2017年5月19日「共謀罪」が衆院法務委員会で強行採決された。
何度目の強行採決だろう。
強行でなければ採決できないような紛糾ものを、次々に強行していく政権。
小田嶋さんの「あきらめ」と同様のあきらめを私も抱いている。
あの選挙の時から。
たぶん日本は、もう一度か二度重篤な事故が起きなければ原発をやめられないのだろうし、72年前のように道を誤っても、それが破綻するまでずるずると引かれていくのであろう。民主主義と主権を自ら獲得できなかったことのこれはツケかもしれないと、思わないでもない。韓国を見ていると特に。
でもいつか、絶対に、「運」は尽きる。潮目は変わる。その時は来る。そうも思っている。
共謀罪衆院法務委員会で強行採決。ここまで立憲政治と政党政治が空洞化したことは、僕の知る限り過去にありません。これは「日本が終わる」徴候なのか、「いまのシステムが壊死する」徴候なのか。後者であると僕は信じています。熟果は必ず腐り落ちる。
— 内田樹 (@levinassien) 2017年5月19日
犯罪的なミスリード
願わくば、政権の強弁を真に受け、あるいは半信半疑であっても自分は「一般人」だから無関係と主張している人たちが、72年前のようなかたちで自ら(とこの政権)の過ちに気付く前に、その時が来てほしい。
ただし、法律は残る。使い勝手の良い法律は、どんな政権でも手放そうとはしない。むしろ最大限に活かそうとするだろう。権力とはイデオロギーの如何にかかわらず、そういうものだ。
小田嶋さんの記事に対するコメントを読む。途中で読むのがいやになる。明らかな事実誤認がある。体よく乗せられている。もちろん、そうでないコメントもある。でも、頑迷な主張のほうが声高なのである。なぜなら感情で動かされているから。
「共謀罪」について犯罪的なのは、政権によるミスリードである。なぜ必要かという理由に、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の締結と、これによるテロの未然摘発をあげ、首相はこの法律を通さないとオリンピック開催が出来ない、というようなことまで言い放った。
通称パレルモ条約と呼ばれるTOC条約は、マフィアなどの組織犯罪を取り締まるためのもので、そもそも「対テロが目的ではない」と、国連で条約の立法作業にかかわった米ニコス・パッサス教授自身が述べている。
「条約、対テロ目的でない」 国連指針を執筆・米教授 「共謀罪」政府説明と矛盾
安倍晋三首相は4月6日の衆院本会議で、「(TOC条約は)テロを含む幅広い国際的な犯罪組織を一層効果的に防止するための国際的な枠組み」と述べた。しかし、パッサス氏は「イデオロギーに由来する犯罪のためではない」とし、「利益目的の組織犯罪を取り締まるための条約だ」と話した。
「新規立法が必要か」との質問に、パッサス氏は条約に加わるために(1)組織的犯罪集団が関与する重大な犯罪行為への合意(2)組織的な犯罪集団に参加――のいずれかを処罰する法律が必要だと説明したうえで、「既存法で加盟の条件を満たすのであれば、新法の必要はない」と語った。
この条約がテロ対策に適用され得るとしても、では、すでにTOC条約に対応して法整備を行った他国でテロは防げているかというと、防げていない。
小田嶋さんは上記記事で、不肖・宮嶋の朝日新聞に載った「共謀罪」賛成の意見に触れている。私は不肖・宮嶋がきらいではないのだけれど、氏が「共謀罪」でテロを防げると思っていることに驚愕した。不肖・宮嶋は数々の戦争の現場を渡り歩いているカメラマンである。国家の、時に欺きと同等の戦争の論理を目の当たりにしてきた人も、テロに対する認識では政権の言うことをうのみにするのか!?
小田嶋さんの記事に対するコメントに、北朝鮮の脅威を上げている人がいた。拉致問題を上げている人もいた。北朝鮮の脅威もまた、「共謀罪」必要論を後押しするものとして煽られているフシがある。厳密に言えばこちらの脅威はミサイル攻撃なわけで、憲法9条改憲(加憲)向けであろう。「共謀罪」とは関係ない。拉致問題もしかりである。にもかかわらず、彼らはこれを共謀罪と結びつける。このようなひとたちは、「共謀罪」があれば敵の攻撃から国家が守ってくれると思っているのであろう。
もうひとつ見落としてはいけないことは、277もある犯罪対象に、パレルモ条約に関連するいくつかの重要な犯罪が含まれていないことである。
共謀罪法案の実像を見れば、テロ対策目的がどこにもないばかりか、本来マフィア対策の条約である国連国際組織犯罪防止条約への対応としても説明のつかない内容になっている。
今回共謀罪処罰の対象から除外された犯罪類型は、警察などの特別公務員職権濫用・暴行陵虐罪や公職選挙法・政治資金規正法違反の罪など、公権力を私物化する罪、また、規制強化が国際的トレンドになっている民間の賄賂罪などである。
これは国際社会によって求められているのとは正反対の方向性である。
言わずと知れたことであるが、マフィアの犯罪撲滅の難しさに、公権力や企業との癒着がある。この条約の本丸に絡む犯罪が除外されているということは、もっと大きくクローズアップされるべき論点であった(公権力の私物化の「忖度」を共謀罪で罪に問えるとすれば、森友&加計学園問題も違う展開になるはずである)。
現実的な日本のテロリスクと対策について、伊勢崎さんの提言など
「テロの世紀」になりつつある21世紀のテロについて、日本で起こりうるテロのリスクを、彼らはどのように考えているのであろう。
「共謀罪」がさらに犯罪的であるのは、テロに対する現実的な問いを、現実的な対応策の検討を、封じ込めてしまうことだ。テロには政治的、社会的な主張がある。今世界で起きているテロがもし日本で起きるとしたら、彼らの主張は何か。これを検討しないことには回避策も生まれない。
おりしも世界で猛威を振るったランサムウェア攻撃に、北朝鮮の名前があがった。確定的な証拠はないが、すでにテロは新たな手法を獲得してもいるのである。
昨夜伊勢崎賢治氏の『テロリストは日本の「何」を見ているのか – 無限テロリズムと日本人 -』を読了した。伊勢崎さんが危惧するテロのリスクに、「共謀罪」は全く役に立たない。
日本が狙われるのは「アメリカの代わりに」である。としたら、これだけ胎内に米軍を宿している日本はどうすればいいのか。オリンピックを前に本当にしなければいけないのは「共謀罪」の強行採決などではなく、氏の提言のほうである。
伊勢崎さんは、テロリストがもし日本に深刻なダメージを与えたいと思ったら、海岸線から原発を狙う、と言い切る。私たちは米軍基地と原発というターゲットを国内に大量に抱え込んでいる。にもかかわらず、特に核施設たる原発のセキュリティ対策は、アメリカなどに比べて非常に甘い。
これらのターゲットをなくすことは、現実的には(短期的には)不可能だ。伊勢崎さんは、セキュリティの強化以外に、もっと重要な方法を指摘している。日米地位協定の改定である。そこに、以下の項目を入れる。
在日米軍基地が日本の施政下以外の国、領域への武力行使に使われることの禁止
ものすごく大それた文言のような気もするが、イラク戦争後に駐留したアメリカ軍とイラク政府の交わした地位協定には、この項目があるという。だから交渉によりアメリカの譲歩を引き出すのは十分可能だと、伊勢崎さんは言う。
これはISのようなグローバルテロリズムに向けて「アメリカに出て行ってもらうのは、あんたらのせいじゃない別の理由で、少し時間がかかるけど、絶対に日本から攻撃させないようにするから」と高らかに発信することです。
滑稽でしょう。当たり前です。仮想敵に向かって原発を並べて成り立ってきた日本の国防論議なのですから。何をやっても滑稽なのです。だからやるのです。グローバルテロリズムの目をそむかせるために、できることは何でも。
もう一つの提言は「9条下の戦争」をこれ以上行わないような歯止めを、憲法にもたせること。言われてみれば日本は、9条があっても、自衛隊をアメリカの戦争の「後方支援」に出し続けてきたわけで、安保法制による集団的自衛権の行使容認以前にすでに、戦争に参加してきたのである。この、「グローバルテロリズムの震源地近くでの軍事力の見せびらかし」が、「即、日本の国防の脅威として跳ね返ってくる」ことを、テロ対策としてはまっさきに考えるべきではないだろうか。
これを制限するための伊勢崎「新9条」案は以下である。
1. 日本国民は、国際連合憲章を基調とする集団的安全保障(グローバル・コモンズ)を誠実に希求する。
2. 前項の行動において想定される国際紛争の解決にあたっては、その手段として、一切の武力による威嚇又は武力の行使を永久に放棄する。
3. 自衛権の行使は、国際連合憲章(51条)の規定に限定し、個別的自衛権のみを行使し、集団的自衛権は行使しない。
4. 前項の個別的自衛権を行使するため、陸海空の自衛戦力を保持し、民主主義体制下で行動する軍事組織にあるべき厳格な特別法によってこれを統制する。個別的自衛権の行使は、日本の施政下の領域に限定する。
伊勢崎さんの改憲案は以前も紹介したけれど、安部首相が9条3項で自衛隊の存在明記を言い出したこのタイミングで、今こそ、検討に値する案だと思う。
現9条の1項2項をそのままに整合性のない3項を加憲しても、今ある自衛隊の「おかしさ」は解消されない。憲法に記載すれば「違憲」ではなくなる(しそれでいい)、というのはあまりに短絡的かつ表面的なイージーなものの考え方見方で、一国の憲法の論議としてまことにおそまつだと思う。
自衛隊の「おかしさ」は、軍備を放棄している国にある軍隊であるということの他に、交戦権を放棄しながら、アメリカの戦争に、「後方支援」「自衛隊の行くところが即ち非戦闘地域」などというへんてこりんな用語を駆使して、参加してきたところにある。
この論議は、アメリカの戦争に日本はどう対処するのかという日米安全保障条約に及ぶけれど、これに関して伊勢崎さんは、第二次世界大戦の敗戦国であるドイツやイタリア並みの対米対等性の獲得と、アメリカの対インサージェント(反政府闘争)軍事ドクトリンに非武装で参加する道を提案している。
国際紛争調停の現場を見てきた伊勢崎さんならではの指摘だと思う。(アメリカの)戦争の占領政策と戦後処理において、このドクトリンを成功させることこそが、その後の国の安定、すなわちインサージェント(テロ)の抑止となるのだ。これをその国に武力攻撃を行った(米)軍ではなく、攻撃に参加していない第三国である日本の非武装の自衛隊がやる。日本国内だけでなく、アメリカ(とその同盟国)へのテロリスクを、日本が減らせるのだ。9条とのねじれもない。戦争を放棄した平和国家日本だけが行える国際貢献であり、日米同盟行使である。
二・三年、などという時間軸で出来ることではない。オリンピックまでにはなどという目標をたててやるべきことでもない。それにこれは、硬直した国家主義回帰の、戦争が出来る「普通」の国になりたい政権に、できることでもない。でもこれこそが日本の生きる道に思える。
「共謀罪」のねらい
話は戻って「共謀罪」である。小田嶋さんの記事のコメントを読んでいて、個別のコメントというよりも「共謀罪」支持派に全体的なあるトーンを感じた。
彼らの反「共謀罪」派に対するいらだちや反発、もっと言えば敵意のようなもの。お前たちはテロを容認するのか(的外れなんだけど)、という怒りのようなもの。
彼らには反政府的な言動は許すまじきものと映っている。ここから、このような輩は「共謀罪」で取り締まられてしかるべきだ、というところまであと半歩。
何故現政権がこれほどやっきになって「共謀罪」を成立させたいのかと言えば、彼らにも同じようないらだちや敵意や怒りがあるのではないかと思う。そこに恐れを加えてもいいかもしれない。これさえあれば、うるさいデモも、政権批判も収まって、「枕を高くして眠れる(不肖・宮嶋)」。うまい具合に、テロと北朝鮮とオリンピックでミスリードも出来る今が好機と。
「共謀罪」により警察権力は強まり、日本は監視社会となるだろう。言論は委縮し、市民活動も自制的になるだろう。加えて、密告社会になるかもしれない。けれども忘れてはならないのは、その社会は間違いなく、彼らのような「一般人」(=親安部政権派)や、現安部政権内部の人たちの上にも訪れるのだということ。
(5/20日、大幅に加筆)
追記 5/21, 24, 26
国連の人権調査担当者が安部首相に、「共謀罪」はプライバシーと表現の自由を制約する危惧がある、という内容の書簡を送ったとの報。議論の不十分な点も「人権に有害な影響を及ぼす」と危険視しているとのこと。
「共謀罪」懸念の書簡 国連特別報告者「プライバシー制約」(朝日新聞 2017.5.21)
内容については、(1)法案の「計画」や「準備行為」が抽象的で恣意(しい)的な適用のおそれがある(2)対象となる犯罪が幅広く、テロや組織犯罪と無関係のものを含んでいる――などと指摘し、「どんな行為が処罰の対象となるのか不明確で、刑罰法規の明確性の原則に照らして問題がある」。「共謀罪を立証するためには監視を強めることが必要となるが、プライバシーを守るための適切な仕組みを設けることが想定されていない」などと懸念を示した。
その後日本政府は調査担当者ケナタッチ氏に「強い抗議」を伝えたという。結果、ケナタッチ氏からの「中身のないただの怒り」という更なる批判を招いている。
「共謀罪」書簡の国連特別報告者 日本政府の抗議に反論(東京新聞 2017.5.23)
内容は本質的な反論になっておらず「プライバシーや他の欠陥など、私が多々挙げた懸念に一つも言及がなかった」と指摘した。
抗議文で日本側が、国際組織犯罪防止条約の締結に法案が必要だと述べた点について、ケナタッチ氏は「プライバシーを守る適当な措置を取らないまま、法案を通過させる説明にはならない」と強く批判。法学者であるケナタッチ氏自身、日本のプライバシー権の性質や歴史について三十年にわたって研究を続けてきたとし、「日本政府はいったん立ち止まって熟考し、必要な保護措置を導入することで、世界に名だたる民主主義国家として行動する時だ」と訴えた。
共謀罪の最大の問題は、警察の運用が恣意的になったときの、歯止めと情報公開と検証の制度がないことです。
例えるならアクセル全開なのに、ハンドルとブレーキが見あたらない車。
裁判所も歯止めにはならない。平成27年の逮捕令状の発布は100,880件もあるのに、却下はたった62件。— 弁護士 小口 幸人 (@oguchilaw) 2017年5月20日
参考:
共謀罪の狙いはテロ対策ではない! スノーデンの警告に耳を傾けよ — 合法化される政府の国民監視
木村草太×青木 理「『共謀罪』の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法の改正案について」2017.04.21
6月15日、参院で「凶暴」採決。
そんなに加計学園問題での追及を避けたかったのか(都知事選への影響と)、通常の委員会採決を飛ばしていきなりの採決であった。16日、文科省の資料の存在が「確認」され、内閣側は内容をほぼ全否定。国会閉会。
「安部一強」だから、と言われる。では、本当にこの政権はそれほど強いのか。違うだろう。本当は強くないから、持っている武器をなりふり構わずに使う。その凶暴な顔は弱弱しく、かつ醜い。
6/22
「共謀罪」法、政府に失望 国連特別報告者カナタチ氏(Yahoo/朝日デジタル 6.21)
カナタチ氏は日本政府の国会審議の進め方について「反対論を強引に押しつぶし、世論や法的論理に逆行した。プライバシー権や表現の自由を保護する義務を怠った」と非難。さらに、「テロに対する市民の恐れを利用し、そもそもテロ対策が目的でない国際条約への加盟を口実に、成立を押し通した」と指摘した。
今後も、「共謀罪」法と国際人権法が整合しているかなどについて質問した自らの書簡に対する政府の回答を求めるとともに、「プライバシー権を保護するための措置を改善すべきだと言い続ける」と訴えた。
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