マフィアには「共謀罪」は大きな穴の開いたザル & 森友・加計学園問題のマフィア性

マフィアには「共謀罪」は大きな穴の開いたザル & 森友・加計学園問題のマフィア性

「共謀罪」が必要なのは、
これがないとTOC条約(国連国際組織犯罪防止条約、通称パレルモ条約)を批准できないからだ、
と政府は答弁してきた。
いや、そんなことはない、「共謀罪」などなくとも(若干の法整備は必要にしろ)、
条約は批准できる、というのが反対派の言い分であった。
議論は平行線をたどったまま法律は成立してしまった。

今日のBS朝日の「いま世界は」で萱野稔人氏は、実際これまで批准しようとしてもできなかったのだ、ようやくこれで可能になる、と「共謀罪」の必要性をアピールしていた。もちろん、だからと言ってパレルモ条約がテロではなく、マフィアのような組織的暴力集団の国をまたいだ犯罪を対象としている点や、これがなければ五輪が開けないという政権のミスリードが覆ることにはならないのだが。

 

パレルモ条約を読んでみた

ふつふつと沸いた疑問は、そもそもパレルモ条約はどんな罪を対象にしているのか、ということである。「共謀罪」が対象としている277もの犯罪は、パレルモ条約に規定されているのか? 条約批准に本当に必要なのか? 条約にあたってみて驚いた。

国際組織犯罪防止条約(和文テキスト・英文テキスト・条約説明書)(外務省)
国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(Wikipedia)

適用範囲は「第五条、第六条、第八条及び第二十三条の規定に従って定められる犯罪」(第三条)となっているから、この4か所だけを見ればいいわけだ。犯罪を規定している部分を抜粋してみよう(下線は筆者)。

第五条 組織的な犯罪集団への参加の犯罪化

1-(a)次の一方又は双方の行為(犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪とする。)

(i)金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって、国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの

(ii)組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は特定の犯罪を行う意図を認識しながら、次の活動に積極的に参加する個人の行為

a組織的な犯罪集団の犯罪活動
b組織的な犯罪集団のその他の活動(当該個人が、自己の参加が当該犯罪集団の目的の達成に寄与することを知っているときに限る。)

(b)組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し、指示し、ほう助し、教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること

第六条 犯罪収益の洗浄の犯罪化

要約:いわゆるマネーロンダリング関連である。
「その財産が犯罪収益であることを認識しながら」秘匿、偽装、転換、移送する行為と規定している。

第八条 腐敗行為の犯罪化

1-(a)公務員に対し、当該公務員が公務の遂行に当たって行動し又は行動を差し控えることを目的として、当該公務員自身、他の者又は団体のために不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出又は供与すること

(b)公務員が、自己の公務の遂行に当たって行動し又は行動を差し控えることを目的として、当該公務員自身、他の者又は団体のために不当な利益を直接又は間接に要求し又は受領すること。

第二十三条 司法妨害の犯罪化

(a)この条約の対象となる犯罪に関する手続において虚偽の証言をさせるために、又は証言すること若しくは証拠を提出することを妨害するために、暴行を加え、脅迫し若しくは威嚇し又は不当な利益を約束し、申し出若しくは供与すること。

(b)裁判官又は法執行の職員によるこの条約の対象となる犯罪に関する公務の遂行を妨害するために、暴行を加え、脅迫し又は威嚇すること。

以前の記事にも、マフィアの犯罪がなかなか撲滅できないのは、公権力や企業と癒着しているからだ、と書いた。この条約の目的は、あきらかにその部分の犯罪を対象にしている。もちろん、第一義的には違法行為による金や物の略取のための犯罪が対象ではあるが、その防止及び摘発のための、マネーロンダリングと公権力の腐敗や汚職、及び妨害を対象としているのだ。

テロに関連する組織的犯罪集団は、第五条1-(a)-(ii)、及び1-(b)で対象にされている、と読めなくもないけれど、そもそも成立の目的はマフィアなのである。この点は、条約作成にかかわったパッサス氏も、「イデオロギーに由来する犯罪のためではない」、「利益目的の組織犯罪を取り締まるための条約だ」とインタビューに答えている。
「条約、対テロ目的でない」 国連指針を執筆・米教授 「共謀罪」政府説明と矛盾

 

パレルモ条約に必要なのに、「共謀罪」に漏れている犯罪がある

京大の高山佳奈子教授(刑事法)は、国会の参考人意見陳述でこう述べている。
「共謀罪」法案参考人質疑(要旨)

 第4は、対象犯罪の選別の問題です。とくにTOC条約との関係で、経済犯罪を除外している問題があります。

 一般に商業賄賂罪と呼ばれ諸外国で規制が強化されてきている会社法や金融商品取引法、商品先物取引法などの収賄罪が対象犯罪から外れています。主に組織による遂行が想定される酒税法違反や石油税法違反なども除外されています。その一方で、「違法なキノコ狩り」など、五輪とも暴力団とも関係ないものが多数含まれています。

同じく高山さんのゲンダイビジネスの記事から。
もし「共謀罪」が成立したら、私たちはどうなるか【全国民必読】

今回共謀罪処罰の対象から除外された犯罪類型は、警察などの特別公務員職権濫用・暴行陵虐罪や公職選挙法・政治資金規正法違反の罪など、公権力を私物化する罪、また、規制強化が国際的トレンドになっている民間の賄賂罪などである。

これは国際社会によって求められているのとは正反対の方向性である。

「共謀罪」が何を取り締まろうとしているかは極めてあいまいだけれど(つまりそれは、拡大解釈の幅を広く、かつ捜査の幅もずるずると広くしておきたい、ということだろうが)、一方で何を取り締まるつもりがないのかは、非常にはっきりしている。捜査対象外なのは警察権力や公務員、政治家、そして企業である。これでは、八条と二十三条を批准できない。

私がマフィアならば、こんな良い国はないと思うだろう。だってパレルモ条約的には、「共謀罪」は大きな穴の開いたザルなんだから。

「共謀罪」に関する政権の方針は、ミスリードと、疑問にまともにに答えない、で一貫していた。それは成功したように見える。国連や海外からの批判には的外れな抗議で対し、さらに批判を招く、というかあきれられているけれど。

こんな不実なやりかたがずっと許されるはずはない、と思いたい。が、あっさりかつ凶暴に法案は可決された。このあと法律が恣意的に運用されたり、思想信条や政権批判の抑圧に利用されないようにするにはどうしたらいいのだろう。世論形成と選挙以外に、日常の場で考え、疑問を臆せず口にする以外に。

野党には、条件闘争も視野に入れてほしかった。不要なものを外し、必要なものを入れる行為。それから権力の暴走をチェックする第三者機関の設置や、取り調べの完全可視化や、知る権利や表現や思想信条の自由や人権を、グローバルスタンダード並みにする法や制度の設計、及び提案…。

 

パレルモ条約で森友・加計学園問題を見る

もし条約の意図するところを正しく解釈し、政権が「公権力を私物化する罪」を「共謀罪」に盛り込んでいたら、森友・加計学園問題はどう展開しただろうか。もちろん、そこにマフィアや暴力団がからんでいるわけではない(だろう)し、政治家や官僚が賄賂をもらったことも(たぶん)ないのであろうから、マフィア的な意味での利益を目的とした犯罪ではないのかもしれない。

けれども、パレルモ条約第八条は、「当該公務員自身、他の者又は団体のために不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出又は供与すること」を、明快に腐敗行為という犯罪であると規定している。また、二十三条において、「対象となる犯罪に関する手続において虚偽の証言をさせるために、又は証言すること若しくは証拠を提出することを妨害するために、暴行を加え、脅迫し若しくは威嚇し」とある。偽証や威嚇による犯罪行為の隠ぺいも、これまた重大な犯罪なのである。

このような法解釈が成り立つ国では、おそらく、森友・加計学園問題のような癒着による利益供与が起こったとしてももっと抑制的であり、かつ明るみに出た場合の批判や責任追及も、全く異なる展開をたどったのではないだろうか。

森友学園も加計学園も、「他の者又は団体のために不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出又は供与する」ものであった。そして、それに抵抗した官僚には、「対象となる犯罪に関する手続において虚偽の証言」が期待された。個人に対する人格攻撃という、「脅迫し若しくは威嚇」もなされた。あるものをないと言い張り、「怪文書」と「印象操作」する行為も、司法妨害であろう。

私たちが見たのは、パレルモ条約ではマフィアの犯罪行為と規定されているものを、取り締まるべき公権力が行っている、という図だったのである。「共謀罪」で裁くことはもちろんできない。なぜならこれらは未遂でも計画でも準備でもなく、既遂なのだから。

 

~6/23

「共謀罪」法、政府に失望 国連特別報告者カナタチ氏(Yahoo/朝日デジタル 6.21)

 カナタチ氏は日本政府の国会審議の進め方について「反対論を強引に押しつぶし、世論や法的論理に逆行した。プライバシー権や表現の自由を保護する義務を怠った」と非難。さらに、「テロに対する市民の恐れを利用し、そもそもテロ対策が目的でない国際条約への加盟を口実に、成立を押し通した」と指摘した。

 今後も、「共謀罪」法と国際人権法が整合しているかなどについて質問した自らの書簡に対する政府の回答を求めるとともに、「プライバシー権を保護するための措置を改善すべきだと言い続ける」と訴えた。

露呈した安倍政権の傲慢さ、海外メディアも指摘 2つのスキャンダルで拙い対応(NewSphere 2017.6.23)

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