エジプト 政治的解決への道

暫定政権とモルシ支持派の双方に、
政治的解決をさぐる動きが出てきた、との記事を読んだ。
エジプト:同胞団は政治的解決への道を探り、動員により駆け引き
(al-Hayat紙 8/27 日本語で読む中東メディア)

同胞団側は一方では今週の金曜日デモへの動員を呼びかけつつ、
他方ではいくつかのチャンネルで、
政治的解決のメッセージを出しているように見える。

ムルスィー解任後の政治的危機解決のための二つの案が、昨日明らかになった。そのうちのひとつは複数の政治関係者が打ち出したもので、同胞団に暴力の放棄とデモの中止を呼びかけ、その代わりにメンバーの逮捕をやめ、暴力行為に関わっていない者については釈放し、政治的な解決策に至る機会を作るべく平穏化を宣言するというものである。

もう一つの案は、同胞団と同盟関係にある「イスラム集団」および「ジハード団」のメンバーが明らかにしたもので、交渉への準備段階として、デモを中止する代わりに、治安関係筋が(拘束、逮捕という)攻撃をやめることを求めている。しかしながら「イスラム集団」のスポークスマンによると、ムルスィーを支持する「正統性支持連合」は「クーデターの行程表」の下にある案はいかなるものであろうと受入はしないということだ。

「イスラム集団」のある指導者は「ハヤート」に対し、次のように語った。ムルスィーを支持する同盟の指導層には、諮問議会の前議員もいるが、彼らはある案の作成に専念している。それは、デモと抗議行動をやめることと引き換えに、治安関係筋の攻撃の停止、およびデモに参加したということで拘束されている者の釈放を要求する。政治的対話がやってくるのはその後だということである。

「ジハード団」の指導者であるムハンマド・アブー・サマラの話としてアソシエイティドプレスが伝えたところによると、「ジハード団」と「イスラム集団」が協力して作成している案は、「その中にはレッドラインはない」ということである。またこの人物によると、「私たちは交渉への道を探っている。殺害と逮捕の最中、私たちの首にナイフが突きつけられている状況で交渉することはできないが。私たちは軍との流血の対決を避けるべく努力する」ということである。そしてムルスィーの復職なしに交渉を受け入れるかという問いに対しては、「権力の座よりも血の方が大切である」と答えた。

「権力の座よりも血の方が大切である」、
はじめてまっとうな声を聞いた気がする。
弾圧に屈したとかそういうことではなくて、
解決の道はこの現実認識の延長線上にしかない、という意味で。

しかし、「ジハード団」と「イスラム集団」というのは、
同胞団の穏健路線から分化した、より過激な集団だったと思うんだけれど。
少し調べてみたら、「イスラム集団は」、
1997年のルクソール事件を起こして以降、エジプト国民から激しい非難を浴び、
穏健派と強硬派に分派していたとのこと。

「ジハード団」のほうは1981年のサダト暗殺にかかわった過激組織。
やはり国民から激しい非難を受け、政府の弾圧もありで、
活動拠点をエジプトから海外に移しているという。
つまり、エジプトには「ジハード団」はないはず、ということ?

元指導者も、「今はもうない、解散した」と
インタビューに答えている。
ナビール・ナイーム:元ジハード団指導者
(どこまでもエジプト 20112.11/01)
インタビューは2012年の4月に行われたもの。

う~ん、どういうことなんだろう。
al-Hayat紙の記事にある(現在の)指導者は、ムハンマド・アブー・サマラ。
やはり穏健派路線の組織が残っていたということなのか?

「どこまでもエジプト」のインタビューは以前読んていたけれど、再読。
(ちなみにこのサイトは、エジプト情勢ウォッチで
ずいぶん参考にさせていただいている、
カイロ在住イスラム法専門の飯山陽さんのブログ。)

そのときはさらっと読んでしまったけれど、
今回、元指導者のイマム氏がすごいことを言ってるのに気付いた。
民主主義をどう思うかと訊かれて。

私は民主主義は決してよいものではない、と考えています。しかしムバラク政権のような独裁と比べると、民主主義のほうがまだましだと言えます。ふたつの悪(マフサダمفسدة)がある場合には、より軽微な悪、より小さい悪を選択し、より大きな悪を退けなければならないというのが、イスラム法の考え方です。また人々は今、平和と安定を求めています。人々が求めている上に、イスラム法においても、 平和と安定が普遍的な利益(マスラハ・アーンマالمصلحة العامة)だとされています。私はこの普遍的利益を保全することが重要であると考えているのであって、民主主義を積極的に擁護しているわけではありません。

飯山さんもこの回答に注目し、そして共感している。

私が個人的に一番興味深かったのは、最後の部分です。シャリーア(イスラム法)の信奉者として、彼は民主主義とそれにもとづく諸制度、例えば選挙や議会、憲法といったものを決してよいものとは考えていません。しかし急進的にイスラム国家実現をめざすあまり武装闘争に走り、多くの一般市民を巻き添えにしてきた過去をもつ者として、そうした悲劇的内乱状態よりも、まずは平和と安定が先決であるとしているのです。

ナビール・ナイーム氏のこの答え、
「ふたつの悪(マフサダمفسدة)がある場合には、より軽微な悪、
より小さい悪を選択し、より大きな悪を退ける」、
人々が求め、イスラム法にも規定されている、
「平和と安定という普遍的利益を保全することが重要である」は、
まさに、「権力の座よりも血の方が大切である」にぴったり重なるものだ。
すでにたくさんの血が流れてしまったけれど、
より大きな悪を退けるとは、これ以上血を流さないこと、だろう。

「ジハード団」や「イスラム集団」が現在どういう組織であるのか、
それはよくわからない。
でも、もしそこに彼のような指導者がいるのなら、
そしてその指導者が指導力と影響力を発揮できる条件が整っていて、
血よりも権力を上位におく人々を包摂していけるとしたら、
対話と融和への大きな希望が持てる。
加えて、同胞団内部の、穏健路線から指導部批判を行っていた若者層も、
ここに結集してくれるといいなあ、と思う。

気になるのは、軍・暫定政権の、
この際だから徹底的に同胞団をたたきたい、という姿勢。
彼らの中の、血より権力に優位に置く者たちの動き。
同胞団=テロ組織キャンペーンが、国民の間に、融和ではなく、
排除の志向/思考を強く形成してしまってはいないか、という点。
そして、流されてしまった血が、
どのような分断と怨念のレベルに達しているのか。

一方で、憲法改正案は、
行程表のスケジュール通りにきっちり出てきている。
エジプト憲法草案、大統領に提出 宗教政党の禁止規定か (日経Web刊  8/26)
・エジプト2012年憲法の改正案が発表――イスラーム化の取り消し?
(Asahi 中東マガジン 8/27)

 

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