イタリア ランペドゥーサ島沖でアフリカ難民船沈没 【続報 10/7 10/9 追加訂正】

イタリア ランペドゥーサ島沖でアフリカ難民船が沈没と、
意外な人のツイートで知った。
アラブ・アフリカの難民問題の深刻さを伝えたかったのかもしれない。
まっさきに浮かんだのは映画『海と大陸』。
たどり着き、助けられても立ちはだかる困難は変わらない。
それでも、子供を連れた妊婦ですら、死と隣あわせの脱出を試みる。
映画で漁師に助けられた妊婦は、かくまってくれた家族のおかげで、
子供を産むことが出来たけれど…。
イタリア南部沖でアフリカ難民船沈没、300人超死亡か (ロイター 10/4)

この船はリビアのミスラタから出港。全長20メートルで、約500人が乗っていたとみられている。漁船や沿岸警備隊の船舶が151人を救助したが、子ども3人妊婦2人を含む104人の遺体が回収された。

動画はウォールストリートジャーナルから。

ランペドゥーサはイタリア最南端にある島。
行ったことはないけれど、名前だけは知っていた。
日本人観光客が少ないのは、交通の便などで行きにくいのと、
売りが「海」だけだからだ。
「バカンスはなんといっても海」派が多数のイタリア人には、
夏のデスティネーションとして、それなりの人気があるのだと思う。
海はとにかく透明で、船が宙に浮いているように見えると評判だ。

島の名前を久しぶりに聞いたのは、
リビアでカダフィ政権が倒れた時だった。
イタリア最南端ということは、アフリカに最も近いということでもある。
チュニスからは東に200キロ超、リビアのトリポリからも北へ同じくらい。
だが、政情不安から大量の難民がランペドゥーサからイタリアに入り、
そこからヨーロッパへと流れていくのも、
大陸はおろか島にさえたどりつけなかった多くの命が失われたのも、
なにもここ数年のことではなかった。

人権保護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、1998年以来、北アフリカから欧州に渡る途中の地中海で1万3500人以上が死亡した。昨年の死者・不明数は推定約500人。(毎日新聞 10/3)

『海と大陸』の舞台リノーサ島も、
ランペドゥーサ島と同じペラージェ諸島に属す。
映画が描き出したのは難民の困難と、
それを受け止める側の困難だった。
イタリア本土から遠く離れ、唯一の産業である漁も廃れている過疎の島。
夏のバカンスシーズンに民宿を始めた主人公の家族は、
寝室を客に提供し、自分たちは倉庫で寝起きする。

彼らは、ぎりぎりの暮らしの中でも、海に生きるものの掟と誇り、
人間としての良心に従おうとする。
だがそんな彼らを、イタリア本土「大陸」の論理は許さない。

それでも年若い息子が最後に選んだのは、難民に対してと同様、
彼ら島民の困難も平然と無視している「大陸」への、
無謀ともいえる果敢な抵抗であった。
だがそこには、抵抗だけでなく、
「大陸」が体現している「希望」もあったはずだ。

大量の難民が今も生まれている。
アフリカに、シリアに。
この大参事は、あの映画がかすかに差し示した希望ではなく、
糾弾の帰結のように、思えてならない。

 

【続報 10/5】

難民の多くはエリトリアやソマリアから、
長い陸路をたどってアフリカ大陸を地中海に抜けてきた。
ようやく乗船できた希望の船だっただろう。

沈没の経緯は、まず浸水があり、
近くを通る船に救助を求めたのに無視された(!)ため、
沿岸警備隊の注意をひこうと毛布に火をつけたのが広がって火災となった、
その後、騒然となった人々が次々に海に飛び込み、転覆したとのこと。
海岸から数百メートル(!!)の参事……。
アフリカ難民船がイタリア沖で沈没、死者300人超える恐れ
(AFP BB News 10/4)

イタリアのエンリコ・レッタ(Enrico Letta)首相はこの事故を「計り知れない悲劇」と表現し、4日を国喪日に指定し全学校で1分間の黙とうをささげると発表した。同首相はまた、この事故は「欧州全体にとっての悲劇」でもあるとして、欧州に上陸する難民数の急増に対応するため、欧州連合(EU)からさらなる支援を得たいという考えも示した。

かねてから難民問題についての無関心を批判していたローマ法王も、
「恥ずべき」事故であると演説。
・イタリア沖で「恥ずべき」事故:犠牲者は数百人に(VOR 10/4)

ローマ法王フランチェスコはこの事故を「恥ずべきものだ」としている。ヴァチカンで演説した法王は、「これは人間への尊敬が欠けていることを示すものだ。 この事故の犠牲者について、大きな痛みを感じないわけにはいかない」と述べている。 今分かっている情報によれば、移民たちは誰かに気付いてもらうために、甲板上で火をおこしたという。岸から数キロメートルのところだった。

シリアからの難民にも、
アフリカを経由して「大陸」を目指した人々がいた。
陸路ではなく、何故より危険な遠回りの海路だったのだろう?
イタリア沖で船沈没、死者110人 (CNN 10/4)

 

【続報 10/7】
イタリアの難民船沈没、当局が救助活動の不手際を否定(AFP BBNews 10/6)
イタリア沖の難民船沈没、83人の遺体回収 (AFP BBNews 10/7)

 

【続報 10/9】
欧州で難民めぐる議論が再燃、沈没事故で (WSJ 10/8)

しかし、欧州各国はその悲劇に衝撃を受けているものの、命を賭して欧州大陸に押し寄せる毎年数万人の難民の流入対策のために、政策の早急な変更や関連予算の拡大を図る動きはほとんどみられない。

イタリア当局は、この事故で行方不明となっている100人以上の捜索・救出作業を再開した。レッタ首相は、死亡した難民に象徴的な市民権を与え追悼の意を示したが、生存者155人に対しては罰金を科し国外退去を命じた。

サッカーのイタリア1部リーグ(セリエA)のローマのフランチェスコ・トッティ主将らは週末の試合に、「すべての人に生きる権利がある#ランペドゥー ザ」とイタリア語で書かれたTシャツを着て出場した。フランス紙ルモンドは日曜版に、「無関心な欧州の罪」と書かれたキャプション付きで、ランペドゥーザ 島に並べられた遺体袋の写真を掲載した。

 

【参考】
・ローマ法王:「移民の島」初訪問 伊最南端、窮状への無関心批判(毎日新聞 7/9)
・『海と大陸』

 

以下の関連記事もご参照ください。

  アーカイブ:移民・難民問題

 

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