昨日の金曜礼拝後のデモで、大きな衝突は起こらなかった模様。よかった。
人数は、同胞団側が万単位、タハリール広場は千人規模とのこと。
ただ、タハリール広場では、ラマダンの日没後の食事をとったとあり、
政治デモの色合いは薄かったのかもしれない。
今日もいくつか興味深い記事があった。
筆頭はこれ。
・同胞団に改革運動 最高指導者辞任求め署名活動 (毎日jp 7.12)
【カイロ樋口直樹】軍事クーデターに反発するモルシ前大統領の支持母体「イスラム組織ムスリム同胞団」内で、最高指導者バディア氏の辞任を求める運動が 起きていることが11日、同胞団関係者の話で分かった。固い結束力を誇る同胞団で指導部に反発する活動が公然化するのは極めて異例で今後、エジプトの政治情勢に影響を与える可能性もある。
先日読んだ『アラブ革命の衝撃』に、同胞団内部にも若い指導層が形成されている、
新たな動きもあるんだ、と書かれていたが、
実際に彼らの姿が見えないではないか、と思っていた。
が、それはただ報道されていないだけだった。
つづく部分を全文引用。
運動は「改革運動」と呼ばれ▽バディア氏らが組織改革を訴える若者グループの要求を無視しメンバーに暴力行為を強いた▽バディア氏の存在は同胞団の分裂を招く−−と主張。バディア氏が辞任するまで同胞団の活動をボイコットすることを誓う署名活動を8日から行っている。
運動を始めた元弁護士で同胞団メンバーの、アハメド・ヤヒヤ氏(30)によると、同胞団の中心的な活動家4000〜5000人のうち、すでに約1000人が署名に応じたという。賛同者はカイロ東部ラバ・アダウィーヤ広場の座り込みをやめ、自宅へ戻ったという。
ヤヒヤ氏は毎日新聞の取材に、カイロ北東部の共和国防衛隊施設前で50人以上の死者を出した8日の衝突 について「指導部は暴力に発展する危険性を承知しながら『防衛隊本部にモルシがいる』と言ってデモ隊を扇動した」と指摘。「問題はどちらが撃ったのかでは なく、衝突が起きるような状況が作られたことだ」と同胞団指導部を厳しく批判した。
ヤヒヤ氏はさらに、「モルシ政権時代に経済が悪化し、ガソリンや電力、水道水が不足するなど市民生活に 重大な影響を与えた」と指摘。「(同胞団は選挙で国民の支持を得たが)モルシは同胞団に対する国民の期待を裏切った張本人だ」と話した。軍のクーデターに ついても「軍部はすぐに国権を最高憲法裁判所長官をトップとする暫定政権に委ねており、クーデターではない」と主張した。
また、同胞団は「上意下達」的な組織構造を改め、市民生活改善のため「市井の声」に耳を傾けるべきだと主張。モルシ氏の復権まで暫定政権に協力しないとする指導部とは逆に、世俗リベラル派を含む他の政治勢力とも協力し、暫定政権による民主化プロセスに加わることも求めている。ヤヒヤ氏は「(緊張状態にある)今は適切な時期ではないが、いずれ(他の政治勢力と)連携できる日が来ると信じている」と語った。
この層が暫定政権の呼びかけに応える可能性は、どれくらいだろうか?
同胞団は二つに割れるかもしれないが、
この改革派の主張するところによれば、
世俗派との協力関係は現実の問題となる。
もう一つは、中東の専門家、酒井啓子さんの記事。
・中東徒然日記 エジプト 反革命か革命の継続か (Newsweek 7.11)
酒井さんも、今回の政変を「クーデタ/革命」と、カッコつきで併記している。
私も少し前からこの書き方をすることにした。
関係者それぞれの主張と、周囲の思惑や利害関係が錯綜している現時点では、
これが一番忠実な呼び方だという気がする。
たまたまイギリスにいたという酒井さんの耳に聞こえてくる声が、
かなり過激であることに驚いた。
会議で一緒になった、イラク人の旧左派知識人にも聞いてみると、政権転覆大絶賛である。「でも民主的に選ばれた政権なのに」と指摘すると、「ムルスィーが担った政権は暫定的なものだ。ムバーラク後の混乱を収拾し、社会経済を安定させたうえで、本格的に民主主義の制度化を進めていくことになっていたのに、選挙に強いという強みを利用して同胞団は制度固めだけさっさと進めた。きちんと民主化されて、大統領罷免などの権利が確保されたシステムが確立されていたのであれば制度に則って行動できたが、不十分な制度化では『造反有理』しかないんだ」。
「でも、多くの支持者を抱え、広い支持基盤を持つ同胞団にこんな措置をすれば、同胞団が過激化するばかりじゃないですか」、と尋ねると、「だって 彼らはすでに過激だよ!」という反論が返ってきた。筆者も知り合いのエジプト人研究者からこういうメールを受け取っている。「やった! 極右テロリストの 宗教的仮面が剥げ落ちた!」
昨年のカイロでも、
「ムルスィー政権の悪口とエジプトの急速なイスラームの政治化への危惧」
を聞いたという。
これまで、欧米の偏見、支配、圧力を第一の敵としてきた中東では、人々はそれへの反駁としてイスラームをアイデンティティの核におき、欧米による政策の押し付けに反対してきた。…70年代まで主流だった西欧型の近代化モデルが、経済的には格差を、政治的には世俗政治家の独裁化と腐敗を生んできたことを反省して、それに代わる健全な社会経済発展の道をイスラームに求めた。それがイスラーム主義の台頭である。
欧米型世俗化路線は失敗した。なら、イスラーム主義政党に任せてみてもいいじゃないか。それを単純に「非民主的だ」といって拒む欧米は、ケシカラン――。それが、ごく数年前までの流れだったはずだ。それが今、逆の図柄が描き出されている。民主的に選ばれたのだからイスラーム政党でもムルスィー政権に正統性がある、と感じる欧米諸国。選挙で選ばれても自分たちの代表ではない政権を倒していいんだ、と主張するエジプトの世俗知識人たち。驚くのはエジプト軍の行動を、イスラームの盟主たるサウディアラビアが諸手で支持していることだ。
反ムルスィー派の主張は、「任せてみたけどイスラーム政党は失敗した」である。この「クーデタ/革命」が、70年代からオルタナティブとして期待されてきたイスラーム主義が、実際の政権運営能力がない――かつて某野党が選挙で大勝しながら政権運営ができず次に大敗したように――ことを決定づけた出来事なのか、それとも、今後も続くイスラーム主義時代の幕開けに起きた「反動」に過ぎないのか。
本当に彼らは、揺れに揺れ、模索に模索を重ねているように思う。
大きな生みの苦しみのただ中だというようにも見える。
静岡県立大の宮田律教授の記事。
今回の経緯、背景、同胞団が主張する「選挙で信任を得た」とする実態、
周辺国の動きなどをまとめたもの。
・なぜ、エジプトの大統領はクーデターで解任されたのか?
他方で、ムスリム同胞団出身のモルシ大統領の解任はパレスチナのムスリム同胞団の支部であるハマスの力を弱めることになる。また他方で、ムスリム同胞団よりも急進的で、イランとの関係が太い「イスラム聖戦」の影響力を高めることにもなるだろう。
エジプト政治がこれから安定するかどうかは軍部や、反モルシ大統領のデモに参加した勢力が政治の多元主義をどこまで認めるかにかかっているように思える。他方、ムスリム同胞団も寛容性を維持すべきで、同胞団がテロやゲリラ闘争に訴えれば、イスラム政治勢力に対するイメージをエジプトの国内外で損な うだけだ。
エジプトの政情不安によって国際商品市場の振れ幅が激しくなり、ニューヨーク原油先物相場は9日の時間外取引で、1年2カ月ぶり高値近辺で推移し ている。エジプトが管理するスエズ運河の輸送に関する懸念もその高値の材料となっている。エジプトの政変は、日本にとっても決して無縁ではない。
一方、こちらはかなり軍より?の見方。
でも他であまり読んでいない話もあるので。
・ガザのハマースをどうするかがエジプト軍の課題 (中東TODAY 7.12)
佐々木氏は、今回の動きを完全に「革命」とみる立場のようだ。
その根拠に、大統領以下拘束はしたが、武力は行使していない、ということらしい。
拘束は武力ではないのか、とも思うけれど、
氏は、むしろ大きな武力的な衝突を防いだのだ、と言う。
この大衝突を前に、軍はもうひとつの手を打っていたのだ。それはエジプト国内の混乱に乗じて、ガザからハマースのテロリストが潜入し、デモ隊に対して発砲を始めとする、暴力行為に出ることを阻止したことだった。
2011年1月25日に起こった第一革命では、ハマースがエジプト国内に潜入し、エジプトの刑務所を破壊しハマースのメンバーや,ムスリム同胞団員を脱獄させていたのだ。
エジプト軍は今回の第二革命でも、モルシー政権(ムスリム同胞団)がハマースのテロリストを使うことを恐れ、事前に手を打った。もちろんそれには、モルシー大統領の許可が必要であった。エジプト軍はシナイ半島でエジプト兵が、何者かによって人質に取られた、それを奪還しなければならない、したがってモルシー大統領に許可して欲しい、と申し込んだのだ。
モルシー大統領は軍の要請を断るわけにはいかなかったので、軍のシナイ半島における、人質奪還作戦を許可することになる。エジプト軍は人質奪還という名目で、精鋭部隊をシナイ半島の北部に送り込んだ。そこは述べるまでもなく、ハマースの拠点であるガザに隣接する地域なのだ。
こうしてエジプトで第二革命が起こる前に、ガザのハマース側はシナイ半島へのルートを、遮断されたのだ。このため第二革命勃発時に、ハマースがテロ集団をエジプトに送り込む作戦は、不可能となったわけだ。だから第二革命では死者が、ほとんど出なかったのだ。
問題はこれからだ。ムスリム同胞団は徹底抗戦の構えのようだが、そうなればムスリム同胞団のミリシア部隊が、軍事行動に出る危険性が高まろう。加えて、 同じムスリム同胞団の組織であるハマースがガザから、援軍を送ろうとするであろう。それを事前に阻止しなければならないという、困難な作業がエジプト軍に は残っているのだ。
またもや、う~む、とうなってしまう内容だが、
同胞団が国境を越えた組織体であることは確かだし、
徹底抗戦を唱えてもいるし、過激化すれば、あるいは過激化が表面化すれば、
軍があらゆる方向からの攻撃に対処しなければいけない、
というのはあるのであろう。難しい話である。
が、難しいのはこれだけではない。
政変の引き金を引いたのが経済の困窮だとすれば、
その経済がますます逼迫するとどうなるのだろう?
・湾岸国支援も危機続く 輸入小麦備蓄は2カ月分(msn 産経ニュース 7.11)
また、同胞団が世俗派ではなく、はけ口としてコプト教徒攻撃に及ぶ危険性もある。
混乱期の宗教対立、宗教内部対立、といった側面が前景化するのだ。
・動乱エジプト:「政治と宗教、分けて」 少数派・コプト教徒、暫定政権に期待
また、この記事も目を引いた。
ムスリム同胞団ではないのに、ニカブ姿が批判攻撃されるという、
何というか、原理化とともに、反原理という原理性も高まるというパラドクス、
いや、人々の気持ちがそれだけ狭量になり、先鋭化しているのかも。
・エジプト:保守的衣装「ニカブ」着用女性、嫌がらせ対象に (毎日jp 7.12)
最後に、海外の記事の概要をまとめたもの。
・エジプト、揺れ続けるふりこ 怒りと憎しみの連鎖は断ち切れるのか?
(NewSphere 7.13)
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