これは必視聴(8/6まで無料)–ガザ封鎖と民族浄化 / IWJ Independent Web Journal

「イスラム原理主義」~内実のない言葉を用いる主流メディア

 大手主要メディアでハマスのことが報道されるたび、「イスラム原理主義組織」であり「ガザ地区を実効支配する」と説明される。しかし、岡氏によれ ば、「イスラム原理主義」という言葉は、様々な現象に貼られる「レッテルのようなもの」だという。中東の専門家は学術用語として、この言葉を用いることは ないと岡氏は言う。

 ハマスはれっきとした政党だ。2006年に実施された評議会選挙で民意の付託を受けている。政治的立場は、イスラム法による社会統治を目指すもの。これ自体は、メディアを通じてイメージ化される「イスラム原理主義」とは何の関係もない。

イスラエル国防軍は「芝を刈る」~封鎖の構造的暴力

 2006年の評議会選挙でハマスが勝利し、ガザの地を実効統治し始めると、イスラエルは封鎖という行動に出る。

 「境界にそって築かれた分離襞により、文字通り、監獄のように180万人が閉じ込められているのです。随所に監視タワーがある。境界線から1.5キロメートルに立ち入ると、発砲される危険がある」。

 陸路、海路、空路のすべてが完全封鎖。住民の出入りが不可能なのはもちろん、物資、医薬品、電力など生きるために必要なあらゆるものが入ってこない。生活は常に低水準に置かれる。ガザでは乳幼児の52%が栄養失調状態、世帯の6割が食糧難の状態にあり、人口の8割に相当する150万人が、何らかの 国際援助がなければ食べていけない。

 封鎖が恒常的にある一方で、さらに今回のように、数年に一度の大規模な攻撃作戦が実施される。

 「この繰り返される攻撃のことを、イスラエル軍の隠語で『芝を刈る』と言うそうです。放っておけば人口がどんどん増え、破壊したものも元通りになる。だから、定期的に芝を刈るように、攻撃で破壊する。生活するのがやっとの状態に常にしておくのです」。

民族浄化とイスラエル国家建設

 「芝刈り」は66年前のイスラエル建国当初からすでに開始されていた。1947年11月に、国連でパレスチナ分割案が採択された。パレスチナの地をイスラエル国家とアラブ国家とに分割するものだったが、人口の3分の1を占めるに過ぎないヨーロッパ系ユダヤ人に、パレスチナ全土の半分以上を認める不公正なもの。しかも同時期には、ユダヤ民兵組織によるパレスチナ人に対する民族浄化がすでに起きていた。

 民族浄化の現場は凄惨なものだった。「軍事作戦による強制的な追放もありますが、占領した町や村で見せしめの集団虐殺やレイプがあります」。1948年4月にエルサレム郊外で起きたデイル・ヤシーンの虐殺では、100人以上が集団殺戮された。

 「虐殺が目前に迫り、着のみ着のままで逃げ、やむにやまれず国境線を越えてしまった人びとは、その後、故郷に帰ることができない」。一方、イスラエル側 は「彼らは自発的にいなくなった。軍が村に着いたときには、すでにいなくなっていた」と主張する。難民化の責任からは解放され、民族浄化の事実は抹消される。

 1967年にイスラエルはガザとヨルダン川西岸を軍事占領。直後から、パレスチナの地場産業は徹底的に破壊される。地元での経済活動が不可能になり、住民たちは生きていく術を失う。流れていく先はイスラエル。「パレスチナ人はイスラエルへ出稼ぎに出て、経済体制の底辺労働を担うことになります」。

 「47年からの民族浄化をアラビア語で『ナクバ』、大きな災いと呼びます。この時に難民となった人のうち20万人がガザに行くこととなりました」。

 現在ガザに居住する180万人のうち、8割を超える150万人が、ナクバによって難民となった人びとの子孫だ。その人びとは、いまだに故郷に帰還できないでいる。「ナクバ、民族浄化にさかのぼる歴史的文脈を抜きにしては、何も語ることはできないはずなのです」。

シオニズムというイデオロギー

 イスラエル建国には民族浄化を必要とした。岡氏はその理由を「可能な限り純粋な『ユダヤ人国家』を建設するために、物理的にアラブ人を排除する必要があったのです」と語る。

 19世紀後半、ユダヤ社会の一部から、ユダヤ人による国家建設が唱えられ始める。シオニズム運動である。「反ユダヤ主義から遁れるためには、ユダヤ人がマジョリティを占めるユダヤ人国家を建設しなければならない、という政治的運動が生まれます。これがシオニズムです」。

 ただし、シオニズム運動は、ヨーロッパのユダヤ人の国を、パレスチナの地に作るというもの。「これは完全な植民地主義」であると岡氏は指摘する。

 「ユダヤ教徒ではあるかもしれないが、ヨーロッパ人が力にものをいわせて、大半がイスラム教徒、キリスト教徒のアラブ人が暮らしているパレスチナの土地に、自分たち、ヨーロッパのユダヤ人の国を作ることを当然と考えた。大英帝国の軍事力の行使により、ヨーロッパ人の国を作る」。

 むろん、すべてのユダヤ教徒が、シオニストであるわけではない。むしろ正統派のユダヤ教徒は、シオニストを『逸脱』と見なしてきた。「ディアスポラ状態の苦難は神の試練であり、それを甘受するというのが正統派ユダヤ教徒のアイデンティティでした」。

 イスラエルは、自分たちのことを、世界のユダヤ人の祖国だと主張する。しかし世界のユダヤ人には、シオニズムのイデオロギーを肯定しない人が大勢いると岡氏は話し、米国の「Jewish Voice for Peace」や、カナダの「Not in Our Name」といったユダヤ団体が、イスラエルによるパレスチナ人への暴力の正当化に強く反対している例を挙げた。

 「『ユダヤ人=シオニスト』ではないことを押さえておかなければならない。世界の大勢のユダヤ人が、シオニズムというイデオロギーに抑圧されているパレスチナ人に連帯している。このことを忘れてはいけないと思います」。

尊厳ある生への戦いを物語る

 一日でも早い停戦が必要なことは間違いがない。だが、停戦をしただけでは、ガザの構造的暴力を取り除くことにはならない。ハマスが7月16日に、封鎖解除を求めるとともに、10年間の完全停戦を申し出た。イスラエルは停戦案に応じることなく、17日に地上軍を投入した。

 「ただ停戦になっても、ただ攻撃前の状態に戻るだけならば、封鎖解除がなければ、『殺戮なき、緩慢なジェノサイド』を生きる、あるいは死ぬ、ということにしかならない。

 『とにかく、殺されさえしなればいいだろう』ではなく、どのように生きるのか、尊厳なき生であれば、自分はそんなものはいらない、尊厳ある死のほうがいい、という場合だってあると思います。これは、私は、文学だと思うのです。

本当の「積極的平和」

 ガザで繰り返される戦争犯罪は、国際法に則り、しかるべき場において裁かれることがなかった。「イスラエルに対しては不処罰の伝統があります。だから、他者の目を気にせず何でもできてしまう。この悪しき伝統に終止符を打たなければならない」。

 裁きには国際社会の決意が必要、と岡氏は語る。岡氏の言う「国際社会」からは、大国首脳の会談風景はイメージされない。「国際社会とはどこかにあ るのではなくて、私たち一人一人が構成している」。それは一般市民の決意であり、日本の市民ならば、自分の国がどのようにイスラエルに関わっているのかを見定めた上でなされる決意である。

 「日本が開発に参画している兵器が次のガザ攻撃で使われるとしたら、『積極的な戦争』であり、『積極的な平和破壊』であり、けして『積極的平和』ではありません。

 本当の『積極的平和』とは、戦争犯罪を犯した者たちを国際法に則って裁く方向に、日本政府が圧力をかけていくことです。そういう風に、政府を動かしていかなければならないと思います」。

 「答えはシンプルです。イスラエルが封鎖をやめ、占領をやめることです」、岡氏は言う。(IWJ・藤澤要)

参考記事 (追記 8/23) 

・ガザ虐殺を後押しする安倍政権の「積極的平和主義」(役重善洋 8/18)
ナチスのジェノサイドの生還者、および生還者と犠牲者の子孫たちは、ガザにおけるパレスチナ人の集団殺戮を全面的に非難する (岡真理 8/15)

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