『原発依存の精神構造』

—日本人はなぜ原子力が「好き」なのか
斉藤環 新潮社 2012.8.30

もう一度読みたいけれど、とりあえずメモ代わりに書いておこう。

サブタイトルがいい。
日本はなぜ、これほどの過酷事故を経たにもかかわらず、
また、原発の矛盾や限界や時代遅れ性やらが、
これほど露呈してきているにもかかわらず、
原発を止めることができないのかを考えるとき、
こういう切り口からのアプローチは、とても重要だと思う。

これまでさんざん、
既得権益を持つ「原子力村・ムラ」の力がそれほど強大であるとか、
「潜在的核抑止力」という安全保障上の必要性であるとか、
エネルギーの問題であるとか、雇用や産業経済の問題であるとか、
対内的な植民・棄民政策という政治社会構造の問題であるとか、
アメリカのアジア政策、世界戦略上の利益(の肩代わり)であるとか、
あるいは、これらの問題を政治家に丸投げしてきた日本国民の民主度
(=「日本というシステム」)の問題であるとか、
さまざまな「原発を止められない」理由が挙げられてきた。
実際、これらが強固かつ複合的に結びついたところに、
原発推進力があるのは確かだと思うけれど、
全ての項目をひとつひとつ論破したところで、
どうしても打ち消せないものがあるような気もしていた。
(実際論破されてもいるのに、事態は自民党政権で後退してしまった。)

たとえば、事故直後、特にDllの友人たちの原発批判に対する(無)反応や、
原発の擁護容認ともとれる発言に、何か解せないものがあった。
大きな力に異を唱えることに抵抗があるようにも思えたし、
考えをまとめていく道筋が見えていないようにも感じられた。
でも、それを単純に思考停止というにはためらいがあった。
彼女たちは本来、自分の力で考えることの出来る人たちだからだ。

ゆえに私の失望も大きかったし、そのときから気持ちはずっと停滞し、
ある種の諦念に至ってもいるんだけれど、
彼女たちの(無)反応には、
もしかしたらこういうこともあるのではないか。

著者と同じように、早い時点で、私も、
日本人は原発事故を、自然災害と同じように感覚しているのではないか、と思った。
放射能もいつかは頭の上を過ぎる、あるいは水に流れていく、
瓦礫を片付ければ、台風一過、大水が引いた後のように、
日常は戻ってくるのだと。
(だとすると、日本人は原発を持つのに最もふさわしくない国民ということになる。)

一方では、目に見えない放射能に対する過剰な恐怖がある。
それを斉藤さんは「ケガレ」と呼んで、日本人特有の心性からとらえる。
日本人特有なのは、「ケガレ」と対になった「キヨメ」もそうだ。
私は、「除染」に対する執着(これは決して住人だけのものではない、
むしろ住人以外のほうに強いようにも見える)が、
何故これほど強いのか疑問に思っていたんだけれど、
「キヨメ」という心性と考えればなるほどと思う。

折りしも、手抜き除染が顕在化した。
あまりに膨大な作業で手が回らない上に、
中間業者の無責任体質があるという構造的な問題。
一部だけ「除染」しても根本的解決にならないという、
作業現場だからこそ見える現実的な問題。
これらに加えて、この「除染」が「キヨメ」であるのなら、さもありなんと思う。
「キヨメ」は、象徴的な儀式であれば済むものだからだ。

原発を止められないのは、推進者だけでなく容認者も、
このような心的様態というか、
精神の習慣的傾向を持っているからではないかと、私も思う。
斉藤さんは、このような精神構造を「依存」と呼ぶ。

なぜドイツは脱原発できて日本は出来ないのか、
これまたずっと疑問に思ってきた。
なぜドイツには原発を検討する際に「倫理」が出てくるのに、
日本には出てこないのか。
(もちろん、脱原発側に立つ人たちは、
原発の倫理性(の無さ)を反対の理由にあげているが、
原発推進側がまともにこの点に答えている姿は一度も見たことがない。)
日本は「倫理」を「依存」で覆い隠しているのかもしれない。

一読しての感想は、非常に重要な視点、指摘であるということ。
ただ、自然観的心性も依存性もその通りだと思うけれど、
特に「依存」については、少し思考の理路を追うのが難しかった。
精神分析の用語や理論が、ちょっとね。
そういう専門的な言葉や理屈ではなくて、噛み砕いて語ってくれる人が、
もっともっと必要なんだと思う。

そのことはきっと著者も重々承知のことではあろう。
だから文学や表現の話が出てくるのだ。

原発で一番最後に残るのは、立地自治体の問題だと思っていたけれど、
そう言えば彼らの受容も、「麻薬中毒」にたとえられる。
脱原発に対する抵抗は、ゆえに誰よりも大きい。
原発に関して「依存」は、最も重要なキーワードなのかもしれない。

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