アメリカとアラブ5か国がシリア北東部で空爆を開始し、10日がたった。
ニュースを追っているけれど、よくわからないことが多い。
気になっていたのはトルコ国境であり、トルコの動きだ。
9月23日のトルコの人質解放で、
トルコの対IS攻撃不参加の(表向きの ? )口実が無くなってしまった。
IS とトルコで人質解放にどのような取引があったのか。
ISはトルコとの国境に近い地域に攻撃を続け、
シリアのクルドたちが大挙してトルコに逃げ込んでいるという。
【10月2日 AFP】イスラム教スンニ派(Sunni)の過激派組織「イスラム国(Islamic State、IS)」が、シリア北部のトルコ国境沿いにあるクルド人の主要な町アインアルアラブ(Ain al-Arab、クルド名:コバニ、Kobane)にさらに迫っている。英国を拠点とする非政府組織(NGO)「シリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)」が2日、警告した。クルド側の一部戦闘員は前線から撤退したという。
・イスラム国の進攻、トルコ国境にさらに接近:AFPBB News
10/2日、トルコ議会は対 IS 参戦を決議した。トルコは国内のクルド人組織と和平交渉を進めていた。国境に近いシリアのコバニはクルド人の町である。対IS参戦は自国のクルド人対策の一環とも難民対策ともとれるが、シリアとイランは、トルコはこの地域を自国に取り込もうとしていると反発している。
トルコが対IS連合への参加を渋っていたのは、アサド政権を利するからであった。それゆえ、シリア侵攻はIS攻撃(だけ)ではなくアサド攻撃をも目的にしているのではないかという見方もある。
・ 『トルコIS(ISIL)戦争に参戦議会決議』 (中東TODAY10/3)
一方で、英仏に加え、オーストラリアもイラク空爆を承認した。
・豪、イラク空爆承認=特殊部隊派遣も−対イスラム国 (時事ドットコム 10/3)
・対「イスラム国」の軍事作戦に参加している国々、主な顔ぶれ:AFPBB (9/30)
取り急ぎ今夜はここまででアップ。
10/6
トルコ人人質解放には、以前からISの人質50人との交換であったという未確定なニュースはあった。それが今日になって、トルコで捕えられていたISの外国人戦闘員2名との交換であるとのTwitterが流れてきた。他には武器との交換などという話もあり、やはり本当のところはよくわからないままだ。(付:10/7 トルコが拘束していた外国からの参戦志望者180名をISに引き渡した。その中には2名の英国人も入っていたようだ、との報あり)。
同様に、参戦決議はしたものの、トルコが実際にどのような動きに出るのかもよくわからない。「中東の窓」の野口氏は、「kobaniの陥落は許さないと言いながら、現実には軍の介入の様子も見えないこと」に、裏付けはないとしながらも、いくつか考えられる理由を挙げている。
現在ならば、トルコ軍がkobani に入れば、未だ同市を陥落させていないISの侵入を防ぐのは(トルコ軍の実力をもってすれば)容易だと思いますが、ISが一旦同市を占拠してしまったあとではその排除には相当の犠牲も伴い、しかも容易ではない(何しろ市街戦になる)と思われます。
さらには、ISが陥落させれば、防衛のクルド人を虐殺することは目に見えており、そうなればトルコ国内のクルド問題に火がつくことも十分考えられます。また、トルコの直ぐ目と鼻の先にISの拠点が生じることはトルコ自身の安全保障の観点からも、絶対に好ましくないことではないかと思われます。そこでの疑問は、何故ここまで来てもトルコ軍が動かないかということです。無い脳みそを絞っていろいろ考えて見ても次のようなことは思い浮かぶが、これだろうと言う答えがありません。
・トルコの実力を知っているISは、トルコ首相の警告で恐れをなして、占拠はあきらめると見ている(ISがそれほどやわな相手でないことはこれまで実証されていると思う)
・トルコ軍の実力をもってすれば、占領したISの排除は簡単と見ている。
・ トルコとしては、kobaniを含めたシリア領のトルコに隣接した地域を、安全地域と宣言し、飛行禁止地域として、そこにトルコ領内にいるシリア、クルド 難民を相当移すことを考えているが、シリア領内への安全地帯設置でもあり、シリア政府が猛反対し、衝突の危険性もあるので、米英等の参加を希望しているが、米国等は消極的で、トルコの希望に応じる様子が見られない。
そこで、kobani の陥落という現実を突きつけて、米国等の安全地帯への協力をとりつける(エルドアンは前から安全地帯の設立を提案しており、あり得るシナリオかと思うが、そのためにクルド人多数が犠牲にされることとなり、非人道的とされる可能性あり)・もう一つdiabolical な考えとしては、ww2の時のワルシャワ蜂起が想起されるが、何しろPKKは昔からのトルコ政府の最大の敵で、その下の組織のYPGをトルコ兵の犠牲も覚悟して救おうと言う気が起きない。
むしろ、ここはワルシャワの対岸まで来ていたソ連軍が、ナチスに反共のポーランド国内軍の青年を皆殺しにさせた後で、おもむろにナチスをワルシャワから追い出したと同じように、ISをしてYPGを痛めつけさせるのが得策と見ている。
(このシナリオは上に書いた通り、diabolicalではあるが、BBC等の現地実況でも、トルコが動くのに消極的な理由として、PKKに対する歴史的反感をあげている)・ISと何らかの裏での交渉ができている
・トルコのIS政策(碌でもない質問ですが)(「中東の窓」10/4)
「中東TODAY」の佐々木氏も、トルコの参戦には欧米とは別の目的があると言う。即ち、「シリアの反政府勢力であるFSAとISを戦わせるように見せ掛け、FSAを強化し、アサド体制を打倒すること」。同時に、表向きクルドを助けるふりをしながらも、実質的にクルドの力を削ぐことも意図していると、野口氏の予測とも重なる点を指摘している。
そうなるとこの飛行禁止区域の設定は、アサド体制側つまり、シリア軍の軍事行動を規制することが目的だということになる。それはFSAを有利にすることになるのは、述べるまでも無い。
エルドアン大統領が希望しているのは、この飛行禁止区域の設定に合わせ、緩衝地帯の設定だ。この緩衝地帯が設定されれば、シリア軍はその区域に、軍事侵攻できないことになる。その範囲がどの程度であるかは分からないが、それは将来的には、トルコの影響力の、極めて強い地域になろう。つまり、実質的なトルコ領土になるということだ。
エルドアン大統領はスレイマン大帝廟の、絶対保護を叫んでいる以上、当然、スレイマン廟のある地域も、その対象となろう。また、現在激しい戦闘が展開しているといわれている、コバネ地域もその中に含まれよう。
ただし、この地域はトルコが秘密裏に、ISの支配を許すのかもしれない。なぜならば、トルコ領内に逃れた難民の多くが、コバネに帰還して戦闘に参加しようとしているが、トルコ政府はそれを拒んでいるからだ。
そうなると、コバネでは不利な立場におかれるクルド側に、多くの死傷者が出るであろうし、ISによってコバネが支配されることが予測される。そのような事態は、トルコのエルドアン大統領にしてみれば、クルド対策上好都合なことであろう。
シリアの北部にいるクルド人は、トルコの反体制クルド組織であるPKK(クルド労働党)と連帯しているといわれているYPG(クルド人民防衛隊)であり、そのシリア・クルド人が窮地に立たされることは、トルコのエルドアン大統領にとって、歓迎できることであろう。
そのことを正確に把握しているから、PKK(クルド労働党)アブドッラー・オジャラン議長は『トルコ政府がシリアのクルドを守らなければ、和平交渉は止める。』と語ったのであろう。
・エルドアンの意図はアサド打倒IS攻撃ではない(「中東TODAY」10/5)
イラク北部でISと戦っているのがやはりクルド人である。ペシュメルガという民兵(というかトルコ自治区の軍隊?)組織がISに抗し、キルクーク油田地域の占有やアルビルでヤズィディ教徒保護に当たった。地上戦には参戦したくない米欧は、イラク政府軍だけでなくこのペシュメルガに武器や資金の援助を行っているわけだけれど(政府軍は脆弱ゆえ)、以前から疑問だったのは、じゃあ米欧は(シリア・イラク及び周辺国も)クルドの分離独立をどう考えているのだろう、ということだった。
イラクでクルドが力を増せば、シリア・トルコ地域のクルドと一体になっての分離・独立にも弾みがつくし、場合によっては米欧に独立支持援助を取り付けることも可能になるかもしれない。が、野口氏や佐々木氏の論考は、トルコはそれを許さない、それどころか、この機会にクルドの力を削ごうという意図も見え隠れしている、というものだ。
一方イラクは、トルコの地上部隊参戦を拒否している。
・「地上部隊派遣は望まない」、イラクはトルコ軍の対IS参戦を拒否
(al-Hayat紙 10/5)
その他参考記事
・シリア:地上軍派遣は内政干渉 トルコの承認けん制(毎日新聞 10/6)
・「イスラム国」恐れトルコへ シリア難民、18万人急増 続く砲撃、逃れるクルド人ら(朝日デジタル 10/6)
・トルコのシリア北部に対する政策は1991年のイラク北部に対するものとそっくり(中東・イスラーム学の風姿花伝 10/5)
対IS戦の行方
すでにアメリカ空爆直後から、誤爆によって殺された子供の写真が流れてきている。これからも死者は増え続けるだろう。
・「イスラム国」戦闘で市民9347人死亡 国連報告書(朝日デジタル 10/6)
シリア難民は8月末に300万を超した。今回のISコバニ包囲だけでも、トルコに逃げ込んだクルド人の数は18万人ともいう。また、密航での死者の数も増加している。
・移民難民:渡航途中で死亡4万人以上 密航業者が招く悲劇 (毎日新聞 10/6)
この泥沼の戦争がさらに多くの犠牲を伴うことは確かだ。だが、にもかかわらず、米欧の対IS攻撃で実際の効果があがっていないとの報告がある。
米国が主導する空爆はイラクとシリアのイスラム過激派組織「イスラム国」に警告を発する狙いがあるが、米政府と同盟国にも痛烈なメッセージを送っている。つまり、懸念していた通りイスラム国掃討はあらゆる面で難しい、というメッセージだ。
米国が、支援するシリアとイラクの部隊による地上戦開始に向けて準備するなか、空爆でイスラム国が混乱している兆しが見られる。イスラム国と敵対する現地 の人や米当局者によれば、戦闘員らは拠点から逃げ、夜間に少人数で移動し、探知を避けるため携帯電話や無線通信機器の電源を切っている。
だが、これまでのところイスラム国はおおむね空爆に耐えており、現場で圧力はほとんど受けていないようだ。空爆開始前に掌握した土地はほとんど放棄してい ない。シリア東部でアサド政権と戦う活動家は「空爆はこれまでのところ無益だ」とし、「訓練場や基地の大半は、空爆時には空だった」と述べた。
・「イスラム国」空爆、影響わずか 混乱の兆しも支配地は維持
(WSJ 10/6)
冷泉彰彦氏は、アメリカの今回の武力介入には「一貫したストーリーがない」と指摘している。まずシリアでは、ISだけでなくコーラサンという初めて耳にする武装勢力を攻撃したこと、アサドを利するシリア空爆で、「『アラブの春』による独裁政権の打倒運動は『正義』だというオバマ政権が一貫させていた態度も曖昧になった」こと、イランとの関係の見直しや対テロ戦略等において、結果として「支離滅裂な印象」を与えると。
アメリカが開始したのは「一体誰のための、誰が相手の戦争なのか?」かなり曖昧な作戦となりました。では、オバマは何の考えもなく、無責任に軍事力を行使したのでしょうか?
必ずしもそうとは言えません。明らかに危機的な状況があり、そこに対症療法的に関与を始めた、その限りにおいてオバマにはオバマなりの合理性はあるのだと思います。ですが、アメリカが本格的に「新たな戦争」に突っ込んでいくという理解をする必要はないと思います。
対処療法的な戦争には、言うまでもなく、国内問題もあるだろう。いずれにしろ、だらだらと泥沼のまま長期戦となるような気はする。
このオバマの対ISの姿勢を、朝日の川上記者は「多くの危うさを含んでいる」と言う。
オバマ大統領は9月11日の演説で、まず「2つのことを明確にしたい」と言い、第1点は「イスラム国はイスラム的ではない。どんな宗教も無実のものを殺さない」とし、第2点は「イスラム国は国家ではない。元々はアルカイダに属し、それを承認している政府もなければ、従っている民衆もいない。単なるテロ組織だ」と述べた。
オバマ大統領は「宗教は無実のものを殺さない」とイスラム国を批判するが、3年半で16万人以上が死んだとされるシリア内戦で、アサド政権による無差別攻撃でどれだけの無実の人々が死んだかを考えれば、昨秋、アサド政権への空爆を断念したのに、今回、なぜ、シリアのイスラム国への空爆を決断したのかという大きな疑問が出てくる。さらに今年7月から8月にかけての50日間に、イスラエル軍によるガザ攻撃で2000人以上のパレスチナ人が死に、その多くが民間人だったことを考えれば、同盟国であるイスラエルの非人道的な武力行使に対して米国はどれだけ真剣に対応をしたのかも問われるはずだ。
イスラム国への空爆について「正義」を語るオバマ大統領は、中東での米軍の軍事介入がいかに否定的に見られているかを自覚していないようだ。米軍がイスラム国を攻撃すれば、それだけで中東・イスラム世界では、イスラム国への支持が強まることになる。空爆が続けば続くほど、イスラム国は米国によるイスラム教徒の「受難」の象徴となり、世界中から「イスラム国を救え」と言う声があがり、イスラム教徒の若者が「ジハード(聖戦)」のために集まることにな りかねない。
9・11米同時多発テロの後に、ブッシュ大統領は、「文明の側に立つか、野蛮の側に立つか」と世界に二者択一を求め、「対テロ戦争」に踏み込んだ結果、世界を分裂させ、米国自体も軍事的に外交的に深い傷を負った。その二の舞になってしまいかねない。
オバマ大統領は「イスラム国はイスラム的ではない」として、まるで一般のイスラム教徒からは切り離された特殊な存在と考えているかもしれない。しかし、イスラム国が実施しているような厳格なイスラム法の実施を求める「サラフィー」と呼ばれる厳格派は、イスラム教徒の中で例外的な存在でも、孤立した存在でもない。
この根っこには、オバマ、というより米欧のイスラムに対する無理解がある。加えて、米欧が中東で正義や人道を持ち出した時のダブルスタンダードがある。これはアラブ社会では周知の事実であるという。
中東・イスラム世界では、米国が中東に介入するのは、同盟国のイスラエルを守るためか、石油利権を守るため、という2つの理由しか信じられていない。オバ マ大統領がイスラム国への空爆で「真の宗教」や「無実の者への殺害」など、正義や価値を唱えても、その言葉は、中東のイスラム教徒には全くと言っていいほど、信用されない。
米国が始めたイスラム国との戦いでの最大の協力者がサウジアラビアだというところに、大きな矛盾もある。演説の前にオバマ大統領はサウジのアブドラ国王に電話をして、協力を要請したと報じられている。米国はサウジにシリアの穏健派反体制組織に支援の強化を求め、サウジで反体制勢力の訓練もするという。
オバマ大統領はイスラム国空爆の理由として「野蛮な行為で、2人の米国人ジャーナリストの命を奪った」と述べた。「野蛮な行為」とはYouTubeの映像などで流れた斬首による処刑のことだろう。しかし、斬首による処刑は、サウジでも行われ、国際的人権組織アムネスティ・インターナショナルは人権違反とし て非難してきた。今年8月に出たアムネスティの資料によると、1985年から2013年までに2000人以上が処刑され、ほとんどの処刑が斬首によるとし ている。今年8月4日から22日までの間に「少なくとも22人」が処刑されたとしている。
・・・斬首処刑が、現代の人権感覚とは全く会わない「野蛮」であるとするならば、イスラム国の斬首処刑は「野蛮」だが、サウジの場合はそうではないという議論は成り立たない。両者の違いは、イスラム国は「反米」で、サウジは「親米」という以外にないだろう。
イスラム国を「野蛮」と非難する米国の論理は、一見、人権意識などに基づいているように見えるが、同じく斬首を実施し、国際的な人権機関からも批判されているサウジと共闘することによって、両者が価値観を共有しているのではなく、利益を共有しているにすぎないことが露呈してしまう。
・・・・・・
驚くのは、米国が支持していると主張する自由シリア軍の間でさえも、米国に対する見方は非常に批判的だということである。米国によるイスラム国の攻撃が続けば、中東・イスラム世界での「反米」が強まることは避けられない。「イスラム国」をこれ以上肥大化させないで、イスラム国が支配する地域で、過激なイスラムを掲げる勢力を抑えるためには、シリアとイラクでの政治を正常化し、イスラム国を支援している地元の民衆や部族などの地元勢力を、イスラム国から離反させる方法しかないだろう。
シリアの正常化とは、アサド政権の非人道的な暴力を食い止める国際的な取り組みを強めることであり、イラクの正常化は、マリキ前政権時代のシーア派支配によるスンニ派勢力の不満を解消する権力分有のシステムをつくることである。
正常化の流れという意味では、イスラエルによるパレスチナ自治区への非人道的な攻撃を許さない仕組みをつくり、エジプトの軍事クーデターによって挫折した「アラブの春」後の民主化や政治的な自由などを実現することも必要である。それぞれ当然のことだが、それをしなかったことが、「イスラム国」に結果しているのであり、イスラム国を力で潰そうとすれば、さらに混乱を深めていくことになろう。
・オバマ大統領の「イスラム国」への宣戦布告の危うさ – Asahi中東マガジン (川上泰徳 9/18)
そして今一番重要なのは、家を追われ、犠牲を強いられた人々のことだ。
もうすぐまったなしの冬が訪れる。
10/7 IS コバニに侵攻
ISがコバニ(アイン・アル・アラブ)に侵攻し、一部地域を制圧したとの報。
・イスラム国、シリアのトルコ国境の要地に侵入 町の一部を制圧 (AFP 10/7)
・シリア:「イスラーム国」、アイン・アラブに突入(al-Hayat紙 10/7)
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