6日、外務省はエジプト全土への渡航情報を、
「渡航の延期をお勧めします」に、また一段引き上げた。
「渡航の是非を検討してください」に引き上げられたのが3日。
すでにこの時点で、大手旅行社は期限を切ってツアー中止を決めている。
エジプト航空が減便しないのは、
この時期エジプト以遠へのツアー利用が7割だから、ということらしい。
もっとも、すでにこれ以上減便できないほど(成田・関空それぞれ週二便)少ない、
ということもあるだろう。
旅行会社のツアー中止は7月末まで、というのが多いようだ。
だが、エジプトの状況がそんなに短期間で好転するとは考えにくい。
なかなか以前の活況を取り戻せないできた観光業には、またまた大きな試練だ。
エジプトの観光業従事者は労働人口の10%だという。
「業界の低迷が社会不安を加速する懸念は強い」と読売の記事。
今日の朝日新聞は、同胞団のデモに軍が発砲し、51人の死者、
400人(他のメディアでは1000人とも)の負傷者と伝えている。
早朝礼拝に軍が発砲した、と参加者は記者に語った。
一方の軍の言い分は、武装集団が先に屋根から発砲した、というもの。
どちらもあり得ると思うし、どちらが真相なのかという詮索は、
すでに意味がないように思う。
ただ、これが、同胞団の抵抗に正当性を与えることは確かだ。
ある意味、同胞団の思う壺である。
(だから、彼らが軍を挑発したということも可能性として否定できないし、
一部の(あるいはどこからか入ってきた)過激分子が、
更なる混乱を狙って初動した、という筋書きだってあり得る。)
死者の中には、子供もいたという。
イスラムにとって、女・子供の殺害は、大きな怒りを引き起こす。
イスラムの正義にもとる行為だからだ(と『イスラムの怒り』で読んだ)。
武力衝突が懸念される場所に、しかもそんな早朝に、
子供を連れて行くということがどういうことなのか、
という疑問はあるけれど、子供の死の前には力のない問いだ。
とにもかくにも、「アラブの春」でデモ隊に銃を向けなかった軍が、
ここに至って民衆を殺害してしまった。
「正当」な報復行為は、これで増えこそすれ、減ることはないように思う。
アメリカが、軍の制圧をクーデターと呼ばないことに対する批判が強い。
けれども、クーデターと敢えて呼ばないことによる解決の道も、あるのではないか。
宗教者に対して自制を求めるよりも、世俗主義者に自制を求めるほうが、
よりたやすいように思うからだ(不要だと言うのではない)。
宗教的正義の前には、目前の安寧や利益は価値を持ちにくい。
しかも今回の彼らには「民主的に選ばれた」という正当性もある。
ここは軍に、殺すな、さもなければ国民の代表たる資格を認められない、
というメッセージを出し続けるべきではないか。
そのためには、クーデターではない、との軍の主張を、
国際社会はとりあえず受け入れる、あるいはあいまいなままにおく、
というのもありだと思う。
たとえそれが実態と異なっているにしても。
なぜならば、昨日も書いたことだけれど、エジプトの場合、
良い悪いは別にして、軍がもう一つの国の意思決定機関であるのは、
何も今に始まったことではないからだ。
「アラブの春」においてさえそうだった。
あの「革命」のもう一方の功労者であった軍を、
エジプト社会は「革命」後も同じように抱え、支持して来たのだから。
おそらく、アラブ・イスラム社会において、軍が、
欧米のような、あるいは日本のような社会システムに組み込まれること、
ということは政治的発言力をそがれた存在になることは、
現実問題としてそう簡単なことではないと思うのだ。
軍(と反同胞団勢力)が民衆デモを利用した、ということはあるだろう。
同胞団との権力闘争だというのも、その通りだろう。
これは実質的な軍のクーデターであるとしたうえで、
ひとつ見落としてはいけないことは、それでも軍は常に、
自分たちは民衆の支持を得ていると、民衆の代弁者としての正当性があると、
言わざるをを得ないことだ。
つまり軍にも「民主的」な正当性が必要なのが、今のエジプトなのだ。
その正当性を与えられるのは、民衆しかいない。
彼らもまた、殺すな、と、軍に向けて、メッセージを出し続けてほしい。
そして自制を、自分たちの側と相手の側双方に、求め続けてほしい。
エジプトを二つに割り、対立しあい、一層経済を、国を疲弊させて、
いったい誰の特になるというのか。
【その他】
・「中東の春」から2年―エジプト現地リポート
(ジャーナリスト・志葉玲のblog)
今年二月に書かれたエジプトレポートを緊急公開したもの。
注目すべきは、ムルシ政権に対する不満と対立が高まっている様子、
いわば「クーデター/革命」前夜の様子が活写されている点だ。
ムルシ大統領がこのまま政権を維持するのは難しいだろう、
最悪の場合軍のクーデターもありうる、と示唆されている。
・軍事クーデター後のエジプト情勢 未完の「アラブの春」
(ブログ『神室院武蔵坊瑞泉』 7/7)
・池内恵 「アラブの春」遠ざかるエジプト (msn 産経ニュース 7/8)
・「アラブの春」が試練 エジプト、公約ほごに怒り (日経Web刊 7/7)
以上7/9日
【追記】7/12日
エジプト航空の週二便は、これ以上減便されないだろうと思っていたが、
今日、成田-カイロ線運休のニュースが入ってきた。
8月末までという期限付きだけれど、残念。
しかし、関空-カイロは運行続行というのは、どういう判断なんだろう。
・エジプト航空、成田直行便を運休(msn産経ニュース 7.11)
エジプト航空関空線が残ったわけ。
「MSによると、もともと関空発の旅客の約8割から9割がカイロ経由欧州行きであることから運航を維持。成田発は約半分がカイロを目的とした旅行者であったため、影響が大きいことから運休を決定した。」
なるほど。