日中関係をめぐる二つの記事

今日、日中関係をめぐっての二つの記事が目に留まった。領土問題には、あまり言及しないつもりでいたんだけれど・・・。

・「日本が譲歩すれば、中国のさらなる侵略招く」 米軍事専門家

米軍事専門家リチャード・フィッシャー氏は、「米国は日中両国の軍事衝突の回避を強く望んでおり、中国が尖閣をめぐる現状を変えようとすることに反対だ。そのために同盟相手の日本への有事の防衛誓約を繰り返すこととなる」と指摘。
だが、中国は「軍事衝突なしに」「威嚇によって」尖閣諸島を手にしたいと考えている、と述べる一方で、日本には強硬姿勢を求め、中国は軍の投入を「間違いなく進めている」ので、海上保安庁だけでなく自衛隊も攻撃能力の増強や配備の「措置を取るべき」だと進言している。

一読して思ったのは、日本がそんな措置をとったら、間違いなく中国はさらに硬化するだろう、へたをしたら本当に軍事衝突まで行くのではないか、ということだった。つまり、フィッシャー氏は日中の軍事衝突を煽っているとしか思えなかったのだ。

「戦後史の正体」を読んだあとである。アメリカが日本に「指摘」することをそのまま真に受けるわけにはいかない。

 中国当局が反日暴動をあおってまで尖閣の主権をこの時期に強く主張し始めた原因について、フィッシャー氏は「単に日本側での尖閣国有化という動きだけでなく、中国にとっての尖閣の戦略的価値への認識と自然資源の重視などの動機がある」と述べた。

たとえ、「戦略的価値への認識と自然資源の重視」があったとして、はたして中国は、それを戦争までして手に入れたいと思っているのだろうか。日本だけでなく、アメリカも出てくる(と取れるような言い方をしている)のだ。

  その上で「尖閣は台湾有事の米軍の『接近』のルートにあるし、日米両国に死活的な重要性を持つ中東やインド洋から太平洋への海上輸送路の途次にも位置して いる。その尖閣が中国軍の支配下に入ると、日本が従来の海上輸送路から切り離され、在日米軍基地の機能も骨抜きになりかねない」と警告した。

アメリカの対中政策にとって看過できないということはいい(この点はあまりマスコミに出てきていないような気がするけれど)。中国に対するけん制というのもあるかもしれない。でもこの言い方では、「尖閣を失うと日本はとんでもないことになるんだぞ」という、脅しが一番大きいように思える。

ところで、アメリカにとってそれほど大事だったら、「尖閣諸島は日本の領土だと認識している」と言えば済むのではないか。そのタイミングはすでに過ぎているのかもしれないけれど、尖閣諸島の日本領有権をあいまいなままにしてきたのは、アメリカではないのか。

同氏は、米国にとっての最悪の事態は「日本が反日デモなどに脅かされ、尖閣の主権で譲歩を始めて、中国の進出や侵略を許し、抵抗をしないままに、尖閣を失っていくというシナリオかもしれない」と述べた。

確かにアメリカにとっては「最悪の事態」かもしれない。けれども、それが日本にとっても「最悪」かどうか。考えるまでもなく、日本にとっての「最悪」は、あんな小さな島だか岩礁だかのために、あるいはアメリカの「死活的重要性」のために、取り返しのつかない愚かな行為に走ることだ。
とにかく、日本政府には、中国の挑発にも、アメリカの脅しにも、乗らないようお願いしたい。

もうひとつの記事はこちら。

・「デモで暴れたやつは中国人の面汚し」と北京人は吐き捨てた–プチブル層と民工層に横たわる深い溝

反日デモの内実については、色々なことが言われている。政府主導であるとか、逆に、「反日」を掲げれば大目に見られるため、そこに政府批判を込めているのだ、とか。
この記事では、北京都市部の「プチブル層」の意見を紹介している。
「プチブル層」は、デモの暴徒化は「民工層」が不満のはけ口として暴れているからだと言い、暴徒化する彼らを異口同音に批判・軽蔑している、という。

「民工層」とは農村から出てきて都市労働者になった者で、今デモに参加しているのはその2世とのこと。教育も受けており、SNSも駆使できる。だが、「プチブル層」との間には明らかに差別があり、貧富の格差は縮まるどころか広がっている。

デモの暴徒化の原因に「格差」を挙げる声も、以前からあった。この記事でちょっと驚いたのは、次のような記述である。

 「日本企業が他の外国企業より狙われやすいのは民工を一人前の人間扱いするからだ。彼らに必要なのは厳しい管理」とは、以前のストライキ取材のとき中国 人企業家から言われた言葉だが、日本企業は中国の矛盾を利用しながらも、中国企業のような非情さが備わっていなかったということかもしれない。個人的には、私はそういう日本企業の在り方の方が好ましいと思うのだが。今回の反日暴動で被害をうけ、再開のめどが立っていない日系工場や企業も、多くが従業員を解雇せず、有給のまま従業員に自宅待機を命じているらしい。

記事では、9月23日にアップルの部品を作っている工場の寮(山西省太原)で、10人以上の死者が出た暴動を紹介している。「製品の持ち出しチェックや従業員管理が非人間的なまでに厳しい」この工場では、労働者だけでなく、管理する警備員も民工二世、つまり同じ環境や世代のなかにも「階級差」ができており、その鬱屈が死者が出るほどの暴動に繋がった、との見方がされているようだ。

だがこれは、日本も中国企業のようなやりかたをすべきだ、ということではないだろう。日本企業は「民工層は労働力、プチブル層は市場」で業績を伸ばしてきた。だが、抗日デモに中国固有の様々な問題がからんでいることが見えてきた以上、もしこれからも中国を重要なパートナーと位置づけるならば、この様々な問題を無視することは出来ないのではないか。その意味で、私は、日本企業が「民工を一人前の人間扱いする」ことは、とても重要だと思う。ここに、新しい道があるような気がする。日本が隣国の民主化や人権、平等を支持するとすれば、そのようなメッセージを出せれば…。

そして私も、「こういう話を聞くと、やはり日本側は反日デモと尖閣問題は分けて考えないといけない」と、強く思うのである。

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