れた蓋をあけて容器に指をつっこむ気になれない。
レモンを絞りいれて半分ほど飲む。

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鳩のスープ

野菜サラダにアエーシ、そしてお決まりのゴマペースト、タヒーナ。
タヒーナは、この店のが一番美味しかった。
ハトは皮がぱりっとして、美味しかった。
中のお米も、まあまあ美味しかった。
もっと熱々だったらよかったけれど。
セットで39pなり。

前日、アレキサンドリアに向かう道筋に、
サグラダファミリアのような、円錐形でてっぺんがまるっこい、
穴のあいた塔がたくさんあった。
ハトの巣だと、ガイドが教えてくれた。
もちろん、食用のハトの、である。

モロヘイヤスープは、今回、ついに飲めなかった。

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