安倍首相のTV説明~参院で何を議論するべきか~日本はどうあるべきか — 安保法制

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安保法制に関して参院での質疑が始まる前、安倍首相が出演したTV番組(7/20日、フジテレビ「みんなのニュース」)を観た。
戦争を火事と同じ災難と設定可能とする思考回路はともかく、いくつか印象的なやりとりがあり、その答えのいずれもが納得いくようなものではなかった。大事だと思うのでピックアップしておく。参院での質疑で深めてほしい。

① 合憲性にはあいかわらず砂川判決を強弁。
だが、津田大介にあっさり論破された。
➾ 唯一の合憲性がいかに誤った解釈であるかはさらに徹底的に追及すべきだと思う。

② かえって日本人がテロに巻き込まれたり、日本でテロが起きたりするようになるのではないか。
安倍首相は「そんなこと絶対ありません」と即全否定。
➾その具体的な根拠を示してほしい。

③ 海外では安倍首相の歴史修正主義に対する批判が強い。そうではないともっとアピールするべきでは?
➾キャンベルさんのやんわり提言は、アメリカの懸念でもある。歴史認識による周囲との摩擦が日本の安全保障を棄損している点はもっと追求するべきだと思う。

④ 何故これほど急ぐのか。何故今国会で成立させなくてはいけないのか。憲法改正後に法案審議をすればいいではないか。
これについては、治安が悪くなってきてるのだから少しでも早い方がいい、というお答え。だが、それがどの国を想定しているのかは言えない。中国だろう、と産経記者がフォロー。

➾ これは政権側から今後相当アナウンスされるだろうと思っていた。これほど中国、北朝鮮は危険なことをやっている、危ないことが増えている、というインフォメーションが増えるだろう、と。予想通り、このときのTVでは名指ししなかった中国という名を、首相は参院質疑ですでに口にしている。

話題になった京大の声明の第一声が、戦争は自衛から始まる、であった。政権は国民のこの自衛意識を今後さらに刺激してくるだろう。それによって、反中・嫌韓の法案支持層は勢いづくだろう。戦争を始めるのは簡単だ、敵を作り出せばいいのだ、とのナチスの「名言」がある。同じことが法案の正当性を語る文脈で行われ得るということ。

➾ この事によって、「何故これほど(誰のために)急がなければいけないのか」という問いに対する真の答えが隠ぺいされるのではないか。

その他参院で質疑してほしいことを(TVの質疑で出たこととも重複するけれど)まとめておこう。これらは国会質疑が終わり、法案が決議されてもなお議論し続けなければいけないことだとも思うので。

(1) 安全保障として機能してきた平和憲法の評価と、それを(実質的に)捨てるリスク

アフガン支援のベシャワール会(中村医師)や、高遠菜穂子さんたちのイラク復興支援等、これまでの日本のNGO活動が何故平和裏に可能だったのか。
安保法制は、日本が70年間かけて築き上げた平和的な安全保障という資産を破棄し、今後の日本の草の根の国際貢献をつぶすことになるのではないか。
是非参考人として中村医師を呼んで話を聞いて欲しい。
ここから、日本の進むべき安全保障や国際貢献への論議も生まれ得る。

(2) 安保法制は本当に抑止力になるのか

安全保障の専門家(早稲田大学/植木千可子氏)は、限定的な集団的自衛権では抑止力にならない、と言っている。加えて「存立危機事態」があいまいなままでは誤認を生む、かえってリスクが高まる、とも言う。

このあいまいさは、時の政権の恣意的な拡大解釈を許すだけでなく、他国(中国とか)の拡大解釈をも許す可能性がある。「誤認」ではなく、「口実」に寄与する可能性がある。

安倍政権の「自衛と抑止力のための”限定的”集団的自衛権の行使」が、掲げた目的を達成するどころか逆効果ともなり得る点は厳しく追及すべきだと思う。

(3) 日米同盟の強化によって本当に日本の安全保障は高まるのか

Ⅰ)これまでのアメリカの戦争の検証
イラク戦争は国連が国連憲章違反とし、アメリカの同盟国(独仏)も反対した。
アメリカはベトナム戦争でもトンキン湾事件をでっち上げ、イラク戦争でも大量破壊兵器をでっち上げた。「我が国の存立を脅かす」という基準だけでは、アメリカの誤った戦争に加担することになりねない。

誤った戦争で巻き散らかされた怨念が「テロ」の温床となっている。よって日本が「テロ」対象国になる可能性は高い。

実際、アルジェリア油田テロでの日本人社員殺害や、ISによる人質の殺害は、アメリカと同盟し、支援する日本を敵国視したものであり、これに明確な軍事支援が加われば、日本人観光客や現地企業社員の危険は更に高まること必至であろう。

これらの点から、日米同盟によるアメリカの軍事支援に関しては、その正当性と併せて、その日本に対する国益を曇りなく見据える必要がある。

そのためには、過去の検証を踏まえて、以下のように現在と未来を考えるべきである。

Ⅱ)現在とこれからのアメリカの戦争の検証
今世界で主流をなす戦争は、民主化弾圧や民族・宗教対立によるものであり、これまでの戦争とは異なっている。このような戦争・紛争にアメリカは今までと同様に軍事介入していくのか。それが地域紛争の真の解決となり、真の地域安定や国際情勢の安定を導くことができるのか。

今後、アメリカが国家対国家の(侵略)戦争に足を踏み入れる可能性はあるのか、あるとすれば想定される戦争はどのようなものか。
ぶっちゃけて言えば、中国とアメリカが覇権を争って戦争する可能性があるのか。

安保法制の必要性は、「日本を取り巻く安全保障環境が変わった」から、即ち中国の脅威が高まっていて武力衝突も予想されるようになった、その時、個別自衛権と日米安保だけではアメリカの協力が期待できない、ゆえに日本もアメリカに(「積極的に」)協力できるようにしておかなければいけない、というものである。アメリカの戦争の可能性を問うことは、この論理に整合性はあるのかを問うことでもある。

日本とアメリカの同盟関係は平等なものではない。現行の日米安保の下で、たとえ日本側が軍事協力を強化したとしても、アメリカは自国の国益に叶う範囲でしか日本を助けないだろう。つまり、アメリカが中国と戦端を開くと決めた時に限り、日本は中国と戦うことができる、ということである。(中国は北朝鮮とも読み替え可能)

(4)アメリカ以外との国との安全保障、及び外交について

Ⅰ)ホルムズ海峡機雷撤去の現実的可能性と、この事例の持つ真の意味について。
イランからクレームが出てトーンダウンしているが、どの国がどういう状況で機雷を撒くというのか、いったいホルムズ海峡を機雷封鎖するなどということが可能なのか、中東専門家の意見を聞くべきである。
中東の戦争に日本がどのような関係があるのか、中東各国と今後どのようなスタンスで付き合っていくべきなのかも含めて、この点で議論はまだ十分とは言えない(7/30日に山本太郎がイラク戦争の検証については質問した)。

Ⅱ)日本政府の外交努力による安全保障の検証
日本はいたずらに周辺国を仮想敵国視していないか。相手に不安や口実を与えるようなメッセージを発していないか。

中国との関係がこれまでになく脆弱となっている点からも、日本のあるべき安全保障という視点からも、中国に限らず各国との外交の強化を日本の安全保障の中心課題に据えるべきではないか。

 

このような議論が十分になされて初めて、では日本のこれからの安全保障はどのようにあるべきなのか、日本という国が目指す姿はどのようなものなのか、という議論のプラットホームがならされるのだと思う。

言うまでもなく、戦後70年間、このプラットホームは歪んだままだった。平和憲法を与えたアメリカは、朝鮮戦争という東西冷戦の顕在により、憲法に反する日本の再軍備を(条件つきで)認めてきた。

先日ふと、確か韓国軍は、けっこうな数がベトナム戦争に行ったんだよなあ、と思い出した。その人数を調べるつもりで検索していて、この記事を読んだ。
韓国 軍も企業もベトナム参戦(朝日新聞/歴史は生きている)

当時の韓国は朴正熙による軍事独裁政権であり、ベトナム参戦はアメリカに軍事独裁を認めてもらうために朴大統領がケネディに申し入れたのだ、ということを知った。もちろんベトナム参戦の理由や目的はこれ一つではない。アメリカがソ連の侵攻から自分たちを守ってくれた、その恩返しをするのだ、と国民は鼓舞された。冷戦の最前線を戦ったばかりの彼らには、共産主義の脅威はリアルだっただろう。戦争特需による経済復興も大きな目的であった。そして韓米同盟の強化と軍隊の訓練強化。

日本はといえば、金と基地の提供で軍事協力は免れた。このときの大きなエクスキューズが、憲法9条と民意、即ち盛り上がるベトナム反戦や社会主義政党の力であった。

あらためて韓国と日本とアメリカを俯瞰してみると、日本がベトナム戦争に参戦せずに済んだことと、韓国が9年間に延べ32万もの兵を出したことは、コインの裏表だったことがわかる。アメリカの冷戦下における東アジア政策では、韓国の軍事独裁と日本の平和憲法+民主主義はワンセットのものだったのだ。

(遅まきながら)先日読んだ白井聡の『永続敗戦論』で、こんな学説を知った。曰く、もし朝鮮半島がソ連によって統一されていたら、冷戦の前線は日本になっていただろう。その場合平和憲法もなかっただろうし、民主主義もなかった。日本も朴政権と同じような軍事独裁になっていただろう。前線に(アメリカによって)求めるられものには、軍事独裁でないと応えられないからだ、と。

韓国が軍事独裁国家として冷戦の最前線を戦ってくれている限りにおいて、その後方で日本は、平和と自由と民主主義の国として、西側陣営の優等生に生まれ変わった国として、存在意味を持っていた。ただし、朝鮮戦争で駆り出されたアメリカ軍の空白を埋めるだけの軍備は必要だとされた。

米軍の空白を埋めるべし、という点において、当時の警察予備隊と安倍安保法制下の自衛隊の役割は同じである。首相の言う「安全保障における国際環境の変化」とは、中国のプレゼンス増大のみを強調するものだが、むしろ決定的なのは、アメリカの東アジア政策の変化なのである。

政権が変わったとして、アメリカの「米軍の空白を埋めるべし」という要求は変わらない。これまでの流れでは9条と民意を盾に、特別措置法等小幅な譲歩でしのいできた。そして、歪みを正すことのハードルの高さゆえに、また、歪んだプラットホームからずり落ちないためにも、本質的な議論を避けてきた。だが安倍政権はこの歪みに、もはやしがみつくことのできないほどの傾斜をつけようとしている。

これによりようやく私たちは、日本はどういう国でありたいのか、これからの日本は外交や安全保障で周辺国や世界とどう付き合っていくのか、どうすれば自分たちの自由と民主主義を守っていけるのか、そういった(本来なら敗戦直後に考えなければいけなかった)問題に正面から取り組まざるを得なくなった。

けれども答えは、そう簡単に出るものではない。わかっているのは、もしその答えがすっきりとわかりやすい場合は(たとえば中国脅威論のように)、むしろ胡散臭いのではないか、危ないのではないかと疑ってみるべきだ、ということくらいだ。
私たちは今、この段階にいる。

今安倍政権によって示されている見た目単純化された道ではない、もう一本の道は、いまだ霧の中のように茫としている。この霧を晴らすに性急であってはならないと思う。粘り強く、ひとつづつ、検証したり、整理したり、対話を重ねたり(あらゆる場所で、あらゆるフェーズで)、するべきである。

ただし、ぼんやりと見えている姿、目指すべき姿はある。それを私はここには書かない。何故ならそれは、一人一人が考え、イメージするべきものだと思うから。それは誰かに与えられたり、わかりやすく示されたりするものでは、ない。

 

【参考1】衆院質疑を通して明らかになった点を整理してみた

① 集団的自衛権の行使容認は憲法9条違反である。
根拠となる砂川判決は実は集団的自衛権の合憲を証すものではない。

② 一度に11もの法案を束ねての審議はあまりに乱暴である。
ゆえに110時間を超えたといっても審議が深まらないのは当然だろう。
消化時間を超えたから審議が尽くされたと言われても納得できない。

③ 野党の質疑に政府が正面から答えないことに不信感が募る。
よって「存立危機事態」や「三要件」が本当に歯止めとなるのか、信ぴょう性が持てない。

④ あいまいなまま答えないことは白紙委任を確保したいのだろう。
法案の拡大解釈により、無際限な戦争へと突入するのではないかと心配だ。

⑤ アメリカでの安倍首相の「夏までに通す」との演説が「公約」というなら、アメリカの意向が日本の民意よりも優先されてるってことじゃないのか。

⑥ 衆院の強行採決と、参院の質疑採決の如何に関わらず、国会の60日ルールよる法案成立、というシナリオは専制的だし、独裁だ。

⑦ とくに1、及び6により強行されようとしている手法によって、また、これに先立つ内閣による人事権の濫用(日銀総裁、内閣法制局長官、NHK会長等)により、日本の立憲主義、三権分立、国民主権、民主主義が将来にわたって棄損される。

 

【参考2】

安倍政権、「安保法制」局面のサバイバル・シナリオとは?
(ニューズウィーク日本版 冷泉彰彦 7/23)
安倍政権の傲慢な素顔 暴走する国家権力 (The Huffington Post 7/23)
ビジョン21 真実を知る講演シリーズ:第8回 ア○ニモ負ケズ、アメリカニモ負ケズ
戦争犯罪でも支援するのか!?―日本を「イスラム国」より酷い米軍の共犯者とする安倍政権の安保法制 (Yahoo!ニュース 志葉玲 2015.4.28)
2015.7.30 安保特「原発への弾道ミサイル着弾の影響について~想定していません」(山本太郎) – 注目の記事
安倍晋三 総理は米軍イラク攻撃の国際法違反実態把握ぜず支持!(7/30 山本太郎による質疑)

 
沖縄は今 (朝日新聞 特集)➾ 7/29に行われたシンポジウムでは、佐藤優、寺島実郎氏らが重要な提言を行っている。

・『永続敗戦論』白井聡 太田出版 2013.3

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