”ビデオニュース”の「原発ゼロ」解説

「原発ゼロ決定で見えてきた日本の政策決定過程の本質的問題」

これは、神保哲夫による原発ゼロシナリオの解説なんだけれど、
FBにリンクを投稿するさい、私はそのなかから以下の部分を引用した。
— 政府が9月14日に下した2030年代までに原発を全廃するとした決定は、日本にとっては恐らく戦後初めて独自の意思での主要な政策変更となった。—
これに対して複数の人から、野田政権の今回の決定は選挙目当ての信用できないものだ、とのコメントがあった。

この引用のあとは、— が、それはまた日本における政策転換がいかに難しいかを改めて再認識されるものとなった。— と続く。
おそらく、リンクをたどり、冒頭部分のここまでを読んでもらえば(もちろん記事全体を読み、動画を見てもらうのが一番なんだけれど)、このような短絡的な反応は返ってこなかっただろうと思う。

神保さんが言っているのは、政権ゼロシナリオの全面的な肯定などではまったくない。どのメディアも指摘しているあいまいさや矛盾を踏まえて、他のメディアが触れていない背景というか、押さえておくべきこと、見ておくべきことを述べているにすぎない。

即ち、今回の決定が戦後初めて、アメリカの思惑から外れた形で成されたということ。にもかかわらず、最終的にはアメリカの懸念やら経済界の要請やら、青森の抵抗などにより、こんな中途半端な矛盾だらけの、この程度のものになってしまったこと。今の日本が、あんな事故を経てもこの程度でしかないということ。それでも、ゼロという数値が入ったことは、たとえ選挙対策であろうとなんだろうと、国民の声に押されてのことであるということ。

私が最初のパラグラフの全部を引用しなかったのがいけなかったのかもしれないけれど、それを脇に置いて、実を言うとちょっと驚いた。
「戦後初めて独自の意思での主要な政策変更となった」ということに、あまりに短絡的に反応しているように思えたことと、あまりに単純に(野田)政権批判をしていること。加えて、脱原発に関してもあまりに表面的であること。ここに、決定的に欠けている視点があるように思うのは、私だけだろうか。それにしても、皆リンクもたどらずに反応しているんだろうか(もし概要を読み、動画を見ての反応だったとしたら、もっと驚くことだけれど)。

欠けているかもしれないことは、開沼博さんが、どこかで脱原発デモに対するいらだちを語っていた、そこに通じるものがあるような気がしている。それはまた、デモの話のなかで宮台真治が指摘していたことにも通じるものだ。一言でいうと、それは、脱・原発を叫ぶときのエゴイズムを自覚しているかどうか、ということだろう。

脱・原発には、かつて、原発のリスクを押し付けて利益だけを享受していたエゴイズムと同じものが底流にある。リスクが自分たちにも及ぶことが明らかになったとたん、押し付けられた人たちのことを忘れて自分たちの安全だけを掲げるとしたら、それもまたエゴイズムなのだ。そこになんの矛盾も感じないとしたら、押し付けられた人たちは、六ヶ所村のように、自分たちの利益を守ろうと頑なになるばかりだろう。原発を肯定・推進してきた思考パターンを変えるということは、無自覚な原発容認を、単純に脱・原発に変えるだけでのことではないはずだ。

もうひとつ強く思うことがある。
原発ゼロを目ざすためには、即時原発ゼロを訴えるしかないのはわかっている。ゼロの側に立たなければ、ゼロは達成できないだろうから。けれども、ことは半世紀続いた原子力政策だけの問題ではなく、戦後の日本というシステムの問題なのだ。おそらくそれが、日本人の精神構造や行動パターンをも決定している、政権が変わっても何も変わらないことの根っこなのだ。日本の特殊性は、アメリカによって民主主義を与えられた国だ、という点に集約されているように思う。他者から与えられた「民主主義」を持つ国は、果たして本当の民主国家なのだろうか。神保さんの指摘は、この点を問うものでもある。

最後に文体について。FBの文体というものがある。言葉は分かりやすく、理路は単純化されている。一方FBの私の文体は、ずいぶん舌足らずな文体ではある。簡潔をめざすと、こぼれてしまうものが多い。と言って、今書いているものをそのまま持っていく気にはならない。結局は、どんぶらこと流れてしまう速い流れに、乗せられる限りにおいての努力しかない。

  • トップへ戻る
  • カテゴリアーカイブ
  • HOME

2 Comments

  1. 田中宇氏のメールマガを久しぶりに読んだ。
    「日本の脱原発の意味」
    http://tanakanews.com/120917nuclear.htm
    アメリカの役割が、上記の見解とは180度違っていた。
    むしろ、政府が経済界から電事連までを敵に回して脱原発を表明するとしたら、
    脱原発こそがアメリカの思惑なのだ、というものだった。
    う~ん、まあそういう見方もあるかもしれないけれど、
    でもそうすると、日本が脱原発したときのアメリカのメリットは何?
    次の地震と事故で日本に沈没されちゃ、さすがに(まだ)ちょっとまずいよな、とか?
    よくわかんないけど、とりあえずリンクだけ。

  2. 今日、「この程度」の原発ゼロ案が、閣議決定されないことに決定となった。
    あそこから一歩でも進めれば・・・、と思っていたのに、こんなにあっさり後退してしまった。
    心底情けない国だと思う。
    こうなったら、どうそ圧力をかけてきた推進派だけに被害が及びますように、と祈ってやろう。

provai へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。* は必須項目です。


*