非対称の「戦争」 — ④ 日本の「テロ対策」に欠けているもの

terrorism

日本経済新聞が、21日から「日本でテロが起きる可能性は?」
というオンラインアンケートを行っていた(25日終了)。
日本でテロが起きる可能性は?(クイックVote)

(1)パリ同時テロを受け、今後、日本、あるいは日本人もテロの標的になると思いますか

「はい」が90.9%。

そりゃ可能性があるかないかといえば、ある、としか答えようがない。「日本でテロは起きると思う」という結論を引き出したいための設問かと思ってしまう。
5択、せめて3択程度は選択肢を用意してほしい。

まず、起きると思うか、と聞き、「はい」と答えさせたうえでの次の質問。

(2)日本でのテロを防ぐためには、どのようなことが効果的だと考えますか

A.テロリストを日本に入国させないための対策強化ー29.9%
B.テロ組織に関する情報収集強化ー32.6%
C.爆発物や拳銃などテロに使用されそうな物の規制強化ー6.5%
D.警察と国民、民間企業といった官民の連携強化ー10.4%
E.人道支援などで中東に優しい国であることをアピールー6.8%
F.集団的自衛権行使容認などの安保政策を見直すー9.9%
G.その他ー3.9%
 

ここで選択できるのが一つのみであるというのもどうかと思う。だってある意味どれも必要でしょう。しかもFは、集団的自衛権による武力行使による報復として「テロ」が起きる可能性が高まるので、安保法制を(廃止の方向で)見直す、という意味なんだろうけれど、ちょっとわかりにくい。

で、最後の設問がこれ。

(3)安倍内閣を支持しますか、しませんか
 
 支持する67%、しない33%。
 

「テロ」回避においては安倍政権は頼りになると思っている人が多い、ということか。あるいは「有事」には(長く)政権党である与党への信頼感が高いためか(しかし「有事」なのか?今の日本…)。こういうとき強権取り締まり強化志向が高まるのは予想通りだけれど、回答を事前予測した設問だということと併せて、やっぱりこの結果になんともいや~な感じはする。

フランスでは非常事態宣言で集会が禁止されているにもかかわらず、移民・難民排斥反対の集会とデモが行われ、それが治安部隊によって強制排除された。
【パリ発】「デモは国家的暴力で封じ込め」 アベ政権が段取り
(田中龍作ジャーナル 2015.11.23)

田中龍作はパリから「テロ」事件後の様子をレポートしているが、アメリカが9.11後の「テロ」取り締まり気運の高まりに乗って「愛国法」を通したことからも、フランスの「自由・平等・博愛」がどのように持ちこたえるかをウォッチすることは大事なことだ。
【パリ発】「ネットメディア検閲」 アベ政権が必ず真似てくる(同 2015.11.21)

いずれも安倍政権の動きを警戒する文脈でのレポート。実際「共謀罪」の再検討や、緊急事態条項と絡めた憲法改正が言われ始めており、表現の自由の規制、報道・思想統制に関してはすでに十分独裁的である安倍政権が、更に警察権力強化に動く可能性は高く、看過できない。安倍政権の目論見が「テロ」対策に名を借りた別のところに(も)あるという視点は押さえておくべきだ。
非常事態に備える憲法改正は必要か~震災・原発事故時の官房長官・枝野幸男氏に聞く~(江川紹子) – 個人 – Yahoo!ニュース(2015.11.24)

上記記事で枝野氏は原発事故という非常事態時の経験から、テロ対策は法律で可能で憲法改正は必要ない、と言い切っている。必要なのは共謀罪のような取り締まり強化ではなく、「情報の集約システム」なのだと。

原発事故からは、緊急事態に備えて日本にはどんな準備が不足していたか、それをどう(再)構築するかを学ぶことが出来るはずだ。これを安倍政権はきちんとやった(やっている)のかどうか。

やらなければならないのは、情報の集約システムだと思います。東日本大震災とか原発事故でも、一番問題だったのは、全部東電で情報が止まっていたことでした。情報が官邸に上がってない。 東電本社には(現場と)テレビ電話システムでつながっていたということすら、我々のところには上がってこなかったわけですね。あれが初めから官邸につながっていれば、相当に対応は違っていた、というのは間違いないわけだし、テロに備えるなら、警察庁の首脳部に上がる情報が、リアルタイムで官邸につながるようになっているのかとか、その時に官邸で総理なり官房長官を補佐するスタッフはどうなっているかとか、そっちの方が深刻な問題でしょう。

・・・

それから、外国人の入国情報について、もちろん個人情報保護的な視点、プライバシーの視点は大事ですけど、要注意人物と思われる人が入ってきた時に、ほんとに把握できて、きちんと追っかけているのか?そっちが問題ですよ。事後的に防犯カメラたくさんあって、いろんな事件解決できるといっても、後手じゃまずいんで。

情報がないから、イスラム教関係者全部をフォローするとか、イスラム教国からの人を全部フォローするとかいうことになったら、それは問題で、人権侵害じゃないかと言われる。それに、そんなにベタに薄くやってたら、本当に追っかけなきゃならない人間を追っかけられない。日本にそういう情報収集能力あるのか?これは権限の問題じゃなくて、能力の問題ですから。それらを育てるのは、30年50年の仕事ですよね。そっちの方が心配」

「情報の集約システム」は、日経新聞アンケートでも – B.テロ組織に関する情報収集強化-32.6%と、重要視する人も多い。だが問題は入ってきた情報をどう活かすのか、その情報でどう予防措置を取るのか、そのためのシステムが構築され機能するようになっているか、ということである。情報収集権をいくら強化し、範囲を広げても意味がないのだ。日本はすでに盗聴法の範囲を拡大しており、その危険性が十分認識されていないことが逆に気がかりである。

枝野氏はテロ対策について、次のような提言をしている。

「ただ、本件とは別に、そろそろ真剣に考えなきゃいけないのは、なぜ、世界は絶対王政から法治国家に変わったのか、ということ。それは、結局、弱者が強いからなんです。要するに、暗殺を恐れた絶対王政の側が、おちおち寝てもいられないので、おちおち寝ているためには、ルールに基づいてやるんだから、殺さないでねと、そういうことなんですよ。

正面戦争やる限りアメリカが強いんでしょうけど、テロとなったらどうでしょうか。9.11は、アメリカの軍事力をもってしても、おちおち眠れないという社会に入ってしまったことの象徴で、今度フランスでこれが起きた。明らかに世界は、強権をもって安全を確保することが困難な時代に入っている。これは世界全体が法の支配の下に入らないと、安全を確保できない。そういう事態が、世界で50年100年単位で起こり始めているんだと思います」

――ただ、ISみたいなところは、自分たちの価値観以外は認めない。そういう人たちと共通のルール作れるんでしょうか。

「その人達と共通のルールを作ろうとしたら難しい。誰と共通のルールを作るかというと、過激派ではないイスラムの人たち。だから、難民を排除するとかヘイ トスピーチするとかは最悪で、その人達をむしろ過激派の方に追いやるようなもの。こちらは話をしてくれない、相手をしてくれない状況では過激派の方に走らざるをえなくなる。過激派の方には厳しく対処するしかない。いかに過激派を小さくするかというためには、過激派以外と仲間になるしかない。テロをやってる集団を追い込むためには、それ以外のところは、いろいろイヤな相手でも、敵の敵は味方、あるいはこちらに取り込むというくらいでないと、おそらく事態は収まらない

上記アンケートで気になるのは、- E.人道支援などで中東に優しい国であることをアピール – の少なさである。6.8%しかこれを支持していない。だいたい設問の立て方も悪い。「中東に優しい国」という情緒的な「アピール」って、対策というにはいかにも弱弱しく感じられる。

そうではなく、枝野さんの指摘にあるように、これは、難民受け入れや支援など中東の人権問題への平和介入により、対「テロ」包囲網(ルール+信頼関係としても)を現場の人たちと、あるいは世界秩序の中で築く、という現実的かつ積極的な意味を持つものだろう。

ここには、安保法制の時にさんざん言われた「国際貢献」ということもからんでくる。国家が破たんした地域(アサド政権がシリアを統治できているとはだれも言わないだろう)の紛争解決という視点から、もっと国連の役割が言われてもいいのではないか。

ただ、今だにアサド政権をめぐっての周辺国及び欧米対ロシア・イランの対立が根強く、IS包囲で共闘を言いながらもトルコのロシア機撃墜が起きるなど、あまりに周辺国+欧米露の利害が錯綜しすぎている。ゆえに国連の役割も高まるわけだけれど、その国連がロシアあるいはアメリカの拒否権行使で機能しないのだから、ここにも手詰まり感はある。

9.11後のアメリカの言論統制と排外主義の高まりに関しては、内外からの批判や反省の声がある。フランスにもアメリカの「対テロ戦争」の失敗の二の舞を懸念する人々の層がある。難民受け入れ拒否はむしろISに対する敗北を意味するという認識は、メルケルの発言だけでなく、欧州のほとんどで共有されているように見える。たとえ極右の移民・難民排斥派が伸長しようとも、そちら側に雪崩を打って移行するとは考えにくい。何故ならそれはISとの「戦争」の敗北というだけでなく、ISが否定するEUの理念、欧州の価値観の敗北だからだ。

話があちこちしているが、では日本はどうだろう、ということである。

先のアンケートを見るに、決定的に欠けている点がいくつかある。まず、なぜ日本にも「テロ」の可能性や脅威が出現したのか、ということを問う視点。日本もターゲットだとISが名指しするのは、「有志連合」の一員だからだ。しかも武力介入の一員ではないのに、国の首相が「積極的」に武力介入支持を、明確なメッセージとしてぶち上げているからである。

そもそも一員に名乗りを上げたのは、安保法制可決の前のことだ。安保法制見直しも必要だけれど、その前に「有志連合」からの離脱、あるいは方針転換が選択肢の一つとしあってしかるべきだ。有志連合の一員カナダは空爆からの撤退を表明し、同時に難民受け入れを公表した。カナダの取った二つの方策、武力介入の否定と平和介入を自国内に引き受けるという施策が、何故日本の対テロ対策の選択肢にないのか。

ここで思い出すのは、日本の独自の事例、日本にとってパリと同じように衝撃的であった、オウムの地下鉄サリン事件である。事件後の人々の恐怖と報復感情に乗ずるように、人権は後退した。その結果強まったのは排外主義であり、警察監視力の強化であり、重罰化であった。森達也が詳しく追っているが、このように「テロ」事件をきっかけに日本国内の人権が後退したという認識は、残念ながら定着していない(だから私たちは、9.11から学ぶ姿勢をパリの人たちや欧州と共有できないのかもしれない)。

というようなことのうえに、上記アンケートの設問に重罰化と排外性を高める志向性があり、答えにもまた同様の傾向が表れるのだ、と見ることもできる。つまりこれは、日本では政権も国民も、「明らかに世界は、強権をもって安全を確保することが困難な時代に入っている」という共通認識に立てない、ということだ。

「安全は強権支配では困難」という世界の共通認識に逆行する強権指向の政権の下、私たちもまたオウム後の日本が陥った排外主義と人権後退から学べないできた結果が、「対テロ対策」に重要な点が二つ欠けてしまう、ということなのだと思う。

「テロが怖い」という感情をこれだけ喚起せしめ、それが「テロ」を消滅させる方向にではなく、増長させる方向へと大きな感情の流れを生じさせるのだとすれば、非対称の「戦争」の勝者がどちらになるかはあきらかだ。

とはいえ、以上の点を指摘つづけている人たちもいるし、報道もある。そのような人や報道に対するバッシングこそ、有効な「対テロ対策」の足を引っ張るものだということも、言っておこう。

参考:

パリ同時多発テロ〜ISが提示した新しい戦争のかたち ( 中東情勢 ) – 勝手にメディア社会論 – Yahoo!ブログ 2015.11.15)

同時多発テロ、フランスは極右に旋回するか?:日経ビジネスオンライン (2015.11.17)

国連は「国際シリア支援グループ」(ISSG)の定義に沿って、ダーイシュ、ヌスラ戦線、そして「そのほかのテロ組織・個人」によるテロ阻止に向けてあらゆる措置をとることを訴える安保理決議を採択SyriaArabSpring 2015.11.20)

フランスの「戦争状態」宣言を疑問視 ドイツやイタリアは軍事参加に消極的 – ライブドアニュース (2015.11.22)

テロに衝撃を受けた時に考えておきたいこと(Videonews.com 2015.11.21)

 21世紀がテロの世紀となることはもはや避けられそうにない。しかし、そのテロにわれわれがどう対応するかによって、この世紀が単なるテロの世紀となるか、テロの挑戦を受けた文明がテロを打ち負かした世紀となるかが変わってくる。

追記 12/3

日本で「テロ」が起きる可能性はあるか、という設問そのものに、人々の不安や恐怖を増長させる効果がある。「ある」としか答えようのない設問に接し、そうだよな、やっぱり「ある」よな、と思ったとたん、不安も恐怖も確かなものに変容する。このような設問をするメディアに、自分たちの言動は「テロリスト」の目論見に加担するものでもある、という自覚はあるのか。

メディアは同時に、「テロ」が起きる可能性は日本は他国より少ないのだ、という情報も発信してほしい。たとえば(これまでの繰り返しになるけれど)以下のようなことだ。

中東イスラム圏の過激主義や「テロ」行為の口実(正当化)には、いくつかの歴史事実があげられる。遠くは十字軍がある。100年前からは、オスマントルコ解体後の欧米の植民地化や、勝手な国境策定であるサイクス・ピコ協定があり、イスラエル建国があり、直近ではアメリカによるイラク戦争がある。これらに関係する国は、英米仏露独伊等の欧米諸国である。

中東を専門にしているあるコメンテーターも、パリの襲撃事件を受けて、欧州は(それを言えばロシアも含まれるが)かつての植民地主義やサイクスピコ協定の ツケを払わされているのだ、というようなことを言っていた。

これがあるから、アメリカは対アサド・IS有志連合に周辺国や湾岸諸国、オーストラリアやカナダが入ることを望んだのだとも言える。つまりかつての植民地宗主国以外、キリスト教国以外である。

こうして、キリスト教圏でもなく、従って千年のトラウマ(十字軍)にも無関係であり、侵略占領も行わなず、ゆえに百年のツケにも無関係だった日本も、「有志連合」の末席に連なることになった。けれども本来日本は、中東から「テロ」の口実たる「怨念」を向けられるようなことは何もしていないのだ。

加えて日本国内問題としても、イスラムとの軋轢が少ないということがある。日本の特徴としての排外性や多様性に対する不寛容や同質同化圧力や、欧米白人(文化)賛美&それ以外の軽視傾向はあるけれど、欧州のように構造的な差別や貧困と言った社会問題になってるわけではない。

このように日本は、対外的にも内部的にも「テロ」の起きる確率は欧米他国に比べてかなり低いのだ。元来は。

2016.07.07 

7月1日に起きたバングラデシュの人質殺害事件で日本人が殺害された件、以下の記事に追記(追記内容は同じ)。

モロッコ、旅の安全と情報収集について(’16.7.6追記 バングラデシュで日本人犠牲)
「テロ」より怖い「テロが怖い」

 

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