ラマダンという宗教祝祭 — 「テロ」ではなくイフタールを!

ラマダンという宗教祝祭 — 「テロ」ではなくイフタールを!

ここ数年、イスラム教徒ではないのに、ラマダンの時期が気になる。
イラク戦争(とその戦後処理)の失敗と、
それはつまり「テロとの戦争」の失敗でもあるのだけれど、
もうひとつの失敗、「アラブの春」(による民主化)の暗転によって、
ラマダンが「テロ」の増加が懸念される時期になってしまったからだ。

昨年もそうだった。少なくともそう見えた。今年も5月27日にラマダン入りして以降、そう見える。懸念は懸念として払しょくできない。警戒は警戒で必要だとも思う。しかも警戒が必要な地域は、中東から東西南北へと広がりつつある。

けれども、「テロ」はラマダン以外の時期にも起きている。安直にラマダンを「テロの時期」と言ってはいけないと、自戒を込めて思う。でないと、イスラムと「テロ」との見境のない関連付けと同じになってしまう。

今各地で起こっている「テロ」の核にある問題は、政治的社会的なものであるということ。宗教が「テロ」行為の理念として利用されるとき、だれよりも被害をこうむるのは、圧倒的多数の、その宗教で平和に暮らし、平和を願っている人々だということ。

誰が言ったんだっけ? 毛沢東、だったっけ? どこかで最近読んだんだけど(伊勢崎さんの本か..)。
民衆とゲリラは水と魚だ。民衆をこちら側につけられれば、魚は干上がる、と。

水と魚を一緒くたにしたまま魚だけを排撃しようとしても、成功するわけないよね。だって水が魚と一緒に流されれば、残った水からまた魚が生まれるから。

テロを防ぐ方法も同じだよな、と思った。「テロとの戦争」で、テロはなくならない。平和のイスラムに依拠して生きる人たちを「こちら側につける」ことしか、私たちにできることはない。彼らが抱えている政治的社会的問題の解決が、そのあとに続く。

ラマダンの概要は(私の理解では)、断食月には日中は飲食や性欲などの欲望を経って過ごす、というイスラムの宗教行為。食事もとれない貧しい人たちの苦痛と、その救済(断食明け)の喜びを共にし、宗教的な達成感や一体感を得るもの。五行というムスリムに課された行為のひとつ(ちなみに他の四行は、信仰告白、礼拝、喜捨、メッカ巡礼)。断食月が毎年変わるのは、太陰暦であるイスラム歴(=ヒジュラ歴:アッラーがメッカからメディナへ遷都した年を起年とする)の9月と定められているから。

非ムスリムの私たちが正確に理解するのは難しいけれど、わかるのは、ラマダンの信仰実践としての重要性であり、しかも決してネガティブなものではない、ということだ。禁欲とそれを成し遂げた褒章が表裏一体となった宗教祝祭、私にはそんなふうに見える。褒章は精神的な高揚や達成感というだけでなく、日が沈めば一転ご馳走にあずかることができ、それを分け与えあうという、非常に具体的肉体的な喜びであり、貧富階級格差で横断的なところも、いかにもイスラムらしいと思う。

この、日中の断食後の最初の食事イフタールは、日本のモスクなどでも提供されているらしい。東京ジャーミイではトルコから招いたシェフの料理を、非ムスリムでも無料で体験できるという。苦行抜きでもご褒美あげるよ、お祭りだからね、という太っ腹で、体験者の写真を見たら純粋に美味しそうであった。

東京ジャーミイ>ラマダン>イフタール
東京ジャーミイのイフタール(断食明けの食事)に参加してきました

このイフタール、首相官邸でも在京イスラム諸国外交団を対象に開催しているという。イフタールの趣旨からいったら「外交団」だけというのもおかしいし、そもそも禁欲しない人がイフタールを開催できるんだろうか、という素朴な疑問もある。在京イスラム諸国外交団主催、官邸協賛(資金提供)、基本イスラムなら誰でも、というのが正しいんじゃないかと思うんだけれど。

あれこれ見ていて目に止まったのは、ドバイの7つ星ホテルの観光客用イフタールミールクーポン。100ドルという豪華なお値段(5つ星ホテルだと60ドル台~)で、それでもラマダン以外のときより割安なのだとある。

現地旅行会社が主催するオプション観光サイトのお値段なので、ホテルに直接予約すればもう少し割安にはなるんだろうけれど。ってそそられる気持ち半分、でもなんか違うんじゃない?というのが半分。これはイスラムの寛容なのか、イスラムの別の側面なのか、というより、さすがドバイ!なのか…。

いやいや、そうじゃないよ、というのが、ドバイガイドによるこちらの記事。ホテルのイフタールもすすめつつ。
2017年ドバイのラマダン(断食月)

ラマダン中なので、お酒やベリーダンスを楽しむことはできませんが、イスラム情緒にどっぷりと漬かりたい人には、1年の中で最高のシーズンと言えるでしょう。

特にガイドがおすすめしたいのは、シェイクモハメッド殿下がイスラム教やドバイについて外国人観光客に正しく知ってもらい、楽しんでもらえることを目的に様々な文化アクティビティーを開催している非営利団体SMCCU(シェイクモハメッド センター フォー カルチュラル アンダースタンディング)が毎年行う、イフタールミールです。ホテルなどでのイフタールとは違って、現地人によるレクチャーや食事中の交流なども楽しみのひとつ。基本英語でのレクチャーとなりますが雰囲気やディナーを楽しむには最高の場といえるでしょう。

ラマダン中は『喜捨』を心がける教徒が多く、裕福な家の前や公共の広場などに大きな『ラマダンテント』と呼ばれるテントが張られ、稼ぎが少なく恵まれない人たちに無料で『イフタール』を振舞う光景を目にします。

一行目がネックだけれど、一晩くらいなら…と、やはりそそられる内容。

もちろん、ラマダン中の危険情報は重々チェックのうえで。
外務省の海外安全ホームページ

06/05

残念ながら、イギリスでまた車を使った襲撃事件があった。この種の事件のたびに思うのだけれど、特に単独犯の場合、これは本当に「テロ」なのだろうか、ということだ。たとえISの犯行声明が出たとしても。複数人での計画的な襲撃(イランでのような)と単独犯の無差別殺人を、同じ「テロ」という一言でくくっていいのか。

ほとんど犯人はその場で射殺されてしまい、彼らの動機や主張は不明のままなのではないのか。単独犯による無差別襲撃事件は、無差別通り魔事件(たとえば秋葉原の事件)と何が同じで、何が違うのだろう。

ISのテロが5月27日からのラマダーン月に起きるかもしれない(Newsweek 2017.5.23)
ラマダン中の「全面戦争」をISISが宣言した(Newsweek 2017.6.1)

ISISの「血塗られたラマダン」から世界は抜け出せるか(Newsweek 2016.7.11)

 

動画:トランプタワー前でイフタールを食べよう、宗教の違いを超えて市民たちが集結 (2017.6.3)

 

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