10日の夜、自衛隊がPKO活動に派遣されている南スーダンで戦闘状態再燃、
とのニュースが流れてきた
国連の非難決議もあり、11日には大統領と副大統領による停戦が呼びかけられた。
日本人は無事脱出したが(15日現在まだ20名ほど残っている)、
動きが激しいこともあり、どうもよくわからないことが多い。
で、気がかりなのは自衛隊である。
※11月には第11次隊が安保法制による「駆けつけ警護」を付与されたうえで、南スーダンに派遣された。2017年、現地の不安定な治安や人道危機が報道される中、自衛隊日報に「戦闘」との記載があったことが判明、「5原則」をめぐり国会で問題が追及された。そのさなかの3月10日、自衛隊撤退を発表。
平和が構築されたとは言い難い南スーダンから、自衛隊はなぜ撤退させられるのか。なぜこのタイミングでの発表なのか。なぜすぐに撤退させることになると承知の上で、にもかかわらず、第11次隊は派遣されたのか。以下で考察している。(2017.3.16 記)
自衛隊は南スーダンで「駆けつけ警護」できるのか?
南スーダン 何しに行ったの 自衛隊
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経過 ~2016.7月16日
今回の報道で最初に浮かんだ疑問は、衝突が起き、危険な状態となったのはいつか、ということだった。
南スーダンで戦闘「内戦に戻った」 副大統領報道官(朝日新聞 2016.7.11)
AFP通信などによると、8日の戦闘はキール大統領とマシャル副大統領が大統領府で会談していた際、同府周辺で起きた。銃撃戦の小競り合いが、迫撃砲の応酬にエスカレートしていったという。
9日はいったん収まったが、10日朝、ジュバ南西部にある国連運営の避難民キャンプ周辺などで戦闘が再開した。同キャンプには内戦で家を追われた約2万8千人が暮らしているという。
南スーダンとの時差は6時間(南スーダンが午前0時の時、日本は午前6時)。参院戦のさなかのことで、発表のタイミングが気になった。日本に情勢が知らされたのはいつだったのだろう。
7月11日 NHKのニュースでは菅官房長官が、「7日じゅうに在留邦人(JICAや国連職員など)約70名の無事を確認した」と述べている。8日の衝突以前にその兆候があり、連絡は入ってきていたのだろう。いずれにしろ、8日の衝突も投票日前日の9日には報道されず、10日も選挙速報で終わってしまった。
現在は少し落ち着いているようだけれど、状況が緊迫していることに変わりはない。拮抗する勢力があり、それぞれが武力部隊を持っているからだ。しかもそれぞれのトップが末端の兵士までを強力に統帥できているわけではない。
大統領・副大統領派だけではない、南スーダン内戦に関わる勢力(AFP BB News 2016.7.15)
上記記事は、南スーダンにかかわる近隣諸国や地域機構、国際組織についても触れている。治安の悪化から、既に相当数が国内難民化している様子がうかがえる。
1万2000人の国連平和維持軍のうち半数以上が、南スーダン各地の鉄条網で囲まれた基地に逃げ込んできた民間人16万人以上の保護に追われている。このうちジュバでの避難民は3万人を超えている。
南スーダンの食料と医薬品のほとんどは援助団体によって提供されている。戦闘激化を受けて海外からの援助団体職員は南スーダンから出国するとみられ、住民の生命を支えている活動に大きな空白が生じる恐れがある。
ただ、教会が主導する援助活動は、内戦が長年続く中、遠隔地の最貧困地域でも継続されてきた。ジュバでは戦闘で自宅を追われた数千人が教会の建物に避難している。
地域機構と国連以外にも、12日にはアメリカが、米大使館や米国民の保護のためとして、米軍46名を派遣した。また14日には隣国ウガンダの軍が約50台のトラックに兵士を乗せ南スーダン入りした。「首都に取り残された市民たちの救助と野盗や反乱兵に襲われた市民たちの退路の確保が目的」という。
ウガンダ軍、市民避難のため南スーダン入り(AFPBB News 2016.7.15)
日本人は脱出したけれど、逃げられない人たちがいる。
南スーダン、停戦維持も避難民3.6万人、国民の7割超が要人道支援(AFP BB News 2016.7.13)
戦闘による死者は300人超、4万2000人が国内で避難を余儀なくされた。周辺国への難民は83万5000人と、日を追うにしたがって避難民の数は増加している。(時事通信 2016.7.16)
自衛隊「駆けつけ警護」はなし
安保法制施行後、一番最初の自衛隊の派遣先が南スーダンである。しかし政府は、今年5月派遣の第10次隊では、「駆けつけ警護」など同法に基づく新任務は実施しないと表明していた。参院選前にやるのはまずい、という判断だ。
今回救出のために自衛隊輸送機を派遣した。が、13日、JICAは独自にチャーターした民間機により日本人47人を含む93人でケニアのナイロビに脱出を果たした。気になったのは空港までの移動である。自衛隊による警護についてどこかで言及されていたが、実際はどうだったのだろう。
「自宅などからジュバの空港までJICAの手配した車両を使い、安全なルートを選んで移動した」というような簡単な説明はあるものの、どこが(誰が)警護したのかという詳細はわからない。
そもそも菅官房長官は今回も「駆けつけ警護はしない」とコメントしていた。
南スーダンのJICA関係者退避へ、対応に万全期す=菅官房長官(ロイター 2016.7.11)
この「駆けつけ警護」というのが実にわかりにくい。安倍首相は、PKOに参加している他国の部隊や日本人NPOなどを今の自衛隊では(武器を使えないので)助けられない、だから安保法制で「駆けつけ警護」ができるようにするのだ、という説明をしていた。
が、そもそもPKOは駐留国の住民に加え、どの国のNPOでも助けるのだ。ただし、それぞれの軍は自国の法律や軍法に縛られる。できることとできないことが異なる。そのため、異なる部署で異なる任務に当たるのである。ちなみに、PKOに「駆けつけ警護」なる言葉はないという。PKO活動のごくあたりまえの一つの任務だからであろう。
アフガニスタンで井戸掘りなどNGO活動を行っている中村医師は、安保法制による自衛隊の武器使用範囲の拡大に反対し、むしろ危険性が増す、と訴えていた。自分の国に他の国の軍隊が入ってくるのである。それを自分たちに銃を向ける敵だと思えば、その軍隊は攻撃の標的になる。南スーダンにも実例があった。
米政府は戦闘が激化していた2013年末にも米国民を救援するために南スーダンに米軍機を派遣。その際、米軍機が中部ボルで攻撃を受け、複数の乗組員が負傷している。
米政府、南スーダンへ米兵46人を派遣 戦闘再発を受け(朝日デジタル 2016.7.14)
今回のJICAの判断は、自衛隊をあてにしないもののように見える。もちろん民間機のチャーターに政府の支援はあったかもしれない。一瞬の判断遅れも許されないわけで、逃げられるチャンスがあるのに自衛隊機の到着を待つ必要もない、ただそれだけのことかもしれない。が、このあたり、微妙である。
自衛隊機はジブチに14日に着き、同日ジュバから日本人4名を運んだ。せっかく行ったのだから4名でも連れ出せなければカッコつかない、とでもいうように。
これで(安保法制のおかげで)日本もようやく邦人の救出に自衛隊を出動させられるようになった、と喜んでいる人たちがいる。が、自衛隊による邦人救出出動はこれで4回目とのこと。安保法制などなくても行ってきたのだ。
自衛隊撤退の条件
今回、菅官房長官も中谷防衛大臣も、南スーダンではPKO参加5原則が破られていない、ゆえに撤退はしない、と答弁している。PKO参加5原則とは、安保法制審議で自衛隊員のリスクが高まるとの批判や疑念に対して、いや、これがあるから大丈夫、と説明されてきたものだ。
①紛争当事者間の停戦合意
②紛争当事者による日本のPKO活動参加への同意
③中立的立場の厳守
④以上が満たされなくなった場合は部隊撤収できる
⑤武器使用は要員の生命などを防護する必要最小限
この度の南スーダンで言えば、①紛争当事者間の停戦は、一時は確かに破られた(PKO参加の中国人隊員二名が犠牲になっている。これが自衛隊員であったら、こんな答弁は通らないだろう)。
政府の認識、いや説明と、現地の実情にはどう見ても大きな開きがある。治安が悪化した場合の影響はとっくに指摘されていたのだが、その懸念が現実となっても、まだ否定する政府、なのである。
政府は13年12月以降も、南スーダンの活動地域で「武力紛争が発生したとは考えてない」と説明してきた。このため国会審議では野党から「内戦状態なのに武力紛争が起きていないというのは驚くべき認識」と批判が上がった。
こうしたPKO参加5原則の形骸化は、現場の治安が再び悪化した際に、深刻な影響を及ぼす恐れがある。3月に施行された 安全保障関連法は、自衛隊を派遣する地域で5原則が守られていることを前提に隊員の武器使用基準を緩め、「 駆け付け警護 」などの新任務を加えた。新任務は武器使用が想定されるだけに、一時のように緊迫した状況で派遣を続ければ、隊員が武器を使うことを迫られる場面は大幅に増えかねない。
(北海道新聞 2016.4.23)
「南スーダンでは、武装したPKO隊員の市内パトロールを威圧とみる若者が少なくなく、一般市民の間にも国連への不信感がある」(南スーダン戦闘再発「双方が撤退を」国連事務総長 朝日新聞 2016.7.11 )という。つまり、5原則の ②紛争当事者による日本のPKO活動参加への同意も、どうやら怪しいのだ。
16日、国連が南スーダンに備蓄していた食料が略奪されていたというニュースあり。この倉庫には、「戦闘再燃前の先週末の時点で、22万人の1ヶ月分の食糧にあたる4500トン超の食糧や、発電機・トラックなどの救援物資が保管されていた」という。
【南スーダン】国連WFP、支援物資の略奪に遭うも数千人に食糧支援(国連WFPニュース 2016.7.15)
また、2016年2月には、南スーダンPKOの避難民保護施設内で武力抗争が起きた。今回の戦闘再燃の原因でもある民族間の対立が、戦闘から避難したPKOのキャンプ内で、民間人の間で起きたのだ。
南スーダンPKO 国連「襲撃は政府軍」派兵自衛隊、武力行使の危険(しんぶん赤旗 2016.2.23)
以下はスーダンでボランティア活動を行っているJVCの今井 高樹氏のブログから。
南スーダンはどうなっているのか?-自衛隊「駆け付け警護」の議論に思うこと(1)
発端は、施設内のディンカのグループが斧などを手にシルックを襲撃したことのようです。殺戮、放火が行われる中、シルック側も反撃。さらに争いはエスカレートし、施設の外部から銃火器が持ち込まれ、武装したグループも入り込み、最後は政府軍の一部までもが施設内に入り込んで襲撃に加わり、多くの犠牲者が出ました。
ショッキングだったのは、この襲撃が国連施設の内部で起き、市民を保護するはずの施設が戦場と化したことです。
この事件ほどの規模ではないにせよ、南スーダンのPKO部隊が、武装したグループによる衝突や襲撃、あるいはその未遂に遭遇することは珍しくなくなっています。それは軽武装した避難民や住民の場合もあれば、もう少し本格的な武装グループの場合もあるでしょう。市民保護の任務に当たる以上、こうした事態に対処することは避けられなくなっています。
Twitterでは、自衛隊を撤退させるべきだ、という発言が多く流れてくる。上記のような状態であれば、5原則は破られているのだから撤退させられるだろうと。が、実は派遣以前、さらに言えば安保法制審議中も5原則は「形骸化」していた。政府はそれを知っていて法律を通し、派遣を継続しているのである。
PKOは「保護する義務」から逃げられない
UNMISSにおける自衛隊の活動について(防衛省 平成28年6月)
では、国連の要請はどうであるか。潘基文(パンギムン)事務総長のメッセージを見てみよう。
南スーダン、両派停戦命令 増える犠牲者、情勢不透明(朝日新聞 2016.7.12)
潘氏は「今こそ国連活動を大幅に強化する時だ」と述べ、政府が自国民を保護できなかったり、しなかったりした場合には、国際社会に行動する責任がある、と訴えた。さらにPKOに参加する日本などの貢献国には「一歩も引かないで欲しい。あらゆる後退は、南スーダンと世界に誤ったシグナルを送ることになる」と述べた。
今のPKOでは、日本の自衛隊だけが「5原則が破られたから撤退します」というわけにはいかないのだ。このことは伊勢崎賢治氏らがずっと指摘してきた。何故なら、国連PKOの指針がかつてと大きく変わっているからだ。
南スーダンに派遣される自衛隊は大丈夫なのか(imidas 2016.7.8)
伊勢崎 カンボジアのPKOから20年以上が経って、国連のPKO自体が大きく変わっています。変わる契機となったのは、1994年のルワンダでの大虐殺です。数カ月の間に約100万人が殺されるというジェノサイドを、PKOがいながら止められなかったということが国連のトラウマになります。
そして登場するのが「保護する責任」という概念です。99年には、コフィ・アナン国連事務総長が、住民保護などのマンデート(任務)を遂行するためにPKOは国際人道法に従って行動しなければならないとガゼット(官報)で告示しました。これは国連が中立性をかなぐり捨て、国際人道法上の「紛争当事者」になって住民を保護するということを意味します。
これを機にPKOはどんどん好戦化していきます。今や住民保護は、ほとんど全てのPKOの筆頭マンデートとなり、2010年に始まったコンゴ民主共和国のPKOでは、武装勢力が住民に危害を加える前に殲滅しろと特殊部隊を投入して先制攻撃することまでが承認されました。コンゴのPKOの現場で使われている ROE(交戦規定 Rules of Engagement)は、交戦する対象に、ゲリラなどの非国家主体に加えて国軍と警察も入っています。
つまり、もし国軍や警察が住民を攻撃している場に遭遇したら殲滅(せんめつ)しろと言っているわけです。良い悪いは別にして、国連はここまで来てしまっているのです。
こういう中では、「PKO派遣5原則」 など成り立つはずがありません。昔と違って停戦合意が破れたからといって撤退するわけにはいかないのです。住民を保護するために送られているのに、それができないなら最初から来るな、の世界になっているのです。PKOに出すということは、最初から「紛争当事者」、つまり「交戦」する主体になるというのが大前提です。国連はそれを前提にしているのに、日本だけがそれを前提にしないで、政治家もメディアも20年前に作ったPKO派遣5原則がいまだに成り立つなんて思っているわけだから、もうどうしたらいいのかわかりません(笑)。
伊勢崎氏は安保法制に反対してきた理由の一つに、自衛隊には軍法が無いことを上げている。自衛隊が万一駐留地で住民を殺害してしまった場合は、日本の刑法の殺人罪が適用される。武器使用の範囲だけを緩和されても、これでは武器は使用できない。あまりに自衛隊員をないがしろにしている、あまりに現場の危険に無頓着だ、いったい何のための、誰のための法改正なのか、ということである。
今回の戦闘再燃で、「陸上自衛隊の部隊約350人は、宿営地がある国連施設外での活動を中断し、外国部隊への給水などの活動をしているという」(毎日新聞 2016.7.13)
軍法によって守られない日本の自衛隊は、(使えないので)より危険度の低い作業に回してもらっているのであろう。
が、伊勢崎氏が心配しているのは、事故である。上記のように、略奪までするほどPKOに対する不信感があり、民間人と民兵の区別もつかない。しかもキャンプ内でさえ武力衝突が起こるほどの民族対立感情がある。
ここで懸念されるのは、もし事故が起きてしまった時、じゃあ自衛隊を軍にして軍法を作ればいい、という主張が出てくることである。一方で、自衛隊員に起きた「事故」は、5原則の形骸化と安保法制の不備を知りながら自衛隊を派遣した政府の責任である、と反対派は追及するだろう。どちらにも自衛隊員の「事故」や犠牲が利用されるわけで、これも伊勢崎氏が強く指摘してきたことだけれど、本当にやりきれない話しだ。
そもそも「駆けつけ警護」のためには、なにも自衛隊を出す必要は無いと伊勢崎氏は言う。日本の果たすべき役割や活かせる能力は、土木作業や給水活動(も大事だが)よりもっとほかのところにこそあるのだと。
僕はPKOに関しては、今後も武装した自衛隊を出す必要はないと思っています。そもそも、PKOの軍事部門(PKF)に部隊を出すことにこだわっている先進国は日本と韓国ぐらいです。アメリカをはじめ他の先進国は、司令部に幕僚は出しても部隊は出しません。部隊を多く出しているのは、伝統的に余っている部隊を国連に貸し出して外貨稼ぎをしたい発展途上国と、その国の内戦が自国にも降りかかるという集団的自衛権的な動機で派遣する周辺国です(上記地図参照)。国連もこれを前提にPKOミッションの設計をするので、先進国が部隊を出す慣習的なニーズは存在しません。
もちろん、PKOは国連がやる集団安全保障としての措置ですから、参加は加盟国としての義務です。ほっとくわけにはいきません。でも最初に言ったように、PKFはPKOの一つのコンポーネント*に過ぎません。PKFに出さなくてもPKOに貢献する方法はいくらでもあります。
たとえば、そんなに駆けつけ警護をやりたいのであれば、文民警察部門に警察の機動隊や対テロ専門部隊を送ればいいのです。PKFは国際人道法に根拠に行動しますが、文民警察はその現地国の国内法を根拠にします。国連要員の保護協定というものがあり、ほとんどのそういう現地国はそれを批准していますので、PKO要員に対するハラスメントは国内法で犯罪なのです。それを根拠にして、国連文民警察は現地警察と一緒にPKO要員を傷つける不埒(ふらち)な連中を犯罪者として取り締まるのです。
自衛隊は即座に撤退させる。でも、撤退だけだと日本の貢献がゼロ、外交問題になるので、代わりに100人の機動隊員を送るのです。文民警察であれば、警察権の行使としてどんなに武器を使っても、9条と何ら矛盾しない(笑)。実際、今、文民警察部門に「Formed Police Unit」を出すのがトレンドになっているのです。自動小銃で武装した機動隊です。現代PKOでは、これが「駆けつけ警護」の主体になっているのです。
あとは、非武装の軍事監視団。僕は、これこそ日本の自衛隊の「お家芸」にするべきだと前から言っています。
※PKOとPKFは別ものという思い込みがある。が、PKFはPKOのユニットの中の軍事部門で、自衛隊は当然ここに組み込まれている。
「駆けつけ警護」をやるなら文民警察部門に機動隊を出せばいい。実にシンプルである。「PKO=自衛隊派遣」は、全くの思い込みなのである。では「日本のお家芸にすべし」という非武装の軍事監視団とはどういうものなのだろう。
国連には伝統的に、非武装で行う軍事監視という役割があります。多国籍の将官クラスの軍人が武装を解いたチームを作り、敵対勢力の懐の中に入り込み、交戦を未然に防ぐ信頼醸成装置になるんです。軍人が非武装だから意味があることで、僕がやっても意味がありません(笑)。
これはPKO部隊とは一線を画していて「安保理の目」と呼ばれています。PKOという概念が生まれる前から存在する機能で、国連PKOのミッションでは必ず軍事監視団が存在します。国連自体が中立性を失った時代だからこそ、国連の中に唯一残された中立の部署なのです。これは、周辺国では、もちろんダメです。利害関係が全くないということ、そして、国のイメージが非常にいいということで、日本に一番向いている業務だと思います。
「紛争解決請負人」が語る安保関連法案伊勢崎賢治×荻上チキ(SYNODOS 2015.7.8)
機動隊であれば憲法違反にもならない。あるいは自衛隊なら非武装で軍事監視団に出す、こちらも憲法違反ではない。しかも「戦争をしない日本」というブランド(=安全保障)は守られる。まさに「この道しかない」ように思われるが、日本はあくまで自衛隊のPKO派遣にこだわってきた。このことの理由を考えるべきであろう。
施設隊でインフラ整備に貢献し、感謝されれば、国民の自衛隊海外派遣に対する拒否感は薄れ、支持は広がる。実際そうなってきた。海外に出るのがOKとなったあとは、段階的な武器の使用拡大である。既成事実を積み重ね、世論を誘導しながら、自衛隊が出来ることを広げていく。そのためには自衛隊を海外に出し続けなければいけない。
これは、日本政府の思惑のために海外の紛争とPKOを利用するもので、不実であるだけでなく、派遣先の状況と日本政府の判断認識には絶えず落差が生じることでも、非常に危険な手法である。このことから南スーダンでも、コントロール不能な暴力の拡大に、自衛隊は抜き差しならない状態に追い込まれている。
状況が悪化すればするほど保護を求める住民の数は増え、PKOは撤退できなくなる。「一歩も引くな」と国連のトップが訴えている時、自衛隊も撤退出来ない。たとえフェンス内(非戦闘地域)にとどまり、担うのは兵站(後方支援)のみであるにしても、自衛隊も住民保護のための武力介入が可能なPKF(戦闘主体)の一員であることに変わりはない。たとえ戦闘には使えない自衛隊であっても、「誤ったシグナルを送ること」は許されない。
とにかく、南スーダンの情勢は流動的で、かつ食糧不足などの人道的危機も懸念されている。停戦状態が続き、少しでも治安が回復され、まっとうな国づくりの道を歩んでほしい。そうなって初めて自衛隊は撤退できる。が、見通しはそう明るくはない。
南スーダン:自衛隊は今は撤退するべきではない。→ https://t.co/fDfZZYnrXS
— 伊勢崎賢治 (@isezakikenji) 2016年7月12日
【参考】
なぜ日本政府はPKF部隊派遣にこだわるのか? 自衛隊「駆けつけ警護」問題の真実 先進国では日本と韓国だけ…(現代ビジネス2016.3.3)
自衛隊「海外派遣」、私たちが刷り込まれてきた二つのウソ ゼロからわかるPKOの真実(現代ビジネス 2016.2.13)
伊勢崎賢治氏が断言「首相が出したパネルは国を辱めている」
南スーダンはどうなっているのか?-自衛隊「駆け付け警護」の議論に思うこと(2)(JVC 2016.4.18)
追記 2016.7.18
上記末尾部分を若干訂正追記した。
国連の備蓄食料の略奪についての続報では、「わずか2日間で貯蔵されていた倉庫ごと奪われた」と。
南スーダンで大規模な略奪、22万人1か月分の食料 飢餓の危機
国連によると、今後数か月で南スーダンの人口の3分の1以上が深刻な食糧不足に直面するとみられており、同国で「破滅的な飢餓」が起きるリスクがあるという。
WFPの倉庫以外の多くの場所でも略奪が起きた。市民たちが身の安全を確保するために教会や郊外に避難すると、住宅や店舗も略奪されたという。
治安は急速に悪化しており、国連の職員などは既に撤退を始めている。
南スーダン 首都治安 急速に悪化 各国・機関が要員国外退避 陸自は駐屯を継続(しんぶん赤旗 2016.7.18)
兵士が略奪を行うような状況で、自衛隊が「非戦闘地域」にとどまり続けることは、自衛隊員にとって相当のストレスであろう。もとより国連の住民保護キャンプでさえ戦闘の場となるような紛争地に「非戦闘地域」などないのだし。
追記 2016.7.19
治安の悪化と深刻な人道危機が進行している。
南スーダン:「子どもを連れ去られた」「両親が撃たれた」――患者たちの証言(国境なき医師団 2016.7.15)
南スーダン・ジュバの避難民にユニセフの物資届く 栄養、水、衛生など救援物資の運搬開始 親とはぐれた子どもの追跡調査も(Unicef 2016.7.13)
「現状よりはるかに強力なハイレベルの国際関与がなければ、和平の継続を楽観視できる理由はほとんどない。」
[FT]失敗国家となった南スーダン(日経/英フィナンシャル・タイムズ紙社説 2016.7.14 )
追記 2016.7.20~21
南スーダン兵士が市民を性的暴行か、国連(AFP BB News 2016.7.20)
南スーダンの首都ジュバ、戦闘は終わったけれど・・(今井 高樹 JVCスーダン現地代表2016.7.20)
まだ残っている大使らも、夜間は自衛隊の宿営地に避難しているという。が、宿営地も流れ弾で被弾したというニュースもあった。
南スーダンでの安全確保困難 大使ら陸自宿営地に避難(東京新聞 2016.7.21)
7月22日以降は以下に追記します。
南スーダン:自衛隊は撤退すべきか? いや、そもそも撤退できるのか!?②
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