モロッコ、旅の安全と情報収集について(+バングラデシュ~トルコ)~ ‘17.5.23

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2014年3月、マラケシュ、フナ広場界隈

モロッコ旅行の直前、フランスでシャルリー・エブド襲撃事件が起きた。
滞在中には「イスラム国(IS)」による日本人人質事件が明るみに出た。
解放交渉の経過とその失敗、湯川さんと後藤さんの殺害はリアルタイムで知った。
現地のTVニュースではなく、Twitterと、
メールで届く日本の新聞のヘッドラインからである。

2015年1月18日からのほぼ二週間、モロッコでは危ない目になど一度も会わず、
危険な兆候は目にも耳にもしなかった。
スリやひったくりは警戒していたが、幸いどんな被害にも合わなかった。
では、モロッコ(への旅行)は全く安全なのだろうか。

もちろん、日本のように安全な国は世界中で他にはない。まずそのことを確認したうえで、モロッコに関する知識を深め、情報を集めておくべきだろう。また、このような状況では事前の準備だけではなく、現地でも情報収集を心掛けるべきだ。これらによって、必要以上の不安は払しょくできる。せっかくなのでこの機に、モロッコについて私の知っていることややったこと、そしてやらなかったことも反省しつつ、少し書いておこう。

モロッコでは「アラブの春」以降も、政府との大がかりな衝突事件などは起きていない。北アフリカや中東イスラム圏の中では民主化が進んでいるためと、国王支持が高いためかと思う。2014年3月に旅を共にしたドライバーは、他の国と違ってモロッコに問題が生じないのは、自分たちには王様がいるからだ、と胸を張って言った。

だが、モロッコにも問題が無いわけではない。「アラブの春」による更なる民主化や改革の声もあったようで、その回答の一つとして、ベルベル語が公用語になったと聞く。アラブ人が6割、ベルベル人が4割といわれる人口構成で、両者の間に差別や反目もあるだろうことが、これによってもうかがえる。だがこれは、モロッコには、力による弾圧で国民の声を押さえつけるのではない、柔軟な姿勢があることも語っている。王政批判はタブーで、あちこちに王様の写真が飾られている。だが額に入れられた写真に、シリアで見かけたアサドのポスターのような威圧感はなく、「いたるところにスパイがいるのでうかつなことは言うな」、と釘をさされた2011年のシリアのような緊迫感もない。

とはいえ、2011年にはマラケシュのフナ広場で観光客を狙った爆弾事件があったし、2012年にもテロ組織の摘発が何件か行われた。アルジェリアと西サハラに長い国境を接するモロッコは、国境地帯が主に砂漠であることからも、国境をまたいだ急進的なイスラム主義者たちの動向に敏感である。2014年、モロッコ政府は国内のテロ警戒レベルを最高度に引き上げた。

モロッコを車で旅行していると、しょっちゅう検問に出くわす。大がかりなものではなくて、数人の警官(治安部隊 ?)が道路に立って車を任意に停める。少し手前の標識で車は一旦停止するのだが、「行け」とサインを出されてそのまま通過することも多い。警官は車を停めてもドライバーと和やかに挨拶を交わし、時に後部座席をのぞき込んだりはするが、ドライバーが書類や免許証を提示すると、すぐに通過OKとなる。実に日常的な風景で、私が日本にはこんな検問はないと言うと、ドライバーは逆に驚いていた。

モロッコは、周辺の国々の政情不安定に比して、このように国家が治安をきちんと維持できている国であり、今のところは、急進的なイスラム主義や反政府活動もコントロールできている、と言えるだろう。

ホテルではほとんどすべての部屋にTVがあり、衛星放送も受信可能であったが、私はテレビを一度も見なかった。モロッコの現地情報を得るためには、テレビも見るべきだったかもしれない。ただ、時間がなかった。おまけに言葉もわからない。さらに言えば、民主化が進んでいるとはいえ、モロッコに自由な報道があるかといえば、それも疑問だ。今年お世話になったコーディネーターのH君は、22日に落ち合った際、日本人人質事件を知らなかった。ニュースを見ていないから、と言い訳したが、ニュースで放送されたのかどうか。

ホテルスタッフは皆フレンドリーで、客が少なかったこともあり、それなりに言葉を交わした。その彼らから、ひょっとしたら人質事件に関して、特に湯川さんが殺害された後、なんらかの言葉をかけられるかと思ったが、この件に触れる者はいなかった。これがイタリアであれば、ほぼ間違いなく、悔やみや同情の言葉を耳にしただろう。私からもH君以外にこの事件を切り出すことはなかったから、彼らが知っていたのかどうかもわからないのだが、もしかしたら報道が抑制されていたのかもしれない。

ともあれホテルスタッフは、旅先の情報収集では一番大事な人たちだ。2013年のカイロでは、今日はデモがあるからタハリール広場周辺には行くな、とアドバイスしてくれた。(公共交通機関のストが多いイタリア等でも強い味方であるが)。

自力での情報収集では、イマドキやはりスマホや携帯が必須アイテムだろう。モロッコではiPhoneに現地のプリペイドSIMを入れていたので、砂漠で3Gがつながりにくいところでも、メールとTwitterのチェック程度は出来た。また主要都市のホテルでは部屋でWifi接続が可能で、設備の古いリアド(邸宅ホテル)や地方都市でも公共エリアではWifiがつながった。従って、Wifiで新聞の全記事をビューワーにダウンロードしておき、あとで部屋で読むことも出来た。

これまで、旅先では日本の新聞など読まず、Twitterのチェックもしたことがなかった。だが、今回は違った。私はTwitterで中東に関する情報発信力の高いアカウントをリスト化していて(これには後藤さんのアカウントも含めていた)、今回このリストだけはチェックするつもりでいた。現地情報というよりも、パリ経由での航空機移動でもあり、中東イスラム圏全体の情勢が気になっていたのだ。

ネットにつながるのだから、外務省や大使館のサイトをチェックすることも可能だった。だが私はこれをしなかった。田舎には観光客もおらず、町も砂漠もオアシスもただただ平穏で、かつ、ベルベル人の現地コーディネーターとドライバーにも全幅の信頼がおけた。ただ、フェズやカサブランカはふらふらと一人で歩いていたので、本当はチェックすると良かったかもしれない。

外務省は2014年の7月に、「たびレジ」という海外旅行登録システムを開始している。これは、旅行者が、旅行日程・滞在先・連絡先などを登録しておくと、滞在先の最新情報や緊急事態発生の連絡メールなどを受け取れるシステムだ。これも登録しておく価値はあった。
外務省「たびレジ」

外務省は海外の危険情報を4段階に分けている。
危険度の高い順から、
レベル4「退避を勧告します。渡航は延期してください」
レベル3「渡航の延期をお勧めします」
レベル2「渡航の是非を検討してください」
レベル1「十分注意してください」
である。

モロッコには2014年7月にでた「十分注意してください」が継続して発令されている。ちなみに、旅行会社は原則として「十分注意してください」ではツアーを催行するし、旅行者が独自に危険と判断して旅行をキャンセルしても、通常のキャンセル料が適用される。

外務省の最新情報を見ると、モロッコ:テロの脅威に関する注意喚起 が、2/3日にアップされていた。昨年9月、アルジェリアで「イスラム国(IS)」に忠誠を誓う組織がフランス人の山岳ガイドを殺害したが、その組織の構成員を逮捕した、というニュースとともに、アルジェリアと国境を接するモロッコの北東部4県(ナドール県,ベルカンヌ県,ウジュダ-アンガド県及びジェラーダ県。いずれも旅行者が訪れる地域ではない)においての危険を指摘し、注意を喚起している。モロッコのニュースは新聞報道では少ないので、その意味でも外務省サイトのチェックは重要だと思う。

ここで、モロッコ旅行の現地手配を行っている旅行会社が出したメッセージを紹介しておこう。
モロッコ、モロッコの現況について (トラベルビジョン 2015.2.4)

現地の旅行業関係者は安全情報に敏感である。情報収集にはこのようなサイトや、モロッコ駐在の方々のブログやTwitterなどのチェックも有効だと思う。

【追記】

書き忘れたが、モロッコで圧倒的に被害にあう確率が高いのは、スリやひったくり、盗難である。観光客が多く混雑しているところでの注意は必須(世界中どこでも共通であるが)。

あと、モロッコで疲れるのは、偽ガイドの売り込みや客引き、子供の道案内など。タクシー利用にも少しコツがいる。これらの話は別記事で書こう。

 

2015.3/24

北アフリカで世俗化が進んでいるもう一つの国チュニジアで、日本人観客が巻き込まれるテロ事件があった。詳細な背景はまだ明らかになっていないが、「アラブの春」が唯一順当に推移している国だっただけに、衝撃も大きい。

モロッコとの共通点を考えると、「イスラム国」にわたっている戦闘員の数の多さがある(チュニジア3000人、モロッコ1500人)。「イスラム国」がシリア・イラクで追い詰められ、戦闘員が帰国する展開になると、モロッコでのテロの可能性も高まるかもしれない。

チュニジアも、外務省の危険情報はモロッコと同じ「十分注意してください」だった。政府情報に頼るだけではなく、より一層の情報収集と、イスラム中東世界の、特に「イスラム国」情勢に注意を払う必要があると思う。

 

2015.11.29

その後もチュニジアで複数回の「テロ」や襲撃事件が起こり、エジプトのシナイ半島でのロシア機撃墜、トルコ、レバノン、そしてパリと「テロ」事件が続いた。これらはいずれもISが犯行声明を出している。その他マリではアルカイダ系の武装組織が「テロ」事件を起こしている。

このように事件が重なると、海外旅行で飛行機に乗るのもためらわれるようになる。特に日本人は自粛(?)傾向が強いので、海外旅行そのものが減らないかと心配だ。無防備に危険性のあるところに出かけて行くのはもってのほかだけれど、過剰反応や過度な内向き志向も残念だ。

ただし「テロ」は、中東その他政治的に不安定な地域が安定を取り戻さない限り、これからも起きる可能性はある。シリアとイラクへの空爆を強化し、今後地上戦なども交えてIS(「イスラム国」)を追い詰めていったとしても、ISの存在を招いた状況が変わらない限り「テロ」はなくならないし、中東で行われている周辺国と欧米露対現地武装組織という非対称の「戦争」が激化すればするほど、逆にその非対称性の帰結である「テロ」も増える可能性が高い。

悩ましいことである。けれども、今回のパリの襲撃事件で再確認したのは、危険なのは中東イスラム圏の国だ(だけだ)というのは思い込みに過ぎない、ということである。今年1月のモロッコの旅で私が気にかけたのは、モロッコ内での事件というよりも、エールフランスでパリ経由の移動中の不測の事態や警戒強化のほうだった。

1月のモロッコでも、夏のウズベキスタンへの旅でも、名前を出すと「危なくないですか?」と返ってくる感覚に違和感を抱いていた。危ないのはむしろフランスじゃないのか、と。それは予想とかいうレベルの話ではなくて、事態をウォッチしていれば当然出てくる可能性であった。この考えは今も変わらない。

ちなみにパリ襲撃事件の11月13日以降、外務省の安全スポット情報で「テロ」関連で注意喚起が出ているのは、ベルギー、バチカン、フランス、マリ、スウェーデン、バングラデシュ、レバノン、イスラエルである。

モロッコに関しては7月23日にIS関連のテロ組織の摘発があったと伝えている。
モロッコ:テロの脅威に関する注意喚起

最近もこんな情報があった。
中東の窓 : モロッコの治安情勢 (2015.11.27)

モロッコ政府は警戒や取り締まり強化と治安維持をアピールしているが、事件を未然に防げたとすれば、モロッコは引き続き治安のコントロールに成功していると見ていいだろう。エジプトのように事件が観光に与える影響を相当恐れているのだろうとも思う。だが、危険性は引き続き高い、あるいは緊張は増しているということはある。危険性の高い場所にはなるべくなら近づかない方がいいだろう。

とにかく、情報収集はますます大事だ。野口雅昭氏は上記ブログで中東・アフリカイスラム圏の情報を連日発信し続けている。現地ニュースだけでなく欧米メディアにも目配りしているので、中東情報の「窓」としてチェックするといいと思う。

 

2016.3.24

昨年11月のパリ襲撃事件の後、注意喚起の筆頭にあげられていたベルギーで、自爆テロが発生してしまった。空港と地下鉄というのもショックだ。が、そもそもバスや列車はかっこうのターゲットなのだ。

モロッコではないが、今年になってから西アフリカではブルキナファソとコート・ジボワールで武装集団による襲撃事件があった。いずれももう一つのターゲットである観光地や、観光客の多いホテルが狙われた。

外務省サイトに渡航情報をチェックに行ったら、こんなページがあった。パンフレットはPDFで読むことができる。
海外安全パンフレット・資料

このなかの[海外へ進出する日本人・企業のための爆弾テロ対策Q&A]に、自爆犯の特徴というのが載っていた。書かれているように簡単に見分けがつくとも思えないが、一応目を通しておくといいかもしれない。しかし、そんな知識が旅行に必要なのかと、暗澹たる思い。たとえテロに遭遇する確率が飛行機事故にあう確率よりはるかに低いものだとしても。いや、飛行機事故は乗客の身ではなんのしようもないが、テロとの遭遇は防げるかもしれないのだから、できることはやっておこう。

その他の注意喚起。
モロッコ:テロの脅威に関する注意喚起(更新) 2016年03月09日 

アフリカ西部(含:マグレブ諸国)及び東部:ホテル・観光地襲撃事件の続発に伴う注意喚起(更新) 2016年03月14日 【広域情報】

 

2016.7.06 バングラデシュで日本人犠牲に…

7月1日のバングラデシュ・ダッカ。レストランが襲撃され、日本人も巻き込まれる悲痛な結果となってしまった。

今年のラマダンでは、ISがラマダン中のジハードを呼びかけていた。結果、この呼びかけに呼応するように、世界各地で「テロ」が連続していた。米フロリダのナイトクラブでの49人(6月12日)、イスタンブール空港の44人(同28日)、と犠牲者の数も多い(7月3日のイラク・バグダッドでは213人という桁違いの惨事となった)。

新聞報道には、親日国であるバングラデシュの、中でも最も治安の良い地域で「テロ」が起きたことがショックだ、というようなコメントがあった。また、自分は日本人だ、撃たないでくれ、と襲撃犯に命乞いをした人がいたともいう。

犠牲者はJAICAや鉄道技術者等バングラデシュを支援する立場にあった。この人たちには、自分がバングラデシュの味方でこそあれ、敵ではない、バングラデシュ人もそう見做してくれている、という思いがあったと推察される。

だが、昨年11月の外務省の安全スポット情報では、「テロ」注意喚起がバングラデシュにも出されていた。10月3日に北部で農業関連事業に関わっていた日本人男性が殺害される事件があった。この事件にもISの犯行声明が出ていた。

今日の毎日新聞によると、JAICAは10月にバングラデシュの青年海外協力隊員ら48人を帰国させていた。ただ、都市部に滞在するプロジェクトスタッフは帰国させず、「移動する際には必ず車両を利用し、不要な夜間の外出を控える」ことなどを求めていた、という。
人質テロ JICA一部昨秋帰国 治安悪化受け 都市は活動継続

JICAの判断は、10月の事件は日本人を狙ったテロという可能性もあり、特に地方での危険性が高まっている、というものであった。「日本人であること」は安全保障とならないという認識はすでにあった、ということである。だが残念ながら、「(都市部は)治安が良い」は、「日本人であること」と同様、安全保障ではなかった。

殺害された22人の内イタリア人が9名、日本人は7名。気になるのは、犠牲者の国籍の偏りだ。昨年秋には10月の日本人に先立ち、9月にイタリア人が殺害されている。それだけバングラデシュには日本人とイタリア人が多いのだろうか。

偶然ということも考えられるが、何故このレストランが選ばれたのか、ということと併せて、このあたりの分析も、今後のリスク回避のためにも必要だと思う。

ISの言う「十字軍陣営」であり、それを積極的に国の首相がアピールし、更にアメリカの戦争に加担する法律まで通してしまった日本の国民は、もはや「テロ」の除外対象ではない。ということと同時に、日本人が狙われたとして、考えられるのは、政権にとってのダメージの大きさや宣伝効果である。

日本はバングラデシュにとって重要な支援国だという。繊維産業ではイタリアがおそらくそうなのであろう。そのような支援協力国では、支援協力国であるがゆえにショックも大きく、従って報道も大々的にされるだろう。結果、投資や人的援助が減る。これは時の政権にとって大きな打撃となる。

当初バングラデシュ政府は、ISはバングラデシュにはいない、彼らの戦闘地域であるイラク・シリアは遠い、といってISの関与を否定していた。この事件がIS主導によるものか、あるいはISシンパ組織の犯行に後追いでISが犯行声明を出したのかは、よくわかっていないようだ。

昨日あたりから、実行犯は裕福な若者たちであったことが衝撃を持って報道されている。だが、知りたいのは、彼らをリクルートし、訓練し、計画を練ったたのはどういう勢力であるのか、ということである。

毎日の以下の記事で日下部尚徳氏の解説を読んで、ようやくバングラデシュという国の今の問題が見えた気がした。同時に、ISはいないと否定する理由もわかった。
バングラテロの衝撃 毎日新聞 7月3日

 この国では2009年に政権に返り咲いたアワミ連盟が、イスラム主義政党の「イスラム協会(JI)」や、これと連立政権を組んでいた「バングラデシュ民族主義党(BNP)」の指導者を徹底的に追い詰める政策を取ってきた。

 特にパキスタンからの独立(1971年)時の戦争犯罪を裁く特別法廷で、独立に反対し、虐殺行為に加担したとされるイスラム協会幹部に死刑判決を言い渡すなど、アワミ連盟が敵視する勢力の指導者を次々と死に追いやった。特別法廷の設置を公約して総選挙に勝ったこともあり、世論の支持があると考えているのだろう。ただ、こうした強権的な手法への反発は少なくなかった。

 しかも、イスラム協会やバングラデシュ民族主義党は政権に関わることができないため資金が枯渇した。このため、デモやストライキなど動員に資金がかかる方法で政権に対抗することができず、非合法な手段に訴えるようになった。イスラム協会と関係が深いとされるイスラム過激派組織「ジャマトル・ムジャヒディン・バングラデシュ」(JMB)などの活動も活発になっている。日本人男性が射殺された15年10月の事件や過激思想に反対するブロガーの殺害事件などがその例とみられる。今回のテロもJMBが関与した可能性は高い。

 15年のイスラム教シーア派施設の爆破事件、日本人男性の殺害事件などではIS支部を名乗るグループが犯行声明を出したが、アワミ連盟政権は国内でのISの活動を否定してきた。明確な証拠がないことも理由の一つだが、関係が深い米国やインドから「バングラがイスラム過激派の温床になっている」と受け止められ、海外からの投資や援助に影響が出ることを警戒しているのが大きい。

 今回、犯行を主張するISが必要な資金を提供した可能性はある。ただ、組織として直接の関与は現段階ではまだ薄いのではないか。一方で、バングラ国内ではISのリクルーターが逮捕されており、ISが少しずつ浸透し始めているのも事実だ。政権も危機感を強めているのは間違いない。

 当局は今年6月、約100人のJMB関係者を含む約1万人を拘束した。こうした徹底した取り締まりへの反発で今回のテロが起きた可能性もある。ただ政権が警戒を強めていた中で、首都ダッカで大規模なテロ事件が起きたことの衝撃は大きい。

 アワミ連盟は、今後も政権維持を目指して野党勢力への攻勢を強めるだろう。バングラ国内では治安悪化への国民の不満もあり、政権はJMBを徹底的に抑え付けて、テロの芽を摘もうとする。

 ただ、それによってこうした勢力はさらに地下に潜ることになる。強権化により事態が悪化することが懸念される。

残念ながら、たとえ親日的な国であっても、その国の強権抑圧的な政策によって、あるいはなんらかの社会的な構造によって溜めこまれた怨念がある限り、そしてそれがひとたびISなどのプロパガンダと結びついてしまえば、ISの関与があっても無くても「テロ」は起きる、ということなのだと思う。

7月1日は、アメリカから中東・アジア(28日にはマレーシアのナイトクラブに手投げ弾が投げ込まれている)にまたがって「テロ」が起きている中での、ラマダン最終金曜日(イスラム集団礼拝が行われる休日)であった(このあとも3日のイラク、4日サウジアラビア、5日インドネシアと「テロ」が続いている)。

「テロ」に巻き込まれないためには、その国の社会に溜めこまれたものにも思いを致すことと、狙われやすい場所の割り出し、予想、そしてイスラム過激主義者がラマダンなどに出すメッセージなどにも目配りしておかなければいけない、ということだ。JAICAはそれをしていただろうに、あの一日のあの時間、あの場所だけがその目配りから漏れてしまった。それが残念でならない。

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画像/朝日新聞

 

トルコでクーデター(未遂?)追記/2016.7.16~21

トルコという世俗・民主国家でクーデター(未遂に終わったようだが)という驚きのニュース。もっとも現政権はムスリム同胞団系でイスラム色を強めようとしていたし、メディア弾圧など強権独裁的な施策が続き、政権に対する反発が強まってはいた。軍は世俗派の守護者を自認しており、かつてイスラムに振れ過ぎると軍がクーデターを起こすのがお家芸のようになっていた時代もあった。

最近ではクルド独立派のテロやISがらみのテロが続き、トルコの治安情勢はかなり悪化していた。それで気になっていたのは、トルコに対する外務省の危険情報である。

シリア国境付近が危険度レベル3、あるいは4であるのは当然であるが、テロが連続して起きた後も、イスタンブールがレベル1で、アンカラでは危険情報は出ていなかった(今も同じ)。トルコを専門とする中東地域研究者である内藤正典氏は、かねて、この二都市の危険情報を上げるべきではないかと発信していた。

外務省の危険情報だけを信じるのは危険だ、ということである。概して欧米や、あるいは関係の深い国に対しては甘くなる。当該国としては、なるべくなら危険は制御できているとアピールしたい。その希望に忖度してしまう、ということがあるのかもしれない。

こんなニュースがあった。
「治安上の脅威」仏が直前にトルコで大使館など閉鎖(NHK 7月16日 11:34)

フランス政府は、トルコで軍の一部がクーデターを試みる2日前の今月13日、首都アンカラにある大使館と最大都市イスタンブールにある総領事館を当面休館にすると発表していました。

フランス政府は理由について「治安上の脅威があるため」としていましたが、具体的にどのような情報に基づいて判断したのかは明らかにしていません。
同じような動きは以前にもあり、ことし3月、アンカラで38人が犠牲となったクルド系過激派組織による爆弾テロ事件の直前にはアメリカ大使館がテロの情報があるとして警戒を呼びかけていました。
また、そのすぐあとにイスタンブールで起きた過激派組織 IS=イスラミックステートによるとみられる自爆テロ事件の際にも、数日前にドイツ政府が大使館などを休館とする措置を取っていました。

沈みかかる船から逃げるネズミ…トルコを沈みかかる船とするたとえは当たらないだろうけれど、情報収集能力の高い国の動きは、危険察知能力の高い生き物にはたとえられるだろう。

中東の崩壊と再生において、そのヨーロッパや世界への影響においても、トルコは非常に重要な国である。最近も、ロシアとイスラエルとの和解という方向にかじを切った。このことがどういう意味を持つのか。

また、今回のクーデターは軍の粛清や反政府勢力潰しに恰好の口実を与えることになる。トルコの独裁の強化と民主主義の低下もまた、治安を不安定化させるだろう。このあたりを引き続き注視する必要がある。トルコ一国のことではなく、中東全域と世界の安定と安全の問題として。

トルコ、3カ月間の非常事態宣言 「テロ関係者を排除」(日経 2016.7.21)
トルコ非常事態宣言 民主主義の終わりとエルドアン体制の混迷への懸念(川上泰徳 YahooNews 2016.7.21)

2016.10.22

モロッコは現時点では(IS関連の)ジハーディストを制御できているようだ。
モロッコ:スペイン当局と連携し、ダーイシュ・メンバー4人を逮捕(al-Hayat紙 2016.10.13)

気になるのはシリア・アレッポとイラク・モスルの情勢である。これでジハーディストが蹴散らされて国に帰ったとき。懸念はヨーロッパやロシア、中東周辺国のほうが大きいかもしれないが…。

2016.11.22

今年10月から11月にかけて出かけたモロッコで、安全対策として実践したことや現地の様子などはこちら。
モロッコ:旅の安全対策実践編 — 「たびレジ」と現地の様子、その後の情報も少し

2017.01.30

IS細胞の摘発(モロッコ)

2017.02.09

外務省、モロッコに注意喚起、イスラム過激派がテロ計画(Travel Vision 2017.2.9)

2017.5.23

イスラム圏に出かける旅行者だけでなく、ラマダン月は要注意!
ISのテロが5月27日からのラマダーン月に起きるかもしれない(Newsweek 2017.5.23)

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