酒井啓子さんのコラム「中東徒然日記」から。
・エジプトの「不愉快な現実」(Newsweek 8/21)
混乱しているのは、事態の展開ではない。それを見つめるエジプト、および中東の知識人や活動家たちの言説である。
昨日の東京新聞が、軍と同胞団の中間にいる層、
本来なら第三極として結集するべき政治組織が、
ふたつに割れていることを伝えていたが……。
軍が自己弁護のためにさまざまなレトリックを弄しているなら、わかる。ムパーラク時代に支配エリートの一角であった軍が、民衆の反ムルスィー感情を利用して地位を再確保しようという動きととらえれば、今の事態も全く不思議ではない。理解できないのは、左派系、リベラル系知識人がほぼこぞって、同胞団叩きの論理に乗っていることだ。彼らの「イスラーム主義=テロ」という固定観念は、実に根強い。
どうやら軍支持が強いのは、
政権の「テロ組織」キャンペーンのせいだけでもなさそうだ。
だが、彼らが集めた2200万署名の求めたもの、
そして1.25革命の求めたところにもう一度立ち返らなければ、
今回の政変が「革命の第二段階」とは言えなくなってしまうのではないか。
根本的な問題は、今のエジプトで国民の多くが納得のいく正統性を主張することが、誰もできないことだ。反ムルスィー派の知識人は、選挙という数の論理を否定した以上、それに代わる統治の正統性を提示できていない。前述のワーイル・グネイムは、「路上にどれだけ人が集まるかが正統性のカギ」と述べてい るが、直接民主主義への強烈な憧れだけでは、対立する両者がそれぞれ主観的に「大衆の力」を強調して正統性を取りあうだけになってしまう。
こうなると、エジプトで起きたことは民主主義のあり方自体を問うものだ。だからこそ、世界中で中東研究者の意見が割れている。
そう、根幹には世界中が「古くから抱えてきた問題」があるのだ。世界が解決保留にしてきた問題が爆発する今のエジプトは、皆正視したくない。だがこの「不愉快な現実」を乗り越える知的努力がどこかでなされなければ、民主主義に明るい展望は抱けない。
エジプトだけのことではないと、私も思い続けている。
憲法草案に、宗教団体の政党禁止条項が入った。
一方でムバラク政権時代の与党をの活動禁止条項は削除。
ただし「イスラム法は立法の主要な法源である」とする2条はそのまま。
・動乱エジプト:「宗教組織の政党禁止」 憲法修正案に追加、同胞団排除狙う
(毎日jp 8/21)
こちらは、エジプトにはすでに過激派がかなり入り込んでいるのではないか、
という見方。
・勝谷誠彦 エジプト情勢 狙撃兵まで配置で死者が900人超
これまでの報道でも、本当のところはよくわからない、
と感じることが多かった。
双方の言い分はまっこうから対立しているし、
証拠と言われてもそのまま信じていいのか、とも思った。
人は結局、ある事象から、じぶんの見たいものを引き出して見るからだ。
事実は、千人に及ぶ死者の数だけ。
なぜこれほどの死者になってしまったのか。
理由の一つに、動画で勝谷氏が指摘しているようなことがあるとしたら、
これはエジプトの混乱にとって、とても重要で、かつかなり暗い要素だ。
そして、「同胞団=テロ組織」一辺倒でのキャンペーンと弾圧の陰で、
最悪の状況が潜行して行く可能性もある。
同胞団のバディーア団長が逮捕され、
彼と同年代の、影の指導者と呼ばれていたエッザト氏が後任となった。
・同胞団なお「鉄の統制」 幹部逮捕も強硬派の指導続
(MSN 産経ニュース 8/21)
・ムスリム同胞団、抑制的な反応―最高指導者拘束で
(The Wall Street Journal 8/21)
・ムスリム同胞団、国民の多くから「テロリスト」呼ばわり
(AFP BB News 8/20)
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