「慰安婦問題合意」で無視された二つの感情

ianfu-goi3

一気に進んだな、とは思う。
今が解決のおそらく最後の機会だ、これで進展しなければ永久に無理だろう、というのもわかる。
ことを急がなければならない理由は元「慰安婦」たちの年齢だ、と公には言われるが、でも、そこには急がなきゃならない別の理由も大きくある。
それがゆえに、一気が過ぎた、性急すぎる、ことの運びとなったのだろう。

報道では、慰安婦像の撤去や挺隊協等反発が予想される人たちへの説得について、「今後韓国はかなりの汗を流さなければならないだろう」、というような書き方をしていたけれど、挺隊協だけでなく元「慰安婦」たちも、自分たちに事前になんの相談もなかったことに抗議の声をあげている。「合意」が被害者本人たちの頭越しになされた政治的決着であることが、あまりに露骨すぎる。

白井聡氏のFBから。(2015.12.28)

「最終的、不可逆的解決」を語れるのは、政府ではなく被害者の方々のみです(この論理を否定する立場は、自覚の有無にかかわらず国家主義であると私は思う)。それでは、被害者の方々は、何を基準に「解決とみなせる」と言っているのか。リンク先*の声明によれば、「事実の認定、謝罪、賠償、真相究明、歴史教育、追慕事業、責任者処罰」です。今回の政府間「合意」は、後半四つの項目(真相究明、歴史教育、追慕事業、責任者処罰)に関し、何一つ言及がありません。この点で、今回の「合意」は致命的欠陥に冒されていると私は考えます。

ゆえに、残念ながら、日韓関係の棘であり続けてきたこの問題は、長期的にはまたもやさらにこじれることになるでしょう。合意内容によれば、今後の日本政府の義務は、10億円を払えばそれで終わりになります。例えば、教科書検定等を通じて歴史教育を放棄(より正確にいえば「禁圧」である)しても、文句をつけられるいわれはない、ということになった。他方韓国政府側は、「もう二度と蒸し返さない」ことを義務づけられた。特に難問は、ソウルの日本大使館前の慰安婦像の移動・撤去でしょう。支援者らがこれに抵抗すれば、強権的にやらざるを得なくなります。両国政府の負った義務の不均衡は明らかだと思います。

*日本軍「慰安婦」研究会設立準備会による声明「日本軍「慰安婦」問題、早まった「談合」を警戒する」発表(アジア女性資料センター 2015.12.28)

「慰安婦」問題とは、占領国が被占領下の女性に行った人権侵害である。そのことの罪を認め、謝罪する行為が、またもや国が個人をないがしろにする図式で為されたわけで、これではせっかくの安倍首相のおわびの言葉も、賠償金代わりの金銭供与も、白々しいものになってしまう。

思うに、国と国の合意をとにかく優先させ、挺隊協も元「慰安婦」たちもそのあとで説得する、という方法論の朴政権は、(白井氏の言う「国家主義」である点において)実は安倍政権ととても親和性が高いのではないだろうか。

「最終的、不可逆的解決」を日本が迫ることは、加害者が被害者に対して、居丈高に「これでもう文句言うなよ」と脅しているわけで、まったくもって品位も誠意も無いやりかただ。安倍首相がこの点にこだわったのは、日本の「慰安婦はいない」派へのエクスキューズが必要だからだろう。戦後70年安倍談話の、「子や孫に責任を負わせてはいけない」と同じ思惑が見える。

でもなあ、これで「いない」派が納得するとは思えない。実際安倍さんのFBには「裏切られた」「もう支持しない」という文句が躍っているというが、さもありなん。内外の新聞に意見広告を載せ、アメリカで裁判まで起こしたひとたちの立つ瀬はどうなるのか、と私ですら思う。あんた、前に言ってたこととずいぶん違うじゃん、と。

周知のように安倍首相は、「いない」派の主張を補完するようなことをさんざん言ってきたし、「慰安婦問題」を問題化した朝日新聞をあからさまに批判攻撃し、「強制性」の調査までさせた人である。自ら撒いて育てた種を、破棄するために刈り取ることの説明はどうするのか。

日韓米間の政治決着であるこの「合意」でないがしろにされた個人には、「いない」派の人たちも入る。元「慰安婦」の感情も、「慰安婦はいない」派の感情も、同じように束になって刈られ、破棄されるのだ(ということに「いない」派の人たちも気付いてほしいのだが…)。

同じく白井さんのFBから。

今回の合意に関してポジティブなことがあるとすれば、次のことでしょう。まず、安倍晋三氏は、「国家の関与は証明されていない」といった類の妄言を二度と口にできないであろう、ということ。このことは、この世の中から不快なことをほんの少しだけ取り除いてくれる。それからもう一つは、今回の「合意」形成の経緯から、「日本の歴史修正主義者が歴史を修正できる範囲は、アメリカが決める」という構図があらためて周知されたことかもしれません。自国の歴史もアメリカ様から与えてもらう「愛国者」! この惨めな現状がさらされたことは、一つの前進かもしれません。

確かに安倍さんはもう言えないだろうけれど、誰かに言わせることはできる。でもでも、首相としての安倍さんの本来の責務には、他の人にも言わせない、も入るはずだ。それは、「おまえたちの責は問わないようにしてやったんだから、もうこのことは言うな」ではないだろう。「私が責を認めたということは、日本にその責務があると認めたということだ。だからあなたたちも一緒にその責を負って欲しい。かつてこの国が犯した過ちを二度と繰り返さないことによって。」首相がもし自らの国民にこのようなメッセージを発することが出来るならば、それはそのまま過ちを犯された国の人たちにも届くだろうに。

【参考】
日韓慰安婦問題「処理」に関するドイツZDFでの報道(2016.1.1)
慰安婦問題合意、欧米メディアはどう捉えたか? 韓国政府に待ち受ける難しい舵取り | ニュースフィア(2015.12.30)

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