アラブの春で期待したことの一つに、
パレスチナ問題の進展があった。
実際エジプトがモスリム同胞団政権になると、
ガザとシナイ半島で人と物の移動が増加したし、
2012年のイスラエルのガザ攻撃も、モスリム同胞団の仲介により停戦に至った。
今、エジプトのシシ政権は強固な反モスリム同胞団であり、反ハマスである。国境も地下トンネルも封鎖された。ガザはより完璧なゲットーとなった。このことがガザを攻撃するイスラエルをどれだけ利しているか。
その後、国境はけが人を運ぶ救急車などに限定的に開かれるようにはなった、そう報じられてはいるけれど、どこまでのことなのかはわからない。聞こえるのは日々増える死者の数、流れてくるのは内臓が飛び出したような子供の遺体写真ばかりである。
セカンドブログにも書いたけれど(中東ウォッチで見えるもの)、イスラエルの本音は、パレスチナ人などいなくなればいい、ということにつきるように思える。こうしてイスラエルはますます(今も残る)反ユダヤ感情を増幅させている、そう指摘する人もいる。
イスラエルの論理は、反ユダヤ主義に対する自衛(攻撃が最大の防御だって ? )だという。先日クローズアップ現代で、ガザ攻撃に参戦している兵士の恋人という女性がインタビューに答えていた。パレスチナが自分たちを追い出そうとしているのだから、反撃しかないのだ、というような意味のことを言っていた。
私には長いこと、何故イスラエルは、自分たちがかつて被った民族浄化を、今パレスチナに対して平気で行えるのかが疑問だった。ヨーロッパのあちこちでゲットーに閉じ込められたことを、ナチスのホロコーストを批判するのなら、何故それと同じことを平然と行えるのか。何故ナチスには許されないことが自分たちには許されると思えるのか。これはある種の「報復」なのか。ただし対象はナチス残党でも、ナチスに手を貸したヨーロッパでもなく、目前の圧倒的な弱者であるパレスチナである。
岡真理さん(だったと思う)はどこかで、イスラエルの暴虐はホロコーストを体験したからこそなのだ、と書いていた。わかるような気もするけれど、いまだに良く飲み込めていない。ただし今回のガザ攻撃を見ていて、少しだけ彼らの(狂気を帯びた)恐怖が見えたようにも思う。
クローズアップ現代で、イスラエルの女性が言っていた。ハマスのおかげで、自分たちは心安らかに暮らせないのだ、飛んでくるミサイルが怖くてカフェでゆっくりお茶も飲めない、そのような暮らしがあなたたちに想像できるか、と。
彼女に、ではガザで暮らすというのはどういうことなのか、あなたに想像できるのかと、聞いてみたかった。カフェでお茶どころか、避難した先の学校や、病院の屋根の下ですら、安全に眠ることができない。封じ込め、ゲットー化した地域になされる圧倒的な軍事力による攻撃を、迎撃システムで撃ち落とせるハマスのミサイルと同等に語ることの異様さ。
けれども、彼女にそのような言葉は通じないだろう。恐怖や憎悪は数値化して比較対照など出来ないからだ。
何年かおきにくりかえされるガザへの攻撃は、イスラエルで「芝刈り」と呼ばれているという。ハマスという「芝」が伸びてきたから「刈る」のである(ひどい言葉だ。が、この言葉を使う人がパレスチナ人をどう思っているかが、よおくわかる言葉使いではある)。
6月にヨルダン川西岸のファタハとハマスの統一がなった。このことが今回のガザ攻撃を引き起こしたことは間違いないように思う。三人の少年の殺害事件はただの口実で、きっとこれがなくとも攻撃は行われただろう。
イスラエルは、パレスチナが対等な国家として出現することを、それだけ怖れているのだ。反ユダヤ主義に対する恐怖というけれど、私には、自分がなしたことに対する報復を恐れてのことのようにも見える。暴虐を尽くせば尽くすほど、暴虐を行うしか安心できないという救いがたい図式が、そこにはある。
日本のマスコミでは、ハマスの対イスラエル攻撃をテロと呼ぶイスラエルの主張をそのまま伝えることが多い。そのことの誤りを岡真理さんは指摘している。
ガザの集団懲罰/ラシード・ハーリディ 岡真理訳
たとえば、昨日の「クローズアップ現代」では、ハマースは「イスラエルの生存権を認めない」「イスラム原理主義組織」で、トンネルを掘って、イスラエルに侵入し、テロ攻撃を行っていると言われています。
イスラエルに侵入してハマースが行うのは、イスラエル兵の拉致など軍への攻撃です。ガザも西岸もイスラエルに占領されており、また難民の視点に立てば、イスラエルとなったパレスチナもイスラエルに占領されており、占領軍に対する占領下の住民の武装闘争は正当な抵抗権とされるものです。これを「テロ」と呼ぶのは、明らかにイスラエル側に偏った見方です。
ハマースに、彼らの正当な抵抗権である武装闘争を放棄させるのがイスラエルの狙いで、アメリカもEUもその方針に従っています。国際社会が、違法な占領自体を問題にしないで、占領者に対し占領の終結を求めずに、その反対に、被占領者に対して彼らの権利である武装闘争を放棄せよと迫るとしたら、私には倒錯した話に聞こえます。
(ハマスとファタハの統一について)分裂していては、国家樹立などできません。統一政府の発足は、民族自決に向けた第一歩でした。ハマースは統一政府の閣僚にハマースのメンバーを一人も入れませんでした。国際社会が推進している(はずの)二国家解決を、政治的・外交的努力によってハマースはなんとか実現しようとしています。そもそも、民族自決は当然
の権利です。しかし、イスラエルはパレスチナ国家の独立を、受け入れることができない、それゆえの攻撃、それゆえの殺戮です。
ガザの集団懲罰
ラシード・ハーリディ 2014年7月29日イスラエルがガザで今、行っていることは、集団懲罰である。ガザが従順なゲットーになることをあくまでも拒否することに対する懲罰だ。[ハマースとファタハが和解し統一政府を創り]パレスチナ人が厚かましくも統一したことに対する懲罰であり、そして、ハマースやその他の党派が、イスラエルの封鎖や挑発に対し、非武装の抗議行動を何度もイスラエル軍に粉砕されたのち、武力やその他のやり方で抵抗することで応えたことに対する懲罰である。何年にもわたり停戦していたにもかかわらず、ガザの封鎖は解除されなかった。
合衆国がイスラエルの現行の政策を支援することがなぜ、間違っているのか。北アイルランドでも、南アフリカでも、和平が実現した。なぜなら、合衆国や世界が、強者の側に圧力をかけなければならないと理解したからだ。強者の側の責任を問い、その不処罰をやめなければならないことを理解したからだ。
北アイルランドと南アフリカは完璧な例にはほど遠いが、しかし、公正な結果を実現するには、合衆国が、ゲリラ戦をおこないテロにまで手を染めていたアイルランド共和国軍(IRA)やアフリカ国民会議(ANC)のようなグループと交渉することが必要だった、ということは覚えていてよい。それが、平和と和解へ至るための唯一の道だった。パレスチナの場合も、根本的に違うというわけではない。
だが、そうする代わりに合衆国は、強者の側をえこ贔屓している。この、世界についてのシュールで、転倒したヴィジョンにおいては、まるでイスラエルがパレスチナ人に占領されているかのようだ。事実はその真逆だというのに。この歪んだ宇宙観の中では、世界最新鋭の軍隊のひとつをもち、核武装した強国を監獄の囚人たちが包囲していることになる。
もし、私たちが、この非現実性から目を覚ましたいなら、合衆国はその政策を反転させるか、「誠実な仲介者」などという主張を捨て去らねばならない。合衆国政府がイスラエルに資金や武器を提供したいなら、理性と国際法に真っ向から逆らうイスラエルの論点を鸚鵡のように繰り返したいのなら、そうすればいい。だが、そうするのであれば、高い道徳的見地を主張したり、平和について厳かに語ったりすべきではない。今、ガザで死んでいるパレスチナ人やその子どもたちのことを気にかけているなどと言って、パレスチナ人を侮辱してはならない。
■ラシード・ハーリディ
コロンビア大学教授。アラブ研究。パレスチナ研究ジャーナル誌編集委員。1991-93年のマドリード・ワシントンで開かれたパレスチナ-イスラエル交渉のパレスチナ代表団顧問の一人。近著に『虚偽の仲介者たち』。
[翻訳:岡 真理]
ラシード・ハーリディ教授は「懲罰」という言葉を使っているが、内実は「懲罰」などというレベルのものではない。「芝刈り」も根こそぎ、である。私が感じているのは「消し去りたいという意志、あるいは望み」だけれど、それは「殲滅」という端的な言葉で、既にイスラエルによって口にされている。
2014年第三次ガザ戦争の底流に流れる思惑―「民族浄化」への道
(臼杵陽 朝日中東マガジン 7/30)
今回の「第三次ガザ戦争」において特徴的なことは、イスラエル社会においてこれまでもわずかながらも兆候として見られたものの、今回、イスラエル国民の一 部が白日の下に堂々と口にし始めたことに象徴的に示されている。すなわち、テロの殲滅という表現がいつ間にかパレスチナ人の殲滅という表現にとって代わってしまったことである。この変化の根底に流れているイスラエル社会内部の潮流は連綿として続く深い地下水脈として無視しえないものであろう。他者との共存といった考え方はすでにイスラエル社会では少数派の中の少数派になってしまったからである。
(ネタニヤフ)首相はアメリカとの関係をも顧みず(両国間のホットラインも機能していないといわれる)、右派的な政治圧力に背中を押されるようにガザ戦争を開始したが、アラブ世界の混沌とした政治的な現状の中で、中東地域におけるイスラエルの安全保障をいっそう危ういものにしていくだろう。弱体化したハマースに決定的打撃を与えたところで、ハマース以上に過激な政治組織の成長を生み出すだけだからである。
追記 8/1
金曜日から72時間の停戦合意との報あり。
一方でイスラエルは16000名の予備役を追加徴収。
(中東の窓 8/1) gaza情勢(停戦合意)
カイロでイスラエルとパレスチナが協議することになっていますが、イスラエル紙のネットによれば、イスラエル側はシンベト長官、IDFの政策・政治軍事局 長を含む代表団が既に7月30日到着済みで、パレスチナ側はアッバス議長に率いられ、ハマス及びイスラム・ジハードの幹部を含む代表団が31日到着の予定 とのことです。
➾ 残念ながら数時間で停戦破棄。双方とも相手が守らなかったから、と。
フリージャーナリストの田中龍作はガザから発信を続けている。
田中龍作ジャーナル【ガザ発】~8/1
※当初、本記事タイトルや本文に、イスラエルによる定期的なハマス叩きを「草刈り」と記載しておりましたが、岡真理さんがインタビューで「芝刈り」とおっしゃっていましたので、当記事でも「芝刈り」とあらためました。
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