アサド政権がきっちりスケジュール通りに報告書を出した。
しかも米政府が驚くほどの完成度だという。
・シリアの化学兵器申告、「予想以上の完成度」と米当局が驚き (CNN.co.jp 9/22)
が、『シリア』を読んでいた私は驚かなかった
(米政府も『シリア』読んだらいいのに)。
おそらく米欧は、バッシャール・アサドという政治家も、
シリアという国のことも、見くびっていたのだろう。
シリアの化学兵器破棄同意はただのポーズで、
時間稼ぎにしかすぎず、国連にはいい顔をするだろうが、
それに騙されてはいけない。どうせ本気で破棄するつもりなどないのだ、
というような見方がある。
アメリカも同じような認識だったのかもしれない。
もちろん、アサド政権が100%化学兵器を放棄するのか、
そのつもりが本当にあるのかは、わからない。
大量の化学兵器の処理が、技術的に簡単でない、ということもある。
・国連、シリア化学兵器報告書の検討に乗り出す
(The Voice of Russia 9/21)
また、アサド政権には、
秘密警察を持つような二重政治構造の独裁政治を行ってきたこと、
民衆デモを武力弾圧し、その後も民衆を殺戮してきたこと、
化学兵器を使ったかもしれないこと、等の罪科はある。
けれども、政権側にであれ反政府側にであれ、
武力・武器・資金援助を与え、軍事介入をしようとする国の、
「正義」や「人道」を口実にした覇権と利権追及(と民衆殺戮)の論理も、
私には受け入れがたい。
このような国際=米欧政治のねじれた構造が、
地域の特殊性を無視して近視眼的利益に走るあまり、
ビン・ラディンのアルカイダを生んだ。
そのアルカイダ(系組織)が、今またシリアの反政府側に入り込み、
内戦の混迷を一層深くしているのも、皮肉なことである。
昨日、トルコ国境に近いクルド人の村で、
アルカイダ系ヌスラ戦線とクルド人系連合の対立の話を紹介したけれど、
こちらはアレッポ県のアザズという町でのニュース。
反政府側の拠点となっていたアザスは、
18日にアルカイダ系ISISに占拠されたものの、その後停戦の合意に達した。
アサド政権と反政府側との停戦の前に、
まず反政府側内部で「停戦」が必要だということの異様さ。
・シリア北部の町占拠、反体制派とアルカイダ系勢力 対立の背景
(AFP BBNews 9/21)
反体制各派とFSA(自由シリア軍)にとって、ISISとアルカイダ系イスラム武装組織「アルヌスラ戦線(Al-Nusra Front)」は以前からジレンマの原因になっていた。
実戦の中でISISとアルヌスラ戦線が政府軍に対する有効な戦力であることは証明されていた。そしてFSA上層部は両者と戦術的に協力する用意があった。
しかし、アルカイダ系は、
アサド政権に対する戦闘能力ですぐれているだけでなく、
その暴力を、反政府側や民衆にも向けた。
シリアの反体制各派は、安定的な兵器の供給を受けて支配地域を拡大し「政府軍に匹敵する」ともされる残忍さを示すISISに怒りを募らせており、ここ数か月、反体制派がその大半を支配下に置いているシリア北部を中心に反体制各派とISISの間で緊張が高まっていた。
一方でISISは、FSA(自由シリア軍)の最高軍事司令部傘下の一部の反体制勢力を、欧米と協調する「異教徒」だと糾弾していた。
こうした中、反体制派の統一組織「シリア国民連合(Syrian National Coalition)」は20日、「FSAの戦闘員に銃を向けたことはシリアの革命とそれが達成しようとする理念に反する行為だ」として、異例のISIS 批判に踏み切った。
ここには、アルカイダに武器がわたることを怖れる、
アフガニスタンの轍を踏みたくない、という米欧に対する、
反政府側のアプローチもあるのだろう。
しかし、欧米諸国はシリア国内の戦場にISISとアルヌスラ戦線が存在することを理由に反体制派への支援を、殺傷力を伴わないものにとどめてきた。反体制派に提供した武器がイスラム過激派の手に渡ることを恐れたためだ。
フランスのフランソワ・オランド(Francois Hollande)大統領は19日、「管理された環境下で」、「多数の国が同時にこれを行う」場合に限りFSAへの武器供与を支持すると明言した。米国も反体制派に提供した武器がアルカイダ系組織の手に渡る懸念を繰り返し表明している。
フランス(アメリカ)は、
FSA(自由シリア軍)がアルカイダ系と手を切れば、
あるいは、その関係が「管理」されるのなら、という条件で、
武器を供与しようとしている。
けれど、これでは内戦の鎮静・停止ではなく、
激化・継続につながってしまう。
そもそもアルカイダ系組織は、なぜ、
「政府軍に匹敵する」ほどの戦力を持っているのか。
彼らに「安定的な兵器」を供給しているのは、いったい誰なのか。
イランのロウハ二大統領が「仲介」を言い出した。
反政府側はアサドと仲のいいイランの仲介など受け入れられない、
としているようだけれど、
フランスこそ、暴力の連鎖の停止のための「仲介」役を、
担うべきではないのか。
化学兵器破棄の陰で、アサド政権側も反政府側も、
一層武力行使に励もうとしているように見える。
それを助長するのは、方向が違うだろう。
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