旧姓で仕事をする(=生きる)困難

旧姓で仕事をする(=生きる)困難

遊びでつくったものをハンドメイドサイト内のショップで売り始めて5か月。
8月末にやっと売り上げが材料経費を上回るまでになり、
BASEにオンラインショップも開設した。

それではたと気が付いたのだが、所得がある程度になると確定申告の必要が出てくる。開業届を出して、ついでに青色申告の申請書も出したほうが良いとの意見が(ネット上では)ほとんどである。

そうだよなあ、経費で色々落とせるしなあ。青色にするかどうかはともかく(開業から2か月以内でないと申請できない)、開業届は出しておいた方が良いだろうと思った。

で、銀行に事業用の個人口座を開くことにした。希望は口座名義を屋号+旧姓。それがこんなに困難だとは!予想以上であった。手間ヒマのかかるとても消耗する経過と、まだ道半ばなれどもとりあえずの結果を書いておこう。

まず、会計ソフトFreeeでもおすすめの(本業の法人口座もある)ジャパンネット銀行に問い合わせるも、あっさり戸籍名でないとダメと言われてしまった。旧姓個人名義で利用している新生銀行は、新規に作るには旧姓は使えないと以前言われたので、最初から問い合わせていない。

オンラインで利用したいので、ソニー銀行、住信SBI、楽天銀行、セブン銀行、などいくつか問い合わせたのだが、ほとんどで旧姓はダメ。そもそも個人事業では開設できない銀行もあった。

実は、「女性活躍」スローガンを掲げた安部政権は、旧姓使用の拡大方針を決めている。二年も前のことである。

政府は2016年5月、旧姓をさまざまな場所で使えるようにすると決めた。今後、公的な書類でも旧姓を使用できる範囲が広がる。2017年度以降、住民票やマイナンバーカードなどに、戸籍上の名前と旧姓を併記できるように制度を改正していく。

内閣府の男女共同参画会議での議論が発端となり、政府の「女性活躍加速のための重点方針2016」に盛り込まれた。同会議の議員である勝間和代さんは、「10年以上、言ってきてようやくです」

今年3月、夫婦別姓を認めない日本の民法規定について、国連は見直しを求めた。一方、最高裁は昨年、同規定を合法とする判決を出している。「別姓を選べるようにする法律改正にはまだ賛否両論あり、まずは旧姓使用の拡大からとなりました」。旧姓を併記するために必要な法律改正をし、システム変更などの費用を今秋の概算要求に盛り込む。早ければ2017年度にも実現しそうだ。

旧姓の使用範囲が拡大へ 住民票、パスポートなども 2016.10.07 日経WOMAN 電子版

今年2月、パスポートの更新時に旧姓併記で申請してみた。窓口のおねいさんは好意的だったけれど、そうすんなりとはいかなかった。仕事で旧姓を使い続けている、との主張だけでは通らなかったのだ。旧制利用でないと不利益が生じる理由と、本当に旧姓で仕事をしているということが解る書類、及び戸籍謄本(抄本だったかな)を出せと言う。

実は本業には国家資格が必要で、国家試験を受けた結果、私は国内業務用と海外業務用と二枚の合格証を持っている。この合格証発行の際に、旧姓記載、または旧姓併記を発行元に求めていた。結果、海外用は認められなかったが、国内用には旧姓が併記された。

この合格証と旧姓の名刺、戸籍謄本、最後に旧姓併記理由の申立書(正式な名前は忘れてしまった)を作成して申請、無事旧姓併記のパスポートを入手できた。しかし、私のような証明書類が無い人はどうなのだろう。ただ旧姓でないといやなんです、という人は認められないのだろうか。かもしれない(今のところ)。

本来なら誰でも、理由なんてどうでもよく、証明書類なんかもいらず、希望だけで旧姓を認めるべきじゃないのか。実績が無いとダメと言われても、最初に旧姓で仕事を始められなければ実績も積めない。

旧姓名義口座に関して複数の銀行に問い合わせた結果、二行に可能性があることがわかった。楽天銀行と、地元では一番規模の大きい地方銀行S銀である。

楽天は個人名義の口座を開いていることが前提だというので、まず旧姓の個人名義で申請した。申請は通り、カード受け取り時に宅配業者に本人確認がとれるものを見せればOK(旧姓併記のパスポートで受け取れるだろうか?)。受け取れたとして、その後の業務用口座申請には開業届と戸籍謄本(抄本?)と本人確認書類が必要と言われている。

その開業届である。マイナンバーを書かなければいけない。税務署に問い合わせると、戸籍名で申請し、参考事項に旧姓で事業をする旨を書き込め、とのお答え。それで届を出してみた。名前の欄には旧姓と戸籍名を併記して。こちらはあっさり受理された。

BASEでは購入者がカードやコンビニ決済で支払った場合、決済手数料とBASEの取引手数料が引かれて、事業者名義の銀行口座に振り込まれる。屋号+旧姓での銀行口座が必要なのは、第一にこの点からである。もし銀行口座をつくれない場合は、この事業者名のほうを変えなければならない。

本日地元のS銀に開業届控えと戸籍抄本、BASEで展開しているネットショップのトップページと「特定商取引法に基づく表記」をプリントアウトして持参。「特定商取引法に基づく表記」の事業者の名称はしっかり屋号+旧姓である。

窓口で担当者に書類を渡し、待たされることしばし。しばらくすると上司?営業担当?の女性が変わって登場、なぜ旧姓でなければいけないかと問われる。あなたね、人生旧姓で生きてきてるんです、私。本業も旧姓で、パスポートも旧姓併記を申請するくらい旧姓でないとダメなんです、私。印象悪くならないよう、言葉遣いに気を付けながらも切々と訴えた。

それを聞いてさらに奥で協議。結果は不可とのこと。個人的には作ってあげたいけれど、と。一旦はあきらめムードが漂うが、たまたま本業で使っていた旧姓名義の個人口座がその支店にあった。話が流れていき、その口座の名義を変えるというかたちでならできるかも、となり、結果はOK。

BASEからの入金口座として必要ということと、買い手が直接銀行振り込みを選択できることを訴えたのも良かったかもしれない。とりあえず屋号+旧姓でひとつ口座はできた。のだが、どっと疲れた。ほっとはしたものの、なんでこんなに大変なのか、これで「女性活躍」だって!?よく言うぜ!!と気持ちのざらつきがおさまらない。

架空名義や不正利用を防ぎたいのはわかる。が、本人確認は戸籍抄本で可能だ。実は2017年には金融庁が主要行その他に、銀行口座等の旧姓使用に係る協力要請を出している。

[共通事項(主要行/全国地方銀行協会/第二地方銀行協会
/全国信用金庫協会/日本証券業協会)]
 
1.銀行口座等の旧姓使用に係る協力要請について
 
○ 政府としては、女性活躍の視点に立った制度整備の一環として、「旧姓の通称としての使用の拡大」に向けた取組みを進めているところ。
○ その中で、先日、内閣府男女共同参画局長から、銀行口座等の旧姓使用に関する協力要請がなされたものと承知。
○ 各金融機関におかれては、本取組みの趣旨をご理解いただき、口座開設等の申し込みを行う方等が希望した場合に、実情に応じて可能な限り円滑に旧姓による口座開設等が行えるよう、よろしくお願いしたい。

このことを二人目の担当者に指摘すると、承知している、とおっしゃった。だったら「実情に応じて可能な限り円滑に」手続きしていただきたかった。結果オーライではあるが、私の場合昔作った旧姓の個人口座があり、それを名義変更して事業用口座にするという、なんだか裏技のような方法で可能になったわけで、なんで新規に作るのがだめで名義変更だったらOKなのかもよくわからない。もし旧姓口座がなければダメということなら、納得できない。

ことほど左様に旧姓利用は不便であり、様々なハードルがあり、困難が伴う。余分な労力と手続きと費用(戸籍抄本一通450円とか)がかかる。実績やら何やら、必要な「実情」を「証明」しなければいけない。が、繰り返すけれど、これでは証明するための実情をつくるためのスタートが切れない。

政府自民党は選択的であっても夫婦別姓に否定的である。2015年12月、最高裁では別姓での婚姻届が受理されないのは違憲ではない、との判決が出ている。ただし、判決文は別姓による不利益を認めており、「旧姓を通称としての使用が広まることで、不利益は一定程度緩和される」としている。また、国民による議論や合意形成の必要性も指摘していた。

政府の旧姓使用の拡大方針は、(選択的)夫婦別姓という抜本的な法改正ではなく、「名を捨てて実を取れ」という政策である。ならばせめてその「実」をしっかり取れるようにしてほしい。住民票やマイナンバーカードの旧姓併記もがんがん推し進めてほしい。日経WOMANは「早くも2017年にも実現」と書いていたのだよ!

世の旧姓利用者の皆々様には、是非旧姓で銀行口座を開いてほしい。パスポートも併記で申請してほしい。個人事業も法人も、是非旧姓で開業してほしい。今はこういった積み重ねのみが頼りである。

もちろん、夫婦別姓をきちんと法制化してほしい。こんな旧態依然としたガラパゴス戸籍制度があるのは日本だけなんだよ! 家族が壊れるって? その程度の家族はとっくに壊れてるよ。そんなこと言ってるから少子化だって止まらないんだから!!!

参考サイト:
夫婦別姓の最高裁判決文を解説!なぜ夫婦同姓は裁判で合憲になったの?(2018.2.13 Clover)
「夫婦別姓訴訟」3月に再び提訴へ…最高裁判決から2年「再度、判断求めたい」(2018.2.27 弁護士ドットコム)
旧姓使用の現状と課題に関する調査報告書 概要版 [PDF:859KB](内閣府男女共同参画局)
「どこまで使える あなたの”旧姓”」(2016.10.07 MHK開設委員室)
旧姓使用を認めない企業は採用で不利? サイボウズ人事部が語る理由 (2018.02.06 @人事ONLINE)
夫婦別姓を選べないのは、世界で日本だけ。なんでなの?(2018.4.1 女子SPA!)

 

その後(2019.4.21)

年が明けてBASEに振り込み申請するさい、どちらの銀行にするか迷った。地元のS銀はオンラインバンク機能が個人口座のように使えない。使えるのだけれど、事業用だと使用料がかかる。法人並みの扱いである。

楽天銀行はオンラインバンクであるからして口座維持管理に料金は発生しないけれど、引き出しに手数料がかかる。あんなに粘って開設したのに、どちらも使い勝手がイマイチ、イマニで、使う気になれない。

Creemaとiichiのいずれもがジャパンネット銀行あての振り込み手数料が格安なので、できればJNBを使いたい。しれっとJNBに屋号+旧姓で申請書類を送ってみた。が、あっさり戸籍名で申請しろ、と返送されてしまった。

BASEの振込先、屋号+個人名義でないとだめと思い込んでいた(そういう記事を読んだ)のだが、個人名でも問題無さそうである。それで名と実で実をとることにした。旧姓個人名でJNBに口座開設し、関連の売り上げ振り込み先、仕入用カードの引き落とし先などを全てJNBに変更。

続いてMFクラウドとJNBを連携させた。これで口座に振り込まれたり引き落とされたりすると、MFクラウドに自動で反映される。仕訳は自分でし直さなければいけないけれど、それでもかなり楽。これがS銀だと、いちいちATMに記帳に行かなければならず、会計記帳も全手動である。

JNBはこれまで使っていたので、操作画面に慣れているのも大きい。住信SBIネット銀行にも口座があるのだが、操作画面になじめず、あまり使っていない。できればこれ以上異なる複数の操作画面に触らずに済ませたい。楽天銀の手数料がJNB並みだったら楽天銀でいっただろうけれど。

ということで、一歩前進したのに半歩下がってしまった。今後は個人名義のJNBを名義変更で屋号+旧姓名義にできないか画策してみたい(気力がたまってきたらね)。

ということで、旧姓で仕事をし続けたい人にアドバイスをひとつ。旧姓でつくったものは全て名義変更してしまわないようお勧めする。銀行口座、カード、その他もろもろ。不具合やリスクもあるから、個別に判断しながらね。私の場合はこれが結構役に立っている。

知ってればやったのに! というのがパスポートに旧姓併記する際のサイン。深く考えず戸籍名の漢字にしてしまったのだが、旧姓漢字でもOKらしい。これ、とっても役に立ちそう。

参考:旧姓併記のパスポートを作った

 

その後(2021年1月)
JNBの個人口座を使っていたら、Yahoo! JapanからJNBに「ビジネスアカウントを作りませんか」というメールが届いた。二年たって少しは状況が変わったのか。というよりも別の理由だろう。ちなみにJNB個人口座もYahoo! IDも旧姓である。

消耗品などの購入にYahoo! ショッピングを利用、Yahoo!カード(旧姓名義)払い、JNB引き落としにしている。一連の動きからビジネス性を読み取ってのことだと思う。特典にPayPay入金手数料無料、ともあって、PayPay導入も期待されている模様。

向こうから勧誘してきたんだからきっと取れるだろうと申し込んでみた。ら、あっというまに屋号+旧姓名義で開設できてしまった。

 

二年後、別件の公的表記で旧姓併記ができたオハナシはこちら。

旧姓使用のハードルは下がったみたい。で、選択的夫婦別姓はどうなの?

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