ウソの上の増税延期とそのあとに来るもの、「復興五輪」も心配だ…

ちょっとタイミングをはずしてしまったけれど、やっぱり書いておこう。
ああ、またやってるな、ということである。
『アンダーコントロール』に当たる語は、今回は『リーマンショック前夜』。
オリンピックと異なるのは、「違うでしょ」と即座に、面と向かって、
否定する人がいたこと。それを隠ぺいできず、ごまかせなかったこと。
なにせサミットというオープンな場での各国首脳の発言であるからして。
なのに伊勢志摩でのあの声明。で、必然的帰結として、
その後自ら『リーマンショック前夜』を否定するはめになったことは周知の事実。

選挙の「手法」

首相の決断はすでに発表されており、増税は延期され、衆参同日選は無しになった。公約違反の信は「参院選で問う」のだそうだ。最後まで延期に反対し、延期するなら解散するべきだと主張していた麻生副大臣の、「ポピュリストになるか、宰相になるかですよ」との言が新聞にあった(麻生さんがまともに見える…)。

とことん選挙対策だということは、下記記事にも詳しい。
首相、増税再延期決定(その2)「増税」「解散」熟考半年 首相の判断連動 きしみ見え始めた政権(毎日.jp 2016.6.1)

増税先送りで国民は喜んでいるけれど、これも選挙対策なわけで、国民の暮らしを優先的に考えてのことではない。ということの意味を、もう少し私たちは考えてみるべきだろう(選挙対策に矮小化される首相の「解散権」の問題点は木村草太氏も指摘している。イギリス議会の健全さにタメイキが出る)。

首相は安保法制強行採決後「国民の理解は十分得られなかったが、これから丁寧にご説明していく」とおっしゃった。が、その後「丁寧に説明」された覚えはない。数で押し切り、隠し、だまし、場合によってはおどし、ウソをついてまで強硬突破したあげく、通ってしまえばこっちのもので、国民の理解も支持ももう不要、というふうに見える。

8日の朝日新聞が、安倍政権の「手法」をまとめている。
(2016参院選 安倍政治を問う:上)政権「二つの顔」 首相「アベノミクス最大限ふかす」

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またもや(まだ!)「アベノミクス」である。

参院選を前に、政権のイメージを国民の関心が高い「経済」へと塗り替える――。

 選挙が終わると、世論に左右されることなく持論の政策にアクセルを踏む。逆に、選挙が近づくと新たな経済政策を前面に打ち出す――。首相は、こうした安倍政治の「二つの顔」を第2次政権の発足から繰り返し使い分けてきた。

 「安倍首相は選挙戦をアベノミクス1本で戦い、選挙が終わると憲法破壊の政治を繰り返した。これを2度やってきた。わたしは3度目は通用しないとはっきり言いたい」(池尻和生、冨名腰隆)

 ◇首相は消費増税を先送りする判断について、7月10日投開票の参院選で「国民の信を問いたい」と表明した。しかし、問われるのはスタートから3年半となる「安倍政治」そのものに違いない。

私たちが問うべきは、「トリクルダウン」などなかったこと、増えているのは非正規社員であること、実質賃金は下がっていること、まだまだ現在進行形の福島の原発事故をおきざりにした原発安全神話の復活と、前のめり(オリンピック前まで?)の「帰還」、深い議論も国民の声を聞くこともなく秘密保護法や安保法制が強硬突破されたこと、などである。これらに「公約違反」(一体いくつ?)が加わる。

さて、選挙に勝った末に今度は何を行おうというのか?

この事の前に、今回の『リーマンショック前夜』劇を、私たちはもう少ししっかりと見て、記憶にとどめ、判断の材料にするべきだろう。なぜならここに、安倍政権のあんまりなやり口が今までになく露骨に見えるからだ。何より、こんなやり口に国家運営を任せていていいのか、という危惧もある。

首相、増税再延期決定(その1) 「リーマン資料」極秘準備 経産主導、財務・外務反発(毎日.jp 2016.6.1)

 自民党が、来年4月の消費税率10%への引き上げを2年半先送りする安倍首相の方針を了承した5月31日。主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の報告のため、党本部を訪ねた関係省庁の官僚らが、ある資料への見解をただされた。

 「緩やかな回復基調が続いている、とした月例経済報告とはかけ離れた認識です」(内閣府幹部)

 「共有はしているが、我々が承認したものではありません」(財務省幹部)

 彼らが一様に距離を置いた資料は、首相がサミット初日の討議で各国首脳に示した、A4用紙4枚のグラフやデータ類だ。

 「世界の商品価格はリーマン前後の下落幅と同じ」「新興国の投資伸び率はリーマン後より低い水準」−−。現在の新興国の景気減速と2008年のリーマ ン・ショックを比較する数値が並ぶ資料は、政府関係者らの間で「リーマン・ペーパー」と呼ばれ、首相がサミットで世界経済の「リスク」を強調し、外的要因 による増税先送りを主張する補強材料としての役割を果たした。作成は経済産業省出身の今井尚哉・首相政務秘書官と菅原郁郎・同省事務次官らの「経産省ライ ン」が主導したとされる。

 ペーパーは、サミット開幕を2日後に控えた24日、首相官邸で開かれた関係省庁の「勉強会」の席上、突然配布された。予定通りの増税実施を求める財務省にとっては「寝耳に水」(幹部)。財務省2階の大臣室に駆け込んだ幹部からペーパーを見せられた麻生太郎副総理兼財務相は「何がリーマン・ショック前だ。 変な資料作りやがって」とうなった。

 その直前、官邸から「ペーパーを首脳会議で示す」との方針を伝えられた外務省にも困惑が広がった。首脳レベルでの合意に向けた事務当局者レベルの折衝はすでに山場を迎えており、懸念の声が次々と上がった。だが、外務省関係者は「今井さんからの返答は『示すと言ったら示す』だった」と振り返る。

 首相は26日の討議で、G7各国首脳にペーパーを示し危機感を訴えた。当日初めてペーパーを目にした首脳らには当惑が広がり、キャメロン英首相は「危機とまで言うのはいかがなものか」と反論した。

 首脳宣言の表現は最後まで調整が続き、結果的にトーンダウンした表現で決着した。ところが、首相は27日のサミット終了後の記者会見で「世界経済が通常の景気循環を超えて危機に陥る大きなリスクに直面している」と強調し、増税先送りをにじませた。首相の会見原稿を用意したのも経産省ラインだった。

 市場からは「米国が利上げに動こうとしているのに世界経済は危機目前などと言うのは、国際的に恥ずかしいこと」(国際金融関係者)との声すら上がる。そ れでも官邸が批判を承知で材料提示に奔走したのは、「リーマン・ショックや大震災のような事態が発生しない限り増税を実施する」と繰り返してきた首相の増税延期判断を正当化するためだった。

リーマンショック前夜」の薄弱すぎる根拠 (東洋経済 5/28)
安倍首相のサミット発言「リーマンショック級の危機」に世界中から失笑! 仏「ル・モンド」は「安倍のお騒がせ発言」と(リテラ 5/27)
リーマンショック前夜」を裏付ける資料を作ったのは誰か/未遂に終わったサミットを国内政争の道具にする計画(Videonews.com 5/28)

民進党が「リーマン・ペーパー」について官僚に問いただした場にはメディアが入っており、フル映像が公開されている。直後からいくつかのメディアもこのやり口を取り上げた(海外でも)。だが、毎日新聞が書いた6月1日、国会は閉会し、国民の前で真偽や責任が追及されることにはならなかった(ちなみに増税延期発表もこの日)。

首相の「手口」をひと言でいうとこうなる。選挙対策にまずこうあって欲しい、こうあるべきだ、というビジョンがある。なんとかそれを証する数値やデータを探し出す。なければ(政府省庁を無視してでも)つくる。それを口実に、高らかにビジョンをうたいあげる。目先の利益として国民にぶら下げられ、バーター取引のように望んでもいない政策を通されることとは別に、最初に政治的な結論ありきが、あとあとに残す禍根や弊害もある。

Videonews.com は、ことの深刻さをこう指摘している。

  サミットを国内政争を勝ち抜くための政治目的に利用することが、サミットに対する冒涜であることは言うまでもない。しかし、より深刻な問題は、仮にサミット参加国の首脳たちがホスト役の安倍首相の国内政治的な立場に理解を示し、「世界経済は危機的な状況にある」との認識を示す共同宣言が採択されてしてしまった場合、市場がそれに反応し、実際に危機を生んでしまう危険性があったことだ。世界の首脳たちが揃って「危機」を認定すれば、その判断には何らかの根拠があると市場が受け止めても不思議はない。

 何にしても、首相が政府の公式見解とは全く無関係に、そしておそらく純粋に国内政治の党略的な動機から、サミットの場で危機を売り込もうと考え、何者かがそれを裏付ける資料を急ごしらえで作成していたのだとすれば、日本政府のガバナンスという点からも大きな問題がある。その真相は明らかにされる必要があるだろう。

ウソの上の「復興五輪」にならないといいけれど

『リーマン・ショック前夜』は思惑通り作動しなかったが、「新しい判断」という言葉での増税延期はそれなりに評価されるだろう(と、首相は安堵しているだろう)。結果は先のことである。が、他にも気になることがある。福島(原発)と放射能の『アンダー・コントロール』だ。

彼(ら)が希望的ビジョンである『アンダー・コントロール』をこれまでの「手口]で実現させると、どういうことになるのか。福島県の避難地域の帰還が始まるという記事は、このことを考えさせるものだった。
原発避難解除、急ぐ政府 12日葛尾・14日川内…来春には4.6万人帰還対象に(朝日新聞 6/10)

 東京電力福島第一原発事故に伴う避難指示について、政府は12日の福島県葛尾(かつらお)村を皮切りに相次いで解除する。放射線量が高い「帰還困難区域」以外のすべての避難指示を2017年3月末までに解除し、20年の東京五輪を見据えて復興の加速化を狙う。だが、生活インフラが十分整っておらず、放射線への住民の不安も残されたままだ。

葛尾村の水田には、除染廃棄物の黒いビニール袋が山積みのままで、処理の目途は立っていない。医師もいない、商店もない。「こんな状態で帰れると言う政府も村も無責任だ」と住民。

全住民7400人が避難した楢葉町は、昨年9月に避難指示が解除された。だが、9か月たった現在の帰還者は7.3%にすぎない。「解除後にふるさとに戻ると答えた住民は大熊町で1割強、浪江町は2割に満たない」との復興庁の調査もある。

 それでも、政府が避難指示解除を推し進めようとするのは、東京五輪までに復興にめどをつけたいという思惑があるからだ。復興政策基本方針で東京五輪を「復興五輪」と位置づけ、「復興した姿を世界に発信する」と宣言。福島での競技開催も視野に入れる。

順調に事が進んで環境が整い、住民の希望もあっての帰還であるのなら、それは素晴らしいことだ。けれどもまず最初に五輪までの「復興」ありきで、住民の不安を無視し、現実をねじまげた「帰還」であるのなら、それは『アンダー・コントロール』と同じだ。さらに、被爆の問題もある。

葛尾村の8割を占める山林は、除染対象ではない。一番の不安は、メルトダウンした燃料がどうなっているかも定かでない原発が、すぐ目と鼻の先に変わらずにあり続けること、だろう。変わらずにあり続ける国の原発政策と共に。

このような「手口」で割を食うのは誰か。それを今ヒトゴトとして見過ごす私たちにも、やがて、きっと、ツケはまわってくる。目先の増税延期に喜んでいる先に何が用意されているのか、「3度目は通用しない」のか、それとも、2度あることは3度も4度もあるのかどうか。

改憲と日米同盟

選挙に勝った末に何を行おうというのか? 国民はその答えをとっくに知っている。改憲である。そして、安保法制に関する議論のなかで、あるいは沖縄で起きた女性殺害遺棄事件で、あらためて浮かび上がってきた日米同盟の問題がある。続きはあらためて。

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