マナーの意味が解らない(学べない)ある日本の若者のこと

これは若者に限らないのかもしれないが、
でも「最近の若いヤツは…」と枕を置ける事例のような気もする。
ローマから成田への機中でのことである。

前の座席がいきなりガクッと倒された。
ああ、日本人ってこれだったっけ、と、うんざりした気持になる。

座席リクライニングを倒す際、
機内だけでなく新幹線でも後ろの人に声をかけるのがマナーだと思っている。
が、日本人から「倒していいですか」と声をかけられることはまれだ。

それにいちいち「ひと声かけてくださいよ」と言うエネルギーは、
あまりに日常的な頻度であるがゆえに、湧いてこない。
だからこのときも諦めてはいた。

それでも食事前の飲み物が出てきた際、
食事が終わるまで元に戻してくれますか、とお願いしてみた。
こういう輩には、食事中は背もたれを元に戻すというマナーを知らない人も多いからである。たいていの人は言われればそうかと応じてくれる。
それがマナーであると知らなくても、
人のお願いには耳を傾けるし、迷惑をかけるのならひかえましょう、
というのが日本人マジョリティーではあった。

ところが、この背も高く、ほりの深いイケメンの顔だちの若者は違った。
「みんな同じようにしてますよね」と言い放ち、応じようとしなかったのだ。
予想外の言いぐさにあまりに驚いてしまい、
とっさにどう切り返せばいいのかわからなかった。

たまたま日本人アテンダントが通りがかったので、
背もたれを元に戻すよう言ってくれと頼む。
彼女が、今はまだ飲み物だけですので…と躊躇したので、
今はいいが食事の際は元に戻すよう言ってくれと頼んだ。

以後背もたれは、食事のトレーが配られるとガクッと戻り、
トレーが回収されるとガクッと倒される。
そのガクッに、「どうだ、これで文句ねーだろう」という
無言のメッセージが込められている。

彼の前の座席の人に頼み込んで席を変えてもらい、
同じように「ガクッ」としてさし上げたい衝動をこらえつつ、
「みんな同じようにしてますよね」という彼が主張する「正当性」を考えた。

彼はマナーを知らないわけでも解さないわけでもない。
それ以前に、マナーという言葉の意味を解せないのである。
あるいはまったく違う意味に解している。
彼の「マナー」とは、「皆がしているようにする」こと。
「皆がしている」ことならば、それは許された、正しい「マナー」なのだ。

その昔JALの機内では、
「食事の際は背もたれを元の位置にお戻しください」
というアナウンスが流れた。
日本人にこのマナーが定着しておらず、
このマナーが定着している外国人に不快を与えない配慮であったのだろう。

今も同様のアナウンスが流れているのかは知らない。
もう流れていないような気もする。
少しばかり過剰な配慮にも思えるし、
守るべきマナーのたった一例を教えても仕方ない、ということもあろう。

マナーとは、なにも難しいことではない。
山のようなマニュアルも不要である。
他に対しての配慮を、その場の判断で出来ること、
他者からの配慮のお願いを真摯に受け止めること、
これだけである。
昔の日本人に前者はなくても、後者はあった。
今はそれすらなくなりつつある、ということなのかもしれない。

若者は、おそらく衣類であろう大きな紙袋を抱えていた。
手荷物で持っているということは、
空港免税店で購入した高級品か、
あるいは市中で求めた免税基準額を超える額の商品だと推察できる。

彼がアリタリア便を使って訪れたのは、
イタリアか、あるいはヨーロッパのどこかであろう。
彼がそれらの地で得たのは、ヨーロッパの人々の身に備わっている、
「皆がしている」ことではなく、ブランドファッション商品だけであった。

「皆がしている」ことの「正当性」を主張するこの若者は、
ヨーロッパの「皆がしている」を学ぶことも出来なかったのである。
彼にとっての「皆がしている」ことは、
自分にとって都合がいいことだけに限られるのであろう。
おそらく、そのような物差しや臭覚だけが発達しているのであろう。
まことに情けなく、哀しいことであるが、それ以上に、
せっかくの旅をするのになんともったいないことであろう、と、
嘆息するのである。

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